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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第二章 戦争の予兆
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第87話 自己嫌悪と偽善

 リベルは、今ここで自分が質問をすることに大して意味がないことを、直後に理解した。

 解放された後に獣人が何をしようとしているのかは関係なく、リベルは結局のところ、この国の奴隷のシステムを壊そうとする。

 あるいは、壊したいと思っている。

 なら、ここで何と答えようと、それはリベルの行動を決定付けるものにはなりえない。


(あまり良い質問じゃないな、これは)


 リベルの問いに応えようと考えこむ獣人たちを見ていると、リベルはそう思った。

 ここにいる人たちが優しい獣人であることは、リベルもなんとなくわかっている。

 そんな人たちにこの質問をするのは、あまり良いことではない。


(本当に、こういう時に性格が悪いのが出るのは、自分でもどうかなって思うよ)

『自己嫌悪ですか?』


 リベルは独り言のように、しかしそれでもソフィーに聞いてほしいと思いながら思った。

 それへの返答は、まさに今のリベルを指していた。


(自己嫌悪、ね……。僕は自己嫌悪が好きじゃないんだけどね)

『珍しいことを言いますね。確かに気分は良くないですが、リベルが言うと、他の人とは違う意味に聞こえてきます』

(僕はそんなに変わった人間かな?)

『少なくとも、生前の私の周りにはいなかったタイプに思います』

(何十年もの長い間の経験なら、ある程度の説得力はあるか……。面倒だな~)

『面倒ですかね。私にしてみれば、リベルの方がよっぽど面倒だと思いますけど?』


 ここまで後ろにいるソフィーの方を向かずに会話していたリベルだが、ちらりとソフィーを一瞥した。


『どうせ、自己嫌悪が嫌いな理由も、そういう面倒なところだと予想しますけど』


 自信ありげに言うソフィーの口調は、このレストランの雰囲気に合わず軽やかだ。

 いつもそんな感じがしているが、こういう場面では余計に軽やかに聞こえる。

 リベルはそのことと、勘のいいところ、心の中でその二つにため息を吐いた。


(自分で認識するのもなんだけど、考えてみるとそうかもしれないのが、嫌なところだ)

『リベルは、一体自己嫌悪をどのように捉えてるんですか?』

(どのように、か。言い方は悪いけど、僕は自己嫌悪は偽善行為の一種なんじゃないかなって思うんだよ)

『偽善?何か良いことをしているわけではないのに?』

(自己嫌悪は、結局のところ、自分のある部分が嫌いということだ。それは、自分が清く正しい人間でありたいからこそ、そうでない部分が嫌になり、そして自己嫌悪)


 リベルの答えは、案の定ソフィーの考えた通り、面倒な考え方だった。

 そして性質が悪いことに、納得してしまう部分を含んでいる。


『ですが、その理論だと、リベルが自己嫌悪が嫌いだということも、偽善と同じようなことになるのではないですか?』

(そうかもね。だからこそ、僕は自分の善を押しつけるようなことはしたくないし、自分が偽善であることをわかって善を行う)

『おっ!なんか、かっこいい』

(意識したわけじゃないんだけど……)

『他人の感受性とはそういうものですよ。それより、私から見れば、今はリベルが自分で嫌う自己嫌悪をしているわけですが、それについてはどう思いますか?』


 逸れていた話を元に戻したソフィーに、リベルは内心で感謝しつつ、その問いに答える。

 本来なら絶対に答えなくてはならないような問いではないのだが、リベルは今は答えたいと思った。

 その行為が、リベルが自分で定義する偽善だとわかっていても。


(……別に、自分で自己嫌悪していても、何も変わらないよ。嫌ってはいても、どこまでも付き合っていくのが自分自身というものだし、その行為が人間らしいものなら、嫌っていても同じような行動はとってしまう。結局、その嫌っているということを受け入れるしかないね)

『そういう風に割り切るのは嫌いではないですが、無理してませんか?その自己嫌悪だって、言ってみればリベルが気にするようなことではなく、当人たちの問題でしょう?』

(それはそうかもだけど……)


 ソフィーの言うリベルの自己嫌悪とは、優しい獣人たちに、自分たちの感情を抑える必要がある質問をしたことだ。

 この先何をしたいかは、大きく分けて二つ。

 人間族と敵対関係となるか、そうはならないか。

 友好関係はさすがにあり得ない。

 そこまで感情を完全に制御してのけられるほど、軽い人生ではないはずだ、とリベルは思っていた。

 ゆえに、リベルの考えるギリギリのラインが、お互い不干渉でいること。

 逆に感情を爆発させるとなると、人間族と獣人族とで戦いが起こる。

 リベルたちは実際に戦いを起こそうとするが、それはあくまで解放のための戦いであって、解放後にやるのとでは意味合いが大きく異なってくる。

 どちらの選択をしようと、リベルは考えは変えない。

 初めから解放するつもりだ。

 自分で言った、強引な手立てもあることだし、不可能ではない。

 ただ、その先に何が起こるのかは、可能性として考慮しておきたい。


「……答えは……やはり難しいですか……」


 リベルが獣人たちそれぞれの表情を見ると、それは明らかだった。

 直前にあんなという少女の話をしたことも、不可抗力として関係しているだろう。

 その状況を作っているのが自分であるというのがわかっていても、リベルはこの光景に胸を痛め、同時に微笑ましく思った。


(こういう所も、性格が悪いのかな、僕は)

『いえ、むしろ好感が持てますよ。その真意がわかれば』

(その条件が大変だから、性格が悪いということだよ)


 リベルにとって、獣人たちが決断できないということに、二つの意味で敬意すら表していた。

 まず一つは、自分たちの感情をしっかりとわかっていること。

 支配され続けると自分が本当にしたいことがわからなくなってしまうことがあるということを、知識としてリベルは知っていた。

 ここにいる獣人たちは決してそのようなことはなく、自分たちの怒りという感情をわかっている。

 二つ目は、仲間のことも考えていること。

 下手な行動をして、大切な仲間を失うわけにはいかないということだ。

 たとえそれが顔も名前も知らない相手だとしても、そんな不特定多数の獣人族というくくりの中の仲間を意識して、感情を抑えようとする。

 これらの二つのことが、リベルには良いものだと思えた。


「皆さん全員が、それぞれ考えたことでしょう。いくつか考えが浮かび、それと同時にそうなってほしくない理由が浮かび、どうすればいいかがわからなくなっている、ということでしょうか」


 リベルは問いかけるが、獣人たちは答えない。

 リベルも答えを期待しての問いではなかったので、気にせずに続ける。


「そうして浮かんでは廃棄していった考えですが、それについては別に聞きません。はっきり言って、あまり気にもしていないです。獣人たちが解放された後に何が起こるかは、もうその時々に依りますね。ですから、今から考えを固めても仕方ないですし、ぶっちゃけて言えば、僕らは獣人たちの行動に関しては完全に部外者ですから、聞いたところでどうにもしませんよ。あくまで、今の段階では、ですが……」

「……言い方がさっきと同じで、かなりきついんじゃないか?」

「そこを隠さない方が良いと思っただけですよ。まぁ、別にその言い方に誇張とかはないです。抑えてる部分はあるかもですけど」

「つまり、本音はもう少し過激だと?」

「自分ではそう思ってますよ。それでも、僕が獣人たちの奴隷を解放したいというのに、嘘はありませんが」

「それを信用しろと?」


 女主人の言葉に、リベルは首を横に振った。


「信用しろなんて言ってませんし、言うつもりは全くありません。僕は自分が正義の味方だとは思っていませんし、善人だとも思っていません。ただ単に、僕が気に入らないというのが六割と、仲間がもうすでに始めてしまっているというが二割、残りの二割が獣人を助けたいという感情です。そういう心持ちでやっているので、僕はあなたたちに信用しろなんて言いません。無責任かもしれませんが、自由にしてくださいとは言いますが……。そうしてくれるのなら、僕らは動くのが楽なんですよ」


 そう言って悲しそうな笑みを浮かべるリベルに、獣人たちは困惑して周りを見合いながらも、渋々といった様子で頷いた。

 そうしてリベルの期待通りの結果となったが、それは余計にリベルの自己嫌悪を加速させた。


(自分が善人じゃないなんて言うのは……保身のため、かな……)


 この問いは、先ほどソフィーの教わったようにして心の声を遮断して、ソフィーに聞こえないようにした。

 それが完璧だったかどうかはともかく、ソフィーからは何も返答はなく、単なる自分への問いとなった。

最近、戦闘シーンの登場があまりないですね。

毎日毎日書いている身としては、最後に戦闘があったのは、随分前のように感じてしまいます。

そして、書き始めてからまだ二カ月しか経っていないというのも、感覚的におかしな気がします。

自分としては、もっと長く感じてしまいます。


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