第65話 楽しい散策
PVが一万になるのが楽しみになってきました。
ひとまずはそこが目標になっていたので。
今は6,000ですから、あと数週間ですかね。
「一体、今どこにいるのかなぁ」
クレアがそう呟くのは、リベルのこと。
クレアはその名前すら知らない。
わかっているのは、銀髪碧眼で自分と同じくらいの年齢ということだけ。
(アスティリアみたいな例外はそうそうないだろうから、見た目の年齢でそうだとは思うけど……誰にも言ってないし言うわけにもいかないから、頼むことができないのよね。でも、このパーティーのせいで動けないし。外に出たら大注目を浴びる。城の中の方が安全なのが気に障るけどね)
クレアはこんなパーティーはもういいだろう、と叫びたいくらいだった。
人並みの羞恥はあるから、こういう空気の中で思い切り言うことはできないが、それでも心の中では何度叫んだことか。
(せめて、アグニ討伐前みたいに息抜きができれば……あっ)
クレアは覆わず声に出してしまいそうだった所を、手を口に当てることで堪えた。
今は隠形しているが、大声を出してしまえばそれが意味をなくしてしまう。
二度目を面倒だった。
しかし、今はそんなことよりも大事なことがあった。
(変身魔法で変装すればいいんだ)
一体どうしてそれが思いつかなかったのか。
ここまで律義にパーティーに参加してきた労力は何だったのか、それを自問してしまった。
「まぁ、今はいいか。気付けたことにちょっと万歳」
そう言ってクレアは隠形したまま立ち上がり、手に持つティーカップは傍のテーブルに静かに置いた。
そして、気配を殺したまま、パーティーのために開け放たれている会場の扉へと歩いて行った。
会場は広いが、それでも人は十分にいて、ただ真っ直ぐに扉まで移動できるほど楽ではなかった。
それにクレアは扉から一番遠い所にいたために余計に時間がかかる。
しかし、ここで焦ってはならない。
あくまで自然体でいることが、隠形の基本。
クレアほどの実力者であれば、そこら辺の人混みなど間をするするとすり抜けていく。
急ぐことはなく、それであって慎重になりすぎることもない。
あくまで自然体で。
それを意識しすぎることなく。
ただ淡々と扉へと向かう。
そして、そのまま、扉の脇に立っている兵士たちに気付かれることもなく、堂々と隠形をしながら会場を出て行った。
その瞬間、クレアは嬉しさのあまり、駆け出しそうになったが、自然体を振る舞うことで何とか抑えた。
自然に気づかれることなく自室へと戻ったクレアは、ドレスから普通の動きやすい服装に着替えて、変身魔法をかけ、再び隠形して町へと出かけていった。
部屋から城の外に出るまででも、クレアは誰にも気づかれることはなかった。
唯一の難関のような門の前に来たときは、そのまま門を飛び越えて突破した。
こうして、クレアは町の散策というやりたいことができるようになった。
♢♢♢
クレアが会場を出る時、しっかりと隠形はしていた。
クレアほどの実力なら、相当に訓練された兵士でも見破るのは困難だっただろう。
そういう訓練をしていないラインヴォルトは当然見破れなくてもおかしくないが、他の部隊の隊長、シリウス、アスティリア、メフィストは隠形に気付いていた。
確かによくできてはいるが、それを見た時にまだまだだという感想を、三人は持った。
とは言え、クレアは三人に止められることなく会場を出られた。
メフィストは別に興味がなかっただけで、すぐにクレアのことなど気にすることはなかった。
シリウスは軍に所属する一員として止めようとしたのだが、視界に入っていたアスティリアが、口元に指をあてて、シーっ、とやっているのが見えた。
最初はどうしようかと迷ったが、その後のアスティリアの困ったような顔を見て、その考えを理解して、しょうがないと思って見逃すことにした。
アスティリアとしては、もう一度捕まえるのが役目なのはわかっていたが、一回呆気なく捕まえてしまってから、少しは工夫をしたということに見逃す余地はあると思ったのだ。
それに、庶民派のクレアにはこういう王城のパーティーよりも、町でのお祭りの方が性に合っているのだろうと判断した。
(楽しんでらっしゃい。帰って来たときは、どうなるかわからないけどね)
アスティリアたちが認めても、他の人たちがそれを認めるかどうかはわからなかった。
♢♢♢
クレアは完全にお祭り騒ぎの町中を、ぶらりと歩いていた。
特にどこか行きたいところがあるわけではなく、ただ気の赴くままにという自由な感じがクレアは好きだった。
「それにしても、城の中から見た時以上に活気づいてるわね。これはすごいわ」
やはり間近で見るのは全然違うようで、こうして街を歩いていると、クレアはそこにいる町の人々の顔を見ることができた。
もっと言えば、笑顔を見ることができた。
それを見ると、柄にもなく感慨深いものを感じた。
クレアは王城の中でアグニ討伐の実感を感じていたが、町に出るとまた違った実感が湧いてくる。
王城での実質的なことではなく、町の中の雰囲気からわかる成果があった。
「空気が良いわね。やっぱり、私にはあんな上品な感じじゃなくて、こういういかにも庶民らしい方が気分が上がるのよね。そりゃ、不自由は特にないけど、それとこれとは別だからね」
不自由なく生きることが、何もその人の幸せというわけではないのだ。
そういう違いがあるから、城を抜け出しての町の散策をクレアはやめられない。
「楽しめることがあるのは良いことだわ。励みにもなるし」
毎回毎回変装しなければならないのが残念なところだが、町に出られるだけでもいいことはある。
もちろん、本来の姿で出歩くことができればなおのこといいが。
前アリを見渡しながら楽しく歩いていたクレアは、そこで印象的な場所に出た。
「ここって、確か……」
そこはアグニ討伐の前に立ち寄った、占いのおばあさんのいた所。
今はそこには何もないが、よく覚えている。
「いきなり正体を言い当てられたんだから、あの時はビックリしたなぁ。占いも大体あの人の言った通りになったし、気まぐれで立ち寄ったけどすごい人だったんだなぁ。今度会った時は、また占いをしてもらおうかな」
その時の期待に胸を弾ませて、クレアはその場を去っていく。
そこにリベルも立ち寄っていたということを知れば、クレアはそれに驚いて、何か運命的なものを感じていたかもしれないが、当然知る由もない。
「そうだ。ちょうど外に出てるんだし、人も多いから、情報を集めるチャンスかも」
そう思い立ったクレアは、人で溢れかえる町中を歩いて行く。
歩きながら、すれ違う人たちの顔をちらりと伺ったりして、リベルを探そうとする。
「う~ん、やっぱり、ここはいつもこの辺り店を構えてるところに聞きに行くのが一番いいかな?まずは地盤の方を攻める、みたいな」
ここ最近は、このお祭り騒ぎで町の外からも人がたくさん入って来ていて、出店をやるなど、臨時で店もあったりするのだ。
そういう所に聞いても、確実性がない。
そもそもこういう聞き込みに確実性はないのだが、それでもできるだけ確率の高そうな方に行くのが普通。
そうなると、ここらの店の人に聞くのが一番だ。
スタートとしては妥当なところ。
クレアは拳をぎゅっと握りしめて、気合を入れた。
「元々、一人でやろうとしているんだから、なかなかうまくいかないのは当たり前。たとえうまくいかなくても、地道にやっていくだけ。諦めなければ、きっと何とかなる」
何も保証のない鼓舞をしたクレアは、早速話を聞きに行こうと、目に入った店に向かう。
息抜きするはずだったのだが、本当にこれで楽しめているのだろうか、という疑問は浮かんでこなかった。




