第69話 真・祝賀パーティー
「「「アグニ討伐おめでとう(ございます)!!!」」」
「へ?」
クレアがそこに入ると、国王や国政官、軍の人たち、王城に努める様々な人たちがクレアを迎えた。
あまりに予想外で突然のことに、クレアは先ほどまでの心臓の鼓動が吹き飛んで、しばらく頭が真っ白になった。
「ほら、さっさと行け」
シリウスが、ぼうっとしているクレアの背中を叩いて前に進ませると、クレアは勢いのままに少しずつ中に入っていった。
辺りをキョロキョロ見渡して、多くの人がいることを確認し、何かお祝であることがわかった。
そして、クレアが入った時に皆が言ったことが頭の中で繰り返される。
「アグニ討伐……」
「そうだ。これはお前のお祝い会だ。すごいだろ」
後ろでシリウスが自慢げにそう言うと、クレアは振り返って驚きからの反動で文句を言った。
「じゃあ、さっきの会議は嘘だったんですか?」
「その通り。お前を連れ出すための建前だ。あぁ、言えば絶対に出てくると思ったからな」
「それと、サプライズをしたかったの」
クレアの元に近づいて、アスティリアが言った。
「そういうことだ。一応、ヒントはあげたぞ。楽しみにしておけってな」
「それ、別の意味に捉えたんですけど」
「そうか?まぁ、いいじゃないか。結果良ければすべてよし」
「そっちが言うセリフじゃないですけど……まぁ、いいです。結果的に楽しめるのならそれでいいですよ。それで今回の脅し文句は水に流します」
クレアの言葉に、シリウスは苦い顔をした。
それがおかしくてクレアはクスリと笑ったが、そのクレアにアスティリアが一つ言った。
「じゃあ、水に流してくれたお礼で、王城脱走は水に流してあげる」
「本当にごめんなさい」
即答で頭を下げたクレアは、やはりアスティリアには逆らえないようだ。
その様子に、会場内では笑いが湧き出ていた。
♢♢♢
会場内がワイワイガヤガヤしている中で、クレアがアスティリアとともに食事をしていると、そこにラインヴォルトが近づいてきた。
「よっ、楽しんでるか?俺は楽しんでるぞ」
「それは見ればわかる。私も楽しんでるわよ。それにしても、あなたまで一枚噛んでいたなんて、何だか負けた気分よ」
「そうだろそうだろ」
「何か嫌だなぁ、これ」
「あぁ、クレア。違うわよ」
ラインヴォルトの自慢げに言うことに苛立ちを覚えたクレアに、アスティリアが笑いを含んだ表情で首を横に振った。
「違うって何が?」
「ラインヴォルトにも伝えてなかったのよ」
「ということは?」
「このパーティーのことを知らなかったのは、あなたとラインヴォルトってこと。彼もさっき知ったばかりよ」
「それはどうして?」
「聞かなくてもわかるでしょ?万が一あなたに知られたら、サプライズの意味がないのに、わざわざバレやすい人に教えないでしょ」
「それもそうね」
「二人揃ってヒドイ言い草だな、おい。否定はしないが」
「いや、いくら何でも自分では否定しなさいよ」
クレアのツッコミに、アスティリアはついに笑いをこらえきれなくなって、笑い出した。
「はははっ、やっぱりこういうのは良いわね」
「いいって何が?」
「こういう当たり前の日常が、よ」
「王城の中にいて日常も何もないと思うけど」
「そんなことはないわよ。これが日常よ」
「そうだぞ。俺たちにとっては、ここが家なんだからよ。これが日常だ」
ラインヴォルトの言うことはもっともだったが、それを彼から言われると馬鹿にされているような気がして、クレアはむっとした。
「ラインヴォルトは、日常の意味がわかってるの?」
「そこ来るか、普通!?何だか、俺がお前に呼び捨てを許してから、急に態度が悪くなってきたぞ!」
「それが世間というものよ。あなたよりもクレアの方が立場が上ということよ。幻想的にね」
「やべぇ、アスティリアの言うことの意味がわからねぇ」
「私はわかるわよ。つまり、心の中で相手を貶してるかどうかでしょ?」
「その通り!」
「ひでぇ!」
気持ちいいくらいにビシッとクレアに指を向けたアスティリアの行動は、ラインヴォルトにさらなる打撃を与えた。
そのままラインヴォルトはとぼとぼと二人の元を後にした。
何やら疲れ切ったような様子なので、どこかで休むのだろうか。
クレアたちにとっては、気にすることではないが。
「そうだ、クレア。聞きたいことだあったのよ、色々と」
「何?」
このパーティーの盛り上がっている空気のせいで、クレアの気は緩んでいた。
そこに一撃。
「抜け出した感想はどうだった?」
「ぶふっ!?」
ちょうど飲み物を飲んでいた最中だったので、それがのどに引っ掛かってむせた。
それで慌てているクレアの様子を、アスティリアは微笑ましそうに見ていた。
「ごほっ、ごほっ……いきなり、何でそんなことを聞くのよ?」
「話が切り出されるのはいつも急よ」
「そんなことを聞きたいんじゃなくて、何でそんな話題を出したのかってこと」
クレアが聞くと、アスティリアが笑顔を浮かべて、楽しそうにする。
「だってぇ、きらびやかな世界って気になるじゃない?」
「きらびやかな世界の中心に今、私たちは今いるんですが?」
「そんなの関係ないわ。隣の芝生は青く見える。隣の宝石は綺麗に見える、よ」
「いや、比べる対象を間違ってる。この城と比べられる人たちの気持ちも、考えてあげてください」
「だってぇ、羨ましいのは羨ましいんだもん」
「もん、って。子どもですか」
クレアが呆れてため息をついている目の前で、アスティリアはクレアも驚く暴挙のピースサインを繰り出した。
「は?えっと、これは何ですか?」
「私、華の十九歳!」
「見た目三十代の人が何言ってるんですか?しかも、十九が中途半端だし、私よりも年上設定にしてるし」
「だって年上よ?」
「わかってますよ。言ってみただけです」
「そう。それで、町はどんな感じ?私はクレアと違っておいそれと抜け出せないから、情報でしか知らないのよね。実際に味わってきた空気を、事務的ではなく感じたままを聞きたいわ」
「感じたままって……そんなに聞きたいんですか?」
「だって、隣の芝生は」
「はい、わかりましたもういいです言います」
アスティリアの言葉を遮って早口で言ったクレアは、仕方なくアスティリアの要望通りに感じたままのことを言った。
町の通りの空気、人の数、立ち並ぶ屋台、その匂い、そして食べた時のおいしさ。
色々なことが、この王城の中の生活と違うことを言った。
庶民の人たちが、王城を自分たちと違う世界だと思うのと同じように、王城の中でも庶民の生活が違う世界だと思って憧れを持つ者もいる。
アスティリアと話していて、クレアはそう思った。
「アスティリアは、小さい頃に王城に来たんだっけ?」
「いいえ、違うわ。来たのは二十歳を過ぎてからだったかしら?」
「じゃあ、それまでは町にいたの?」
「そうよ。町というよりは、かなり田舎の方だったけど」
「じゃあ、庶民の生活は見慣れたものでしょ?そんなに楽しそうに聞くものでもないんじゃ……」
「そうでもないわよ。たった十年でも、町は変わっていく。それ以上経てばもっと変わっていくのよ」
「そう、なんですね」
「そう。それに対して、王城の中はそんなに変わらないのよ。まぁ、変わりにくいのが特徴でもあるんだけどね。でも、やっぱりこっちから見ると、どんどん変わっていく町や人が、とっても羨ましいのよ」
「アスティリアはそう思うんだ」
「そう。片方だけの世界にいるとそうなっちゃうのよね。まぁ、しょうがないことなんだけど」
アスティリアは、クイッと手に持つグラスを傾けて、口の中に酒を流し込んだ。
そして、にたりと笑うと、クレアに問いかけた。
「で、例の男の子のことは何かわかった?」
「ぶふっ!?」
またしても飲み物を飲んでいる瞬間だったので、さっきと同じようにむせ返った。
「あのアグニ討伐の時に現れた銀髪の男の子。探してるんでしょ?」
「ごほっ、ごほっ……どうして、それを?」
「普通気付くわよ。だって、あの後から行方がわからなくなってるなんてことは、軍の方でもわかってるのよ。調べてるに決まってるじゃない?」
「それは確かに、そうね」
「でしょ?で、手掛かりは見つけたの?」
「見つけたけど教えない。これは私が自分で見つけたいの」
「え~、まぁ、少しは構わないけど、しばらくしたら教えてもらうわよ。一応、これでも仕事なんだから」
「うん、わかった」
クレアはコクリと頷いて、飲むものをまた飲んだ。
さっきもその前もまともに飲めていなかったため、再チャレンジだ。
とはいえ、チャレンジというほどのものではなく、邪魔さえなければ、普通に飲める。
邪魔さえなければ。
「で、見つけたらその男の子をどうしたいの?」
「ぶふっ!?」
またしてもむせ返り、そこから立ち直る速さが慣れで早まって言うことに、クレアは少し億劫になった。
しかし、今はそんなことよりも、言いたいことがクレアにはあった。
「明らかに、狙って言ってるでしょ、それ!!」
クレアの声が、会場に大きく響いていた。




