第63話 ハーモニクスの危険性
男二人から、紅一点が加わるパーティーですね。
いい感じにしていきたいですが。
「ごめん、ちょっと待って。頭の整理に時間がかかる」
「俺もだ、少し待て」
ソフィーと名乗った少女は、そんな慌てた様子の二人を、微笑ましく見ていた。
こうなることも予想していたので、いつ明かそうかと考えていたのだが、やはりいつどのタイミングで言ってもこうなっただろう。
オーリン村で他の人が周りにいた状態では、もう少し騒ぎが大きくなっていたであろうから、今この程度で済んでいるのが一番いいのかもしれない。
それに、ソフィー自身が言ったように、これから行動を共にしていくうえで、自分の素性くらいは明かしておいた方がいいと思っていた。
オーリン村の件でリベルにはいろいろと教えた手前、一体何者なのか、という疑問には行き着くだろうから、この状況も早く起きたことが良かったのかもしれないとソフィーは思った。
「えっと、ソフィーは、幽霊だよね?」
『そうですよ。五百年前に死んじゃいました』
「死んじゃいましたって、随分と軽く言うんだね」
『もうかなり前のことですからね。幽霊になってこうして存在しているんです。そうなると人として生きていた時間よりも、幽霊として生きていた……ではなくて、存在していた時間の方が長いんですよ』
確かに、五百年も前に死んでそれから幽霊をやっているなら、もう何百年も幽霊をやっているということになる。
だが、リベルは一つ気になったことがあった。
幽霊が死んだときそのままの姿を見せるのなら、今のソフィーの姿は明らかにリベルと同じくらいの年齢の少女にしか見えない。
「ねぇ、もしかして、何か悪いことでもあったの?そんなに若くして死ぬなんて」
『若い、ですか。それも少し違うんですけどね』
「違う?」
「俺からも少しいいか?」
リベルが疑問符を浮かべていると、グレンが話に入ってきた。
「俺の記憶では、シュトリーゼ王国が建国されて即位した初代国王の治世は五十年くらい続いたはずだ」
「五十年?でも、この見た目は……」
『そう。グレンの言う通り、私は五十年、国を治めてきました。私が即位したのが十九歳の頃でしたから、そこから五十年、正確には五十一年国を治めて、七十歳で死にました』
「じゃあ、その姿は即位した当時に姿っていうこと?」
『それは半分正解です。私が即位したときに姿という意味では正解ですが、おそらく二人が考えているようなことではありません』
「俺たちの考えているってのは、どういうことだ?」
リベルも大概おかしな人の一人だが、このソフィーという幽霊はその上を行っている。
だが、その勿体付けるような話し方はリベルによく似ていた。
先代の神の子だと言っていたから、グレンはおそらくリベルと合わせて意識しているのだろう。
『二人の考えていることは、この姿が私の若い時の姿、という意味でしょう?』
「ん?僕が言ったことと同じじゃない?」
『いいえ、違うはずです。なぜなら、この姿は即位した時と同じ姿であると同時に、死んだとき、七十歳の時と同じ姿だからです』
「「はぁ!!??」」
ソフィーが正体を明かした時と同じ反応を、リベルとグレンはした。
しかし、そのことにソフィーは心外だ、とでも言うような顔をした。
『そこまで驚かなくてもいいでしょう?魔法を使えば見た目はどうにでもなるこの世ですし、魔族は見た目の老化が極端に遅いと言うじゃないですか。お二人ならそこまで驚くことでもないと思ったんですけど』
「いや、それとこれとは別問題。じゃあ、君は人間じゃなかったのか?」
『人間のつもり、でしたね。さきほど私は自分が先代神の子だと言いました。二人はわかっていると思いますが、リベルが今代の神の子です』
リベルとグレンはソフィーの言葉に息を呑む。
今ここで神の子のことを持ち出すということは、五十年の間見た目に変化がなかったのと関係があるはずだ。
『神の子というのは、その身にある一つの魔法、<ハーモニクス>を持っています。これは生まれた時から持っているものですが、一定以上に成長しなければ使えるようにはなりません。私も<ハーモニクス>を使えるようになったのは、十六の時です』
その年齢は今のリベルと同じ。
しかも、その魔法は生まれながらに持っていたという。
ということは、神の子というのは生まれた時から持っている称号のようなものということだ。
『私はそれよりも以前から魔法については勉強して、様々な知識を持っていました。そのくせに魔法は使えなかったので、当時は無能だなんだと蔑まれたものですが、それでも知識は確かでした。その知識を総動員して調べた結果辿り着いた答えが、私がリベルに教えた、神の子が害悪だと判断したものを消失させる力です』
「へぇ、そこまでして調べたんだね。グレンは全然わかんなかったんだよね?」
「そうだな。そもそもお前の使った魔法が神属性魔法だなんて気づかなかったからな。それだけソフィーの知識がすごかったんだろ?」
魔法に関する知識は人並み以上に持っているグレンよりも、ソフィーはさらに多くの知識を持っていたようだ。
それを褒められるが、ソフィーは喜んでいるような表情ではなかった。
『そんな大層なものではありませんよ。そもそも私は魔法の使用者ですから。魔法を使った時の感覚でわかることもあります。それで調べた結果、私の見た目が変わらなかったのは、その<ハーモニクス>のせいだとわかったんです』
「<ハーモニクス>が?何で?」
『その魔法に自動発動があるのはわかっているますね』
ソフィーの確認に、リベルとグレンは頷いた。
リベルはグレンから聞いた話で、グレンは自分で体験したことでそれを理解していた。
『その自動発動で、私が害悪と判断してしまったものが、消失してしまったのです』
「おい。まさか、それって……」
『おそらく、その先の言葉通りです。私は<ハーモニクス>で、老化というものを消してしまったのです』
<ハーモニクス>が言葉通りに、使用者が害悪と判断したものを消してしまうのだとしたら、そうして老化が消えてしまっても辻褄は合う。
『一体それをいつ思ったのか……。私の記憶にはありません。おそらく即位した十九歳以降ですね。それまでは一応成長はしていたので』
「……マジかよ。つまり、無意識でもそう思ってしまうと、その魔法は使用者の望みを叶えてしまうのか?」
『叶える、ではありません。それならまだマシでした。消えたものは、元には戻らないんですから』
ソフィーの言う通りなら、この<ハーモニクス>という魔法は、二人が考えていた以上に危険なものなのかもしれない。
二人もその可能性には至っていたが、それと同時にさすがに人の人生に直接影響するようなことは起きないだろうと思っていた。
しかし、現に起きている。
起きてしまっている。
『幸いなことに、死ぬことはできているから、そこは不謹慎ですけど死ねたことにはホッとしています』
「だろうね。その時の気持ちは理解できないけど、恐怖していたんだろうなとは思うよ」
『ありがとうございます』
「そう言えば、精神の方はどうなったんだ?肉体が年を取らないのに対して精神の方は年を取ったら、かなりギャップはあったんじゃないか?」
『それが、精神の方も大して変わっていないみたいです。それが肉体が老化しなかったせいか<ハーモニクス>が発動したのかはわかりませんが』
「それじゃあ、迂闊に願い事はできないってことかよ。それじゃあ、リベルはかなり窮屈に生きることになるぞ。ソフィーの言う通り、何でも願いが叶う方がまだマシだな」
グレンは納得した。
リベルから聞いただけではわからなかったことが、昔の実際の使用者から聞くことでイメージが掴めてきた。
それは神属性というだけのことはあるが、それを人間が持つにはあまりにも危険な代物だということ。
そして、悲しいことに暴走してしまったら止めるすべがないということ。
止めようとすれば、それらすべてが消えることになりかねない。
もちろん意識的に抑えることもできるかもしれないが、それでも危険すぎる。
あらゆることが、リベルの機嫌によって決まると言ってもいい。
リベルが自制心の強い人であることが数少ない良いことだった。
当の本人は、聞いた話からわかった今の自分というものに、恐怖を覚えていた。
話を書き始めた頃は、ソフィーをリベルにだけ見えるようにして、他の人とは意思疎通ができないようにしていました。
ですが、それではソフィーがかわいそうに思えたので、こうして条件付きで他の人とも話せるようになりました。




