第82話 王宮探査
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今頃、リベルが呆れているということに気付いていないグレンは、魔法で身を隠して、転移でエクリア王国の王宮内にいた。
驚異的な探知能力でリベルには居場所は気付かれているのだが、王宮内で堂々と歩いても他には誰も気づかない。
魔法や軍などの国としての戦力はシュトリーゼ王国よりも劣るため、魔法で隠密しているグレンの居場所を探知できるものがいないのだ。
もしかしたら、一人か二人はいるかもしれないが、現状そういう人の気配はしていない。
グレンはただ王宮に侵入するのではなく、リベルが目を付けた首飾り、そして獣人の奴隷化に関する資料や施設を探したいのだ。
当然のことながら、それらはこの国の最高機密の一つである。
そう簡単に見つかることはない。
首飾りの正確なシステムに関わることができるのは、この王宮内においても数少ないはず。
探査魔法を使えば見つけられる可能性はあるが、万が一ということもある。
探査魔法は周囲に振動を放って調べる魔法であり、その波がどう通って、どう反射するのかで調べるのだ。
普通なら感知することすら難しい振動は、魔法にたけた人物であるなら、逆に探知することも不可能ではない。
ここでもしかしたらの事態を起こしてリベルに迷惑をかけるわけにはいかなかったので、比較的に安全な、姿を隠して自分の足で探すという手段を取っている。
この隠密の魔法の良いところは、姿だけでなく声や足音すらも隠すことができるところにある。
これで気配を探られることは、あまりない。
「まぁ、これだけやっても、何だかリベルには気付かれる気がするんだよな~。あいつ、何だかんだで感覚が鋭いし、こっちの行動を読んでそうだし。戦わないくせに、地味に優秀なんだよな」
純粋な戦闘力はあきらかにグレンの方が高いが、<ハーモニクス>のことを差し引いても、グレンはリベルに劣っているところが多々あるように思えてしまっている。
客観的に見れば、総合的にどちらが優秀なのかは一目瞭然でグレンなのだが、目立つ一部分でリベルが勝るのが、グレンに劣等感を抱かせる要因になっているのかもしれなかった。
「まぁ、アグニも黒蛇も退けてるからな、あいつは。いわゆる、いいとこ取りか。今回の件も、俺の方が多く仕事しても、途中からあいつが入ってきたら、また横取りされそうだな」
王宮内で堂々と、時々通る人たちを避けながら、グレンはそんな予想を立てる。
昔の自分ではありえなかったことに、グレンは自分で自分がおかしくなった。
「まったく、この俺にここまで言わせるあたり、尋常じゃないんだよな~。俺も変わったが、あいつのあれは神の子や<ハーモニクス>以前に、素であれなんだろうな」
この先もリベルと一緒にいれば、面倒ごとが起こっていくだろうとグレンは思っている。
それを迷惑とは思っておらず、むしろそれを解決できるのは良いことだと感じている。
もっとも、リベルの方もグレンといると面倒に巻き込まれると思っているのを、グレンは知らない。
とにもかくにも、王宮内を見て回っているが、さすがに王宮というだけあって広さはかなりあって、普通に見て回っているだけでは時間がかかりすぎてしまう。
リベルたちには暗くなる前に宿に戻るように言った手前、グレン自身も暗くなる前に戻った方がいいのだが、このペースでは何も手掛かりを掴めないまま終わってしまう可能性が高い。
それを認識したグレンは、一つため息を吐いた。
「はぁ~。面倒なことになるのは、できれば先送りにしたかったんだがな……使って調べて直後に転移で逃げれば、それでいいか」
最近、使う機会がかなり増えてきた探査の魔法。
今回に限ってはチャンスは一回。
しかも、王宮内という本来ならグレンには立ち入りすら許されていない場所だ。
一応、大義名分はあるとはいえ、所詮他国の問題。
無関係のことだとか、知らないことだとかでしらを切られたら、今のグレンにはどうにもできない。
事実として、グレンは獣人たちの代表として動いているわけではなく、あくまでリベルのために独断で動いている。
もちろん、獣人の迫害に何も思うところがないわけではないのだが、優先順位の問題だ。
どちらにしても、グレンの言うことには説得力が持てない。
純粋な力を持っていても、それだけで事が全てうまくいくわけではないし、グレンでも一国の全てを敵に回して平然としていられるほど、悠長でもない。
宣戦布告は、もっとちゃんとした準備をしてから。
ゆえに、慎重に、かつ迅速に事を行う。
ギリギリまで探査の魔法を使い続ける。
しかし、当然それを察知する者は現れるはず。
だからこそ、その察知する者にグレンという存在が勘付かれる直前に、この場から去る。
ここまで使ってきた探査とは、今回は意味合いが違う。
ここ最近では、あまりなかったことだ。
リベルの両親、キリルスとミシュアに助けられるよりももっと前、自分でも詳しくは覚えていないくらい前の時に使った時以来の使い方だ。
久々のことで、グレンは少し緊張していた。
「まったく、この俺がこんなちまちましたことをするなんて、昔じゃそんなになかったな。前はもっと堂々としていたってのに。これも年を重ねた結果かな」
言っていることは中年か老人のものだが、見た目が二十代のグレンが言っても、その言葉は単なる比喩的なものにしか思えない。
それでも、その言葉には実感がこもっていた。
「さてと……誰にも気づかれないのがベストなんだが、それはさすがに高望み。高すぎる希望は、叶わなかった時のがっかり感がひどいからな。期待はするが、賭けはしない。出来ることだけやっていこう。今の俺じゃ、精一杯やるのがお似合いだ」
こういう自分を低く見ることも、昔のグレンにはなかったことなのだ。
結局、人は変わるということだ。
誰であっても、良い方向にも、悪い方向にも。
それらの方向を、人の意思でもってどれだけ良い方向に向けて行けるのかが、大事なのだ。
「よし……そんじゃ、始めるか」
グレンは王宮の玄関らしきところにたどり着くと、その場で両手を合わせ、目を閉じた。
両手を通して体中に魔力を循環させていく。
これはいわば、魔法を使う前の準備運動のようなもの。
最近こうすることを覚え、大規模なことをやる前に少し余裕があったら、こうして魔力を循環させて神経を解きほぐすようにしている。
こうすると、魔力や魔法に関する感覚が鋭敏になっていく。
そして、目を閉じていても、大気中の魔力の微細な動き、性質の変化、融合、共鳴、消失などで、周囲の空間の状況を把握していく。
これでも十分に視野は広がっているが、まだ圧倒的に足りない。
本番はここから。
循環させている魔力を、会わせている掌に集めていく。
魔法で隠密しているので誰にも見えないが、見えていれば、グレンの手元が淡く白く輝いているのがわかり、非常にきれいだった。
グレンはある程度の魔力を集めたのを確認すると、息をそっと吐いた。
「こんくらいなら、王宮全体は十分か……」
今グレンが凝縮している魔力は密度が高く、魔法で隠密していても、感じることができる人は高密度の魔力の塊を感じてしまう。
ゆえに、ここからはスピード勝負。
相手が気付くか、こちらがその前に見つけるか。
「……発動……」
グレンは自分を中心として球状に、手元の魔力を広げていった。
鋭敏化した知覚では、今まで以上に鮮明に探査することができ、探査にかかっている人や物の状態まで把握できている。
今のところ、グレンの魔法に気付いている様子を見せる者はいない。
そのまま探査を続けていき、グレンは地下の方へ意識を集中させる。
一応上方向も気にしてはいるが、あまり期待はしていない。
どこの国も、最高機密はあまり日の光が当たるような場所には置いていないはず、予想があった。
下へ下へと探査を広げていくグレン。
その知覚に少数の人間が映り、グレンはその瞬間に気付いた。
この人たちはただ者ではない、と。
その予感は正しく、その内の一人がグレンの探査に気付いたように顔を上げた。
そして、それと同時にグレンは口元に笑みを浮かべた。
「……見つけた」
グレンは当初の予定通り、相手に気付かれた瞬間に、転移でその場を後にした。




