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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第二章 戦争の予兆
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第67話 掴んだ手掛かり、そしてヤキトリはうまい

 クレアが目当ての宿を見つけたのは、宿を探し始めてから五件目の宿だった。

 この王都に宿は多いので、こんなに早く見つかったことは、クレアにはとても良いことだった。


「それで、その銀髪の少年はどこから来たんですか?」

「それはお客様の個人情報ですので、開示するわけにはいきません」


 クレアの今の姿は、ただの一般人。

 そう簡単に教えてくれるはずがない。

 勇者クレア=シュリンケルの姿になれば、教えてくれたかもしれないが、そうしてしまってはせっかく抜け出してきた意味がない。


「そこを何とか。どこから来たかどうかだけ教えてくれたら、それでいいんです。他は何も聞きませんから」


 フロントの女性に懸命に頭を下げるクレアは、相当に目立っていた。

 周囲の視線もあって、フロントの女性は困って慌てているようだったが、必死になってお願いしているクレアには、周りのことなど目に入っていない。


「お願いします。どうしても知りたいんです」

「ですから、お教えすることはできませんと言ってますよね。例外はありません。個人情報が漏れたとなっては、うちの信用にも関わることなんですから」

「それはわかっていますが、そこを何とか。お願いします」

「そう頭を何度も下げられても困ります。他のお客様のご迷惑にもなりますし、これ以上言うようなら、通報しますよ」


 通報、という言葉に敏感に反応したクレアは、勢いよくカウンターに乗り出した。


「それだけは勘弁してください!」

「えっと、おとなしくしていただけるなら、通報する気はありませんから」

「あ、でも、やっぱり知りたいものは知りたいです」


 一瞬だけ怖気づいたクレアだったが、すぐに気を取り直した。


「教えてください。どこから来たのかだけでも……」

「何でそこまで……。どうしてそこまでするんですか?」

「それは…………自分でも何でここまで必死になるのかはわからないですけど、ただ聞きたいことがあるんです。それだけなんです」


 クレアはそれ以外考えていない。

 ただ聞きたい。

 それだけで、ここまで言っているのだ。

 少なくとも、その熱意は伝わったようで、フロントの女性はカウンターの下からファイルを取り出して、クレアに確認した。


「教えるのは町の名前だけですからね。それ以外は教えません」

「それで構いません。名前すら知らないのにここまで来れたくらいですから」


 自慢げにするクレアに、女性はクスリと笑みを浮かべた。


「それは安心できるポイントでしょうか?」

「つまり、やろうと思えば何とかなるということです」

「そうですか。では、一回しかいいませんから、知りたいのでしたら聞き逃さないでください」

「はい」


 クレアは喧騒がうるさい外の音を意識から取り除いて、女性の言葉に耳を傾けた。


「…………ナルゼ、です」


 それはぼそりと大きくない声で言われたが、常人よりもはるかにいい感覚を持っているクレアには、しっかりと聞き取れた。


「ナルゼ、か……。確か、王国のはずれの方にある町。そんなところから王都に来てたんだ」

「これ以上は何も言いませんからね。用が済んだら、早く出て行っていただけるとありがたいです」

「あぁ、そうですね。出て行きます。ありがとうございました」


 少し申し訳なく思いながら、クレアは礼を言ってその宿を後にした。


「さてと、次の目標はナルゼに決まりだけど、さすがに日帰りするには遠すぎるかな。馬車で丸三日はかかるからねぇ。私でも数時間はかかる、か。これは素直に王城に戻った方がいいね、うん」


 クレアは一人で頷いて、通りを歩く。

 たまにぶつかりそうになりながらも、クレアは人ごみを避けて歩いて行く。

 こうも人が多いと、身動きがとりずらい。


「これは帰るのに少し時間がかかりそうだけど……のんびりと行ってもいいかな」


 こっそりと王城を抜け出してきて町を満喫しているのだから、中途半端に一日のパーティーが終わっていないときに帰っても面倒なだけだ。

 最終日には夜通し行われるらしいが、それは明後日のこと。

 暗くなるころにはいつも通りの王城に戻るため、その時に戻ればいいだろうとクレアは思った。


「それまでどうやって暇をつぶそうかな。あと二時間はあるけど、ここからまっすぐ帰れば、精々が十五分。あまり過ぎてる。やることがなくなって時間が余ると、こんなにも困るのか……っと、そうでもない」


 何やらいい匂いがしてきたクレアは、その匂いにつられて、通りの脇の屋台へと進む。


「わぁっ……」


 思わず感嘆の声がこぼれたクレア。

 そんな様子を微笑ましげに見ている屋台の店主は、手元で肉を焼いていた。

 いい匂いがしていたのは、その肉にかかっているたれの香ばしい香りのようだった。

 この食べ物を、クレアは以前に食べたことがあった。

 王城ではあまり、というかほとんど見ることのないもの。

 細長い木の棒に、鳥の肉が何個か刺さっていて、その肉たちをたれに付けてから焼き上げる。

 すなわち。


「ヤキトリ!これは良い!」


 店頭で叫び声に似た歓声を上げたクレアを、店主は大笑いしていた。


「はははっ、良い反応だな、嬢ちゃん。どうだい?買ってくか?嬢ちゃんはかわいいから、値段は幾らかサービスしてやるぜ」

「本当!?じゃね、五本ください!」


 掌で五本と出したクレアは、まさに天真爛漫と言った様子だった。

 ヤキトリを前にして、どうやらテンションが上がっているようだ。


「食べるねぇ、嬢ちゃん。本来なら銀貨一枚といったところだが、今回はそこからどうか十枚を差し引いてあげよう」

「つまり、銀貨十枚出せば、銅貨十枚のお釣りということですね。それでは、はい」


 クレアが銀貨十枚渡すと、店主はクレアに銅貨十枚と、ヤキトリ五本の入った紙皿を渡してくれた。


「毎度あり!」

「こちらこそ」


 クレアはさっそく歩きながらヤキトリを食べる。


「っ~~~~~~!」


 するとどうだろう。

 王城では味わえないような、舌や体にガツンと来る濃い味付けは、ひとたび口に入れた瞬間に感動ものだった。

 こういうものを長らく食べていなかった庶民派のクレアには、まさにご褒美と呼べる一品だった。

 その懐かしさとおいしさのあまり、クレアは周りの目など気にすることなく、勢いよくヤキトリを食べ、ほんの十秒ほどで五本のヤキトリを食べつくしていた。

 ちょうど通りの脇にあったゴミ箱にゴミを入れたクレアは、ここら辺の食べ物の鉄則なるものを自分の中に確立した。


「王城の中のように、貴族などに与えられる食事は、繊細な技巧のある、いわば料理全体を楽しむためのもの。それはそれでいい。だけど、町中での出店などでは、料理全体というよりも、食べることに重きを置いている。確かに技巧が光るものもあるにはあるが、こうした乱戦上のような場所では、ストレートに勝負に行くのが普通なんだ。私としては、実にこっちの方が好み」


 自分の解釈にうんうんと頷くクレアは、自信満々だった。


「今までは、合間合間を縫って町に来ていたから、ここで食事をすることがなかったんだ。ていうか、そんなことをすればたちまち誰かにばれる。アスティリアとか、アスティリアとか」


 どれだけ恐れているんだというくらいにクレアは警戒していて、反抗期のようなものも出せないのだ。

 ゆえに、今回の町中で一人での食事は、王城に入ってからは初めての経験で、ドキドキしている。

 そのドキドキが、未知なることへの胸の高鳴りか、こっそりアスティリアに逆らっている気分になっているかはわからないが、どちらにしろクレアは自分の胸の鼓動を感じていた。


「よし!ここから二時間、食べて食べて食べまくる!」


 最後に大声を出して手を上に上げようとしたのだが、そこは理性が働いて、何とか注目の的にならずに済んだ、はずだ。

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