第70話 夢
今回からはリベルへと戻ります。
暗い暗い場所。
見覚えがないどころか、何も見えない。
「なんか、ちょっと前にも同じようなことがあった気がする」
何だか、こういういかにもまずい感じのする場所に、このひと月で何回遭遇しているのか。
数えられるが、数えない。
数えると、その時のことを思い出して、色々と考えてしまう。
「今は、これがどういうことなのかってことだね。前と同じことならいいんだけど」
前、とは、フォルトナを通じてリベルと意識がつながっているソフィーとリベルの共有空間。
その時は、そこには存在しない扉をイメージして作ることで、抜け出すことができた。
「でも、それならもう扉はできてるはずなんだけどなぁ。何だか、何もない感じ」
この場所でただ浮いているだけで、体は動かせそうにない。
何だか、意識がふわふわと不安定で、体に力が入らない。
「これはどういうことかな?前はすぐにソフィーが出てきて説明とかしてくれたんだけど……」
そう呟くリベルだが、何となくの予感からして、来るとは思えなかった。
「まぁ、この予感が外れることを祈りつつってことかな、これは。どうしたもんかな」
ここが前と同じ場所であるという推測はあるが、もう一つ、当然ながら別の推測もある。
推測とは呼べないものだが、それは前とは違う場所。
選択肢が二つともある今では、どう対処していいのやら、リベルには皆目見当がつかなかった。
「こういう時、グレンかソフィー、もしくはその両方がいてくれたら、頼ることができたのにな。初っ端から他力本願なのが情けないことだけど、こればっかりは人生経験が少ない僕には、パニックにならないだけ褒められてしかるべきだと思っちゃうんだけどね」
今の体が脱力しているリベルは、動くことができず、ただ考えることしかできない。
だが、考えようにも、ソフィーの記憶の旅で少しは知識を付けたリベルでも、こんな事態は考える材料がない。
こういう時に経験というものは役に立つのだが、生憎とリベルには経験が少ない。
あくまで濃いだけであって、様々な経験をしているとは言えない。
つまり、圧倒的に場数が足りていない。
これでは、何もできない。
「あぁ、考えるだけじゃなくて、一人おしゃべりもできるか……ていうのは、言うだけにしても、かなり精神的にくるなぁ。しんどい。虚しい」
リベルはもう何だかこの状況がどうでもよくなって、体だけでなく、心まで脱力しようかと思った時、リベルはひらめいた。
意識的に使うことが今まで数回しかなかったので、その存在すら忘れていた。
こういう危機的状況でこそ、忘れてはいけなかった。
「前の時の感覚が少し思い出せないけど、まぁ、何とかなるでしょ。<ハーモニクス>」
リベルが使える神属性魔法。
これがあれば、リベルが害悪と判断したものが、問答無用で消される。
(この方法を思いつかなかったのは、仕方ないと言えば仕方ないが、忘れちゃいけないことだったな)
リベルが唱えると、リベルの体を虹色の光が包み、そして消えた。
「あれ?」
光は確かに出て、魔法は発動した。
しかし、周囲の闇は一向に晴れない。
場所が変わった感覚もない。
何も変わっていない。
何も消されていない。
「どういうこと?これなら消せると思ったんだけど、何か条件が足りなかったとか?それとも僕の力不足?う~ん」
普段のリベルなら、ここで歩き回ったり頭を抱えたりデカン会えるところなのだが、今は体が動かないので、考えている最中だというのに、いかにも脱力してやる気なしに見えてしまう。
しかし、外見はそうでも、中では真剣だ。
「どうしたものか。<ハーモニクス>が意味を成さない。それはどういうことか。単純に考えれば、<ハーモニクス>が効かない場所、つまりは無意識で、それを消すことを拒んでいる、か?だとしたら、ここはソフィーと僕の共有空間ということになるけど、ソフィーが出てこないのはおかしい……いや、別におかしいというわけじゃないか。なにせ、ここに来たのは二回目だから、例とも経験とも呼べない。じゃあ、ここが共有空間だとして、なぜ僕がここにいるのか」
ここに来るのに、何の意味もないことはないはずだ。
前来たときわかったが、共有空間という空間ではあるが、それと同時に自分の意識から切り離されている場所でもある。
出入りがそう簡単にできるものでもない。
扉を以前作ったが、今考えてみれば、それがまだ残っている保証もない。
「まぁ、ここが共有空間としたら、どうしてここに入れたのか、か。何回か入ろうとして見たことはあったけど、どうしてもは入れなかったんだよね、あれはどうしてか。何か、改めて考えてみると、この状況は本当に面倒だな。どうにかして何かわからないと」
そこまでリベルが口にすると、急に世界が光で包まれた。
♢♢♢
リベルは何となく、自然に目を覚ました。
店をやっていた頃の習慣で、目覚ましがなくとも、毎朝自然と同じ時間に起きられるようになっていた。
体を起こして、両手を空へと伸ばして伸びをする。
これをやると、リベル的には脱力できて気持ちがいい。
ただ、リベルの失敗談としては、やりすぎると脱力がひどすぎる。
「うぅ~~~~~~~っと……はぁ、伸びた」
「随分と長い伸びだな」
リベルは振り返ると、そこにはグレンが立っていた。
その向こうを見ると、どうやら朝食の用意ができているらしく、テーブルの上に食べ物がのっていた。
テーブルは旅が始まってから毎度のようになっている、異次元倉庫方引っ張り出してきたもの。
大草原のど真ん中にポツンと一つだけテーブルがあると違和感があるが、それが木製なのがせめてもの救いだ。金属製であったら、違和感倍増だ。
「うん、伸びた。伸びすぎてもう疲れた」
「だったら、少しは調整しろ」
「途中で止めたら、気分が悪くなるでしょ?」
「同意を求められてもな。俺にはちょっとわからんが、仕方ないんじゃないか?」
「そうだね。そもそも、この脱力感は、しばらくすれば消えるし」
「だったら別にいいだろ。起きてさっさと朝食だ」
「うん、わかってる」
リベルは答えると起き上がり、グレンに続いてテーブルへと向かった。
そのテーブルには、二人分の朝食。
これを見ると、存在を忘れそうになる人がいる。
「おはよう、ソフィー」
朝食が置かれているところの前の席に腰を下ろすと、その隣の席に当たるテーブルに腰かけている金髪の幽霊にあいさつした。
『おはようございます、リベル。いい朝ですね』
「うん、そうだね。いい朝。晴れてるしね」
『そうです。今日はいい日になると思います』
「そんな朝の気分占い、みたいな?」
『そんな感じです』
「とっとと食べるぞ、いただきます」
「あ、うん。いただきます」
当然のことだが、幽霊にご飯はない。
ゆえに、こういう時、一人だけ暇になってしまうのがソフィーだ。
だからこそ、話の話題はあまり切らないようにした方がいい。
「そういえば、テーブルに座ってるのはどうして?物質には触れないんだよね?」
今テーブルに腰かけているソフィーは、実態に触れない幽霊とは思えなかった。
『あぁ、触れませんよ。それは変わりません。これはただ単に、浮いているだけです』
そう言うと、ソフィーはその体勢のまま、非常にスムーズに上下してみせた。
浮いているというのに納得のいくほどに。
「浮いているんだったら、どうして座っている風にしているんだ?」
『だって、二人が座っているのに、一人だけ立っているなんて、気まずいと思わないですか?』
「俺たち以外誰も見てないだろ」
『二人が見てるでしょう?その仲間外れ感は嫌ですね』
プイっとグレンから顔を背けてアピールしたソフィーは、リベルの表情が少し変なことに気付いた。
『どうかされましたか?』
覗き込むようにして尋ねるソフィーの顔が急に近くに見えたリベルは、驚いて後ろに倒れそうになった。
「ふぅ~、危なかった」
何とか踏み止まって、リベルはほっとした。
「おい、気を付けろよ」
「うん、ごめん」
「せっかくの朝食が台無しになる所だっただろ」
「そっち!?いや、まぁ、そっちでも謝ることに変わりはないけど……」
『それで、どうかされましたか?』
再度訪ねたソフィーに、リベルは今度は驚かなかった。
「ん?えっと、何だろう。何か、変な夢を見た気がする」
『夢、ですか』
「そう。まぁ、内容は覚えてない普通の夢だったと思うよ」
起きてから少し経ったら、夢の記憶はほとんどすべてなくなる。
そういうものだ。
何を書こうか本気で悩みます。
ということで、ありきたりなことを。
評価&ブックマーク、よろしくお願いします。
何だか、自分の書いた上の文章が、必死な懇願に見えます。構成の問題で。




