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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第二章 戦争の予兆
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第74話 何か怒ってる

 グレンとソフィーが言い合いをしているのを、聞き流して外を見ていると、リベルは少し疑問に思うところがあった。


「ねぇ、グレン、聞いていい?」


 言い合いの真っ最中のグレンに、リベルは気の抜けたような声で尋ねる。

 リベルとしては、それでも普通に聞いていて、特に興味がないわけでもなく、むしろ興味があることだった。

 しかし、他のことに意識を使っているグレンには、そんなことはわからない。


「後にしろ!今はこいつに言いたいことがある!」

『私の方もです!少し邪魔しないでください!』


 そりが合わない最中のはずの二人が、今回は息を合わせて、二人してリベルの要求を弾いてきた。

 いつものリベルならここは引き下がって、二人の気が済むまで待っても良かった。

 こういう落ち着いているような場所では、二人の言い争いも、傍観者として聞き流せる。

 自分の心の中でツッコミを入れるくらいだ。

 だが、この時のリベルは少し違った。

 二人に弾かれたことで、妙にイラッときたリベルは、立ち上がって、横を向いているグレンの肩をちょんちょんと軽くたたいた。


「あぁ?後にしろって言ったろって、わあぁぁぁぁ!?」


 グレンが振り向くと、そこには真顔で光の困らない目でリベルがそこにいた。

 その様子に、そばにいたソフィーも小さく声を上げた。

 そして、リベルはグレンの肩に手を置いて言った。


「いいから、聞け」

「はい」


 普通にリベルは言っているつもりだったのだが、それを聞いているグレンとソフィーには、それがとてもゆっくりと恐ろしさを持っているように聞こえていた。

 真顔ではあるが、怒っているということがわかる。

 反論する余地なく、即答で頷かされたグレンは、リベルに連れられて窓際まで来た。


「聞きたいことっていうのはさ、この町って、同じような飾りを首に付けているような気がするんだけど、あれらは何なの?」

「ん?」


 リベルが指差す外の通りをグレンが覗き込むように目を凝らしてみると、確かにリベルの言うように、同じようなものを多くの人が首に付けている。

 黒光りするそれは、多くの人が付けていると、確かに目立っていた。


「さっきの宿の銀髪の子も付けてたんだけど、あれはどういうことなのかな?」


 飾りを付けているのは、大体全体の半分くらいだろう。


「あぁ、確かに首輪がついてんなぁ。だが、それがどうした?この辺りの風習だろ、どうせ。気にするようなものでもないだろ」


 そう言って窓から離れて興味ないという反応をするグレン。


「でもさ、さっきの」

「別にいいだろ、別に。大したことじゃねぇよ」

「でも」

「さてと、再開と言いたいところだが、何かしらけちまった。俺はしばらく休んでる。町中を見たいんなら、外に出てもいいぞ。ソフィーがいれば問題ないだろ」

『私ですか!?何で私が!』

「リベルを頼むぞ。お前にとっても、重要な奴だろ」

『それはそうですが…………わかりました。しっかりと面倒は見ます』

「じゃあ、よろしく頼むぞ」


 グレンはそのままベッドに倒れこんで、すぐに眠ってしまった。

 本当にあとは任せるという感じだ。


「……ソフィー、外に出よう。何か歩きたいし」

『そ、そうですか。わかりました』


 何だか静かに、しかし重く感じるリベルの言葉に、ソフィーはたじろいだが、部屋を出て行くリベルに続いて、その後ろについて行った。


「……はぁ~~~~~~~~~~」


 部屋を出るや否や、そんな長く長いため息を吐いたリベルの様子からは、何か苛立ちがあるように見えた。

 ソフィーは、先ほどの怖いリベルのこともあったので、恐る恐るリベルの隣に着て尋ねた。


『ど、どうかされましたか?』

「は?」


 ソフィーの方を振り向いてぶっきらぼうに言ったそれは、いつもの温厚な様子からは正反対とも言えるくらいに暴力的に見えた。

 そのギャップに驚いたソフィーは、すすっとリベルから少し距離を取った。

 それを見て、リベルは我に返って急に慌てだした。


「ご、ごめん。別に何が不機嫌だったとかじゃなくてね……えっと……そう。ちょっと考え事をしていて、うまく対応できなかっただけだよ」

『ですが、その前の長いため息は、グレンに対する苛立ちではないのですか?』

「うん。それは認める。さっきは本当にグレンに本気であり得ないくらいすっごくものすごくイラついたけど、でも、今はもう落ち着いた」


 すらすらと並びたてるリベルに、ソフィーは少し戦慄した。

 純粋な戦闘能力で言えばグレンよりも圧倒的に劣っているというのに、リベルが<ハーモニクス>をしっかりと使えるようになる前からずっと、頭が上がらないというのも、納得できる部分があった。


『えっと、落ち着いているようには見えないですが……それはいいです。それよりも、考え事をしていたんですよね?一体何を?もしかして、先ほど気にしていた首の飾りの件ですか?グレンは風習か何かだと切り捨てましたが、リベルは違う考えですか?』

「うん、まぁね。何となくだけど、嫌な感じがする」

『それは何か根拠でも?』


 ソフィーの問いに、リベルは首を横に振った。


「ううん、全くないよ。ただ、あの黒い色が不吉な感じがする、かな」

『あぁ、確かに待ちゆく人たちの半数位が黒い首飾りを付けていたら、意識して見れば不気味ですからね』

「そうだね。でも、強いて気になる所を挙げるとすれば、銀髪の子がいたあの宿、あそこのオーナーみたいな人、いたでしょ?」

『あの大きな男のことですか?はい、いましたね』


 リベルたちを追い出したその人のことを、リベルは思い出していた。


「あの人は首飾りをはついていなかったと思うんだよね」

『そう、ですか?』

「そうだよ。ついてなかった。銀髪の子と違ってたし」

『確かに、言われてみればそんな感じはしますね。ですが、それがどうしたんですか?ただ単に、首飾りを付けていないだけですよね?どうしてそう気になるんですか?』


 ただの付けていない人なら、気にすることはない。

 グレンの考え通り、風習なのだとしたら、その風習に従っていないだけ。

 そうであったとしても、リベルたちに被害は何もないし、関りもない。

 ソフィーは、気にするだけ無駄に思えた。


「そうだね。気になる、かな。まぁ、他の国に来るのは初めてだから、興奮しているのかもね。それでいろいろ目に付くのかもしれない」


 そう言って笑みを向けるリベルに、ソフィーは半眼で返した。


『へぇ~、興奮していろいろと目につく、ですか。そういうので首飾りのありなしに気が付くんですね』

「え?えっと、まぁ、そうなるのかな?」

『へぇ~、それで銀髪の子に興味が出たと?そりゃ、自分と同じ髪色の子ですから、気にもなりますよね』

「えっと、何か話が変なところに言ってる気がするんだけど、僕の気のせいかな?」

『いえいえ、別にそんなことはありませんよ。思えば、オーリン村でも女の子を助けるのがありましたよね?結局はそうなんですか?』

「ごめん。言ってる意味がよくわからないんだけど」


 リベルはソフィーの言うことが、全く理解できなかった。

 少し怒っているようには見えたが、そこからがわからない。

 グレンも時々リベルの言うことがわからないと言うが、今と同じような感覚なのだろうか、とリベルは思った。


(これは非常に面倒だな。もっとも、それがわかったからって、グレンのために配慮するのは、こっちのストレスになるからしないけど)


 相手のストレスは考えないらしさを思いつつ、困ったように苦笑いしていると、ソフィーが立ち止まっているリベルを置いて、宿の廊下を進んでしまっていた。


「ちょ、ソフィー。待ってくれてもいいでしょ」

『さっきから立ち止まっていたそちらが悪いんです。どうせ、銀髪の子のことを考えて、思いに耽っていたのでしょうね。あぁ、若さですね』

「いや、本当に意味がわからないんだけど」

『わからなければ、それまでだということです』

「何か僕の方が悪いの?」

『そうですよ!』


 そう怒鳴って、ソフィーは進む速度を上げた。

 リベルはそれに追いつこうと、気が引けたが走ることにした。


(首飾りを付けてない人、ね。見た感じだと、店のオーナーっぽい人はつけていなくて、従業員が大抵付けていたね。それに規則性があるのかな?)


 そんなことを考えつつも、リベルは宿の出入り口の所で、ようやくソフィーに追い付いた。

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