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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第一章 旅立ち、そして新たな日々
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第7話 王都へ

評価&ブックマークしてくれた方、ありがとうございます!

 グレンの転移魔法でリンベルへと到着したリベルたちは、情報収取という名目で町を散策していた。王都と言うだけあって、その活気はリベルの住むナルゼとは比べ物にならないほどだった。

 まずはその迫力に圧倒されるリベルは、田舎者らしく辺りをキョロキョロ見ながら歩いていた。

 ただでさえ目立つ銀髪の少年がそんな不審な行動をしていたら注目を集めるのは当然で、様々な人がリベルへと軽く視線を送っていた。


「ほらよ」


 後ろから急に何かをかぶせられ、驚いたリベルが見上げてみるとそこには帽子のつばが見えた。

 振り返ってみると、グレンが呆れた表情でリベルを見返していた。


「お前は目立つんだから、こんくらい持ってきとけよ」

「こうなるとは思ってなかったし……ていうか、これどうしたの?」

「用心として俺用に持ってきてたんだがな、何かお前を見てるとこっちがひやひやする」

「君は僕の保護者かっての」

「普通ここは感謝の言葉だろ?」

「どうもありがとうございました」

「慇懃無礼だな」

「深読みしすぎ」


 そんな言い合いをしながら歩いていると、二人はようやく人で溢れかえる場所から抜け出した。それでもまだ人は多いが、先ほどの場所よりはいくらかマシで、少なくとも人と人がそうそうぶつかることはないくらいだ。

 道の中央から脇へ逸れた二人は、これからについて話した。


「で、グレンには何か考えがあるの?」

「一応、お前が主導なんだが」

「と言っても、僕は王都に来たことはないから、どうすればいいかがわかんないんだよね。グレンは何度か来たことあるはずでしょ?」

「それはそうだが、俺だって情報収集が得意ってわけじゃない」

「それでも感覚でわかんない?ほら、戦争予告の時みたいに勘で」

「出来たら苦労はねぇよ。大体、町の連中になんて聞くつもりだよ?」

「う~ん、もうすぐ戦争が始まりますか、とか?」

「お前一人じゃ確実に牢屋行きだな」


 リベルの常識の無さとマイペースに頭を抱えたグレンは、リベルに任せたら危ないと思って考え始めた。いくら何でも、こんな何も始まっていないような時に面倒は起こしたくなかった。


(だがな、実際誰にどうやって聞けばいいもんかね。ただの住人に聞いたところで、それは無意味。わかるわけもない。むしろ通報されかねない。それはダメだ。だったら、特定の情報に通じてそうな職業の奴に、さりげなく聞くか?それが一番良さそうだが。そういう職業と言えば、人が良く集まる場所で働く感じの。さっきの所とかはなかなか人が多かったが、残念なことにあれじゃ多すぎる。他の奴に聞かれたら怪しまれるかもしれねぇ。ベストなのは、人が集まるがそこまでの数ではなく、話しやすそうな奴。そんな都合の良い奴が簡単に見つかるとも思えないが。まぁ、方針みたいなのができたのは良かった。こっからは虱潰しだな。ひとまず、王道でどっかの酒場なんかに)


「おーい、グレン、こっちに来てみなよ!」

「あぁ、わかった……って、何でそんなとこに行ってんだよ!」


 考え中だったグレンはリベルの声のした方へ向いたが、さっきまでグレンの傍にいたリベルはいつの間にか遠くのなんか変なところにいた。

 グレンは怒鳴りながらも、流れる人をかき分けて、道の反対側にいるリベルの所へ着いた。

 そのグレンが目にしたのは、『占い』の文字だった。


「お前、まさか……」

「うん、ここで占ってもらおうと思って」

「それは最終手段だろ」

「ほら、案外近場でこんなところがあったんだから、もしかしたら運命的な出会いかも」

「だが、先にもっと確実そうなところで話を聞いてだな」

「ほらほら、さっき聞いたら特別に一回だけ無料でやってくれるって言うからさ、このチャンスは逃すべきじゃないよ」

「………………」

「ほら、チャンスはものにしてこそ意味を成すってね」

「……結局、お前が個人的に占ってほしいだけだろ」

「そ、そそ、そんなことは、ないと、思いたい、なぁ……」

「誤魔化すならもっとうまくやれ」


 グレンは何のために王都まで来たのか疑いたくなるリベルにため息をつき、面倒くさそうな顔をした。


「やってほしいんなら、とっとと済ませろよ」

「おぉ、ありがとう。許可してくれなかったら、肉体労働を課そうかと思ってたんだよねぇ。チャラになって良かったね」

「何か立場が逆転してね?なんで俺がラッキーみたいになってんの?」

「細かいことは気にしない。それじゃあ、占い師の人、さっきお願いしたように占ってよ」


 リベルが占い師の前に置かれている椅子へと座ってお願いする

 その占い師はフードを深くかぶっていて顔は良く見えなかったが、どうやら老婆のようだ。典型的な、ザ・占い師みたいな感じだ。

 占い師は台に置いてある球体の水晶に手をかざすと、リベルへと占い内容の確認をした。


「確かそこの美男子の将来について占う、で良かったかな」

「はい、お願いしますって、いたいいたい!!」


 リベルの後ろからグレンがその頭を帽子ごと強く握っていた。


「お前は何をお願いしてるんだ?」

「いや、僕じゃないから!そこの占い師さんの悪ノリだから!」

「そんな馬鹿な話が」

「すまないね、そんなに怒るとは思っていなかった」

「あるのかよ」


 呆れて怒る気が失せたグレンはリベルの頭から手を放した。

 リベルは相当痛かったのか、手を放されてもしばらく呻いていた。


「占うんだったらとっととやれ。これ以上ふざけたら逆に金をもらうぞ」

「わかった。それでは、本当の方の願いで占うとするか。少年はこの水晶の上に手をかざしてくれ」

「こう?」


 まだ痛む頭を左手で押さえながら、リベルは右手を水晶の上にかざす。

 すると、透明な水晶に色が付き、中をうねうねと動き回る色が出てきた。

 その色は、虹。

 いくつもの色が合わさり、離れ、幻想的な色合いを水晶の所々に出していた。

 その様子を見た占い師は、驚きのあまり息を呑んだ。

 しばらくすると、それらの虹色は消え失せ、元の透明な水晶へと戻った。これで終わりと何となくわかったので、リベルはかざしていた手を引いた。


「これは非常に読みづらい」

「どういうこと?」

「お主の星は非常に不安定だ。星は確かに見えるのに、見ようとすればするほど見えなくなる。逆に見ようとしなければよく見えてくる」

「つまり、どゆこと?」

「つまり、お主の未来は推測することができん。予知ができないのでは、そういう他ない」

「そんな……せっかく」

「すまないな、ちゃんと調べてやりたかったが、ここまでしかできない。占いに期待していたところ悪いな」

「せっかくの、初めての占いだったのに」

「そこかよ!」


 背後でリベルの落胆の理由に突っ込んだのは、リベルと占い師に弄ばれたグレン。

 本来なら期待した答えが出なかったことに落胆するが、リベルはそもそも初めての占いがこうなったことに落胆している。どこまでも、初めてに拘っていた。


「どこまでもマイペースだな、おい」

「そう言われてもねぇ」

「そうだ。占いをしっかりとできなかったお詫びに、お主たちが聞きたいことに答えてやろう」

「マジか!」

「本当にいいの!?」

「あぁ、推察するにこの国の今の情勢、みたいなところが聞きたいのではないかな?」

「すごいね。さすがは占い師ってことか」

「おだてても何も出んぞ?ほい」

「ほい、とか言ってお菓子を渡すな!俺らは子供じゃねぇ。何も出さないとか言ってなかったか!?それに、リベルも何ちゃっかりと普通にもらってんだよ!」

「グレンは小さいなぁ」

「これが噂の無駄イケメンとかいう奴なのかね?これでは女が寄り付かない」

「どっちも失礼だな、おい!」


 この二人はことあるごとにグレンへの攻撃を仕掛けている。グレンはこの理不尽に真っ向から怒鳴り散らしていた。

 そして占い師は気を取り直して、リベルたちに話した。

 これからこの国で行われることを。


              ♢♢♢


 リベルたちが王都に到着する少し前、町を見て回っていたクレアは、道の端で占いをしている占い師を見かけた。


(あまり信じてないけど……初任務だし、こういうのも悪くないわよね)


 自分をそう納得させて、若干緊張しながらもクレアは占い師の老婆へと声をかけた。


「すみません、占いをお願いしたいんですけど」

「おぉ、そうか。それじゃあ、一回銀貨十枚枚でどうかな?」


 銀貨はこの世界における共通通貨で、種類としては銅貨、銀貨、金貨、超金貨の四種類がある。

 銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、そして金貨百枚で超金貨一枚。

 もっとも、超金貨は国政でしか使われない通貨で、市場には出回っていない。

 この占い師が提示した銀貨十枚というのは、どこかのホテルで一泊はできるくらいの料金。

 つまり、占い一回にしては。


「高っ!!」


 即答で反応したクレアに、占い師はクスクスと笑った。


「冗談だよ。占い一回で銀貨十枚など、常識外れにもほどがある」

「で、ですよねぇ。かなり焦った」

「その焦ったお詫びとして、一回だけ無料で占ってあげよう」

「そうですか。まぁ、そう言っていただけるなら、お願いします」


 クレアはそう言って、占い師の前の席に腰掛ける。

 占い師はそんなクレアに手で水晶を示した。


「この水晶の上に手をかざしてください。その際にあなたの願い事を強く思い浮かべてください。そうして水晶に現れるものを見て、私があなたの願い事に関することを占いましょう」

「わかりました」


 クレアは自身の手を水晶の上にかざした。

 すると、水晶は赤く染まり、その濃淡が所々で渦を巻くように流れていた。それはまるで、血のようにも見えた。

 占い師の目がすっと細められ、赤く染まった水晶を凝視する。

 クレアがその目に自分の全てが見えてしまっているのではないか、と思えるほどにその目にはただならぬ気配があった。

 しばらくすると、その気配は薄れ、それと同時に水晶を染めていた赤も徐々に薄まっていき、消えた。


「もう手は戻して結構ですよ、勇者様」

「っ!?」


 クレアは咄嗟に席を立って、その老婆から距離を取った。

 そして下がりながら腰にある剣を抜こうとして、しかしそこには剣はなかった。そのことで落ち着きを取り戻したクレアは、鋭い視線を占い師へと向けた。


「どうして、私が勇者だとわかったのですか?」

「あなたの星がそうだと言っていますので」

「星?」

「あなたの運命とも言えます。星とはその人の存在すべてを表すものなのです」

「すべて……つまり、それを見たから私が勇者だとわかったと?」

「その通りです。ですがご安心ください。このことを他言するようなことは致しません。約束しましょう。ですから、席に戻ってはいただけませんかね。占いの結果を申し上げます」

「……わかりました」


 渋々といった様子で、クレアは席へと戻る。

 普段の彼女なら正体を言い当てられたくらいで動揺するとは思えなかったが、今は自分で理解している以上に気が立っているようだった。

 そんなクレアが席に着くのを確認すると、占い師は見たことを言う。


「あなた様が願ったこの先の成功、についてですが、それについてはご安心ください。星では失敗するとは出ていません」

「そうですか」

「ですが、一つだけあなた様に関わる読めない星が一つありました。それが誰の星なのかはわかりませんが、その何者かがその先というものに関わってくることは間違いないでしょう」

「読めない星……。もっと具体的に分からないんですか?」

「申し訳ありません。これ以上のことは。ですが、成功することは私の予知が保証しましょう」

「あまり信じてないものに保証されても……でもまぁ、始まる前に良いことが聞けたのは良かったです。ありがとうございました」


 そう言って席を立ったクレアは、占い師に一礼してその場を去っていった。

 その勇者を、占い師は人ごみに見えなくなるまで見ていた。

 その表情にあるのは、不気味な愉悦だった。

 そして次の日には、その占い師は忽然と消えていたが、そのことを気に留める者などいなかった。

 アグニ討伐計画まで、あと二日。

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