第62話 幽霊の正体
第二章、スタートです!
宴会は予定通り夜通し行われ、朝開けても騒いでいる人は騒いで朝日を開いていた。
酒がたくさん入っているのか、朝でもテンションマックスな人が多く、鎮めるのには相当な体力を必要とした。
長老も酔いつぶれていて、グレンもいつの間に仲良くなったのか、村の人たちと一緒に飲み明かしたそうだ。
酒が飲める年齢ではなく、夜遅くまで騒ぐ元気もないような子どもたちや大人は早々に切り上げて、日付が変わる頃には就寝していた。
リベルはその二つの中間と言った感じで、酒を飲むことはなく朝まで起きていることもなかったが、日付が変わる少しあとくらいまではグレンたちの面白おかしな芸などを見て楽しんでいた。
時々村の人たちと話すこともあって、二人だけだった旅では味わうことはなかった楽しさがそこにあって、たまにはこういうこともいいなと思ったリベルだった。
そうして各々が思い思いに過ごして夜が明け、朝が来た。
この日、リベルとグレンは村を出ることにしていた。
もう少し村に残ってもいいと言う人もいたが、その人たちは明らかに宴会する気満々で、さすがのグレンも遠慮した。
リベルは即答で遠慮したが。
それでも強く引き留めることもなかった彼らは、せめて朝食くらいはという長老の気遣いで、二人は長老に家でご飯をごちそうになった。
そのご飯は、昨日の宴会とは違ってさっぱりとしたもので、おいしいと素直に思えた。
グレンも徹夜していた体にはしみるみたいで、気分良さげだったのは、リベルも微笑ましかった。
そして朝食後、リベルとグレンは村を出た。
その際に大勢の人が見送りに来てくれたのを、リベルは恥ずかしいと思うのと同時に嬉しかった。
会った時はあんなに敵対心を出していたのに、今ではこんな風にいい光景になっていた。
リベルに暴力を振るった人たちは、謝罪はしてはくれたものの、まだ整理がついていないという感じだったのを、リベルは覚えている。
気持ちの整理にはまだまだ時間はかかるということだろう。
リベルは別に、そのことを気にすることはなかった。
気にすることではないと思った。
こうして生きている限り、答えを探すことができるのだから。
そう思うリベルとグレンは、手を振ってくれる村人たちに手を振り返しながら、二人してきた道を引き返していった。
出口まではあっさりと着き、グレンが道を開いて、元のだだっ広い草原へと戻った。
「たった数日だったのに、随分と久しぶりな気がする」
「そうだな。俺も同じことを思ったぜ」
二人は草原を見渡す。
結界の中に入った時と同じように、青々とした草木と、広々と爽やかな空は何一つ変わっていない。
変わっていないのは普通だが、結界の中で壮絶なことがあった後では、外で何か起こっているかもと心配するのは致し方のないことだった。
リベルは安心して胸を撫で下ろし、そして自分たちが出てきた方を振り返る。
そこには結界は全く見えず、草原が広がって、そして金髪の幽霊が立っていた。
(やっぱ付いてくるんだね)
『はい。この際ですから、あなたの旅について行こうかと思いまして』
ニコッと微笑む少女に、リベルは心の中でため息を吐いた。
今回はそれがしっかりと少女に届くことをわかったうえで、そうした。
(ついてくるのは別に構わないよ。幽霊だからって、何か不利益を被るわけでもないんでしょ?)
『それはわかりませんが、たぶんないと思います。生前の私は結構良い行いはたくさんしてきたつもりですので』
(ふ~ん。それで、ついてくるのは良いとして、グレンにはなんて言おうかな?グレンには見えないんでしょ?)
昨日の夜の時の反応からすると、グレンには少女の姿が見えていない。
それは間違いない。
実際、リベルの隣に座っても何も反応しなかった。
(このまま頭の中でだけで君と話して、口ではグレンと話してってやると、僕は結構疲れるんだよね)
『それならいい方法がありますよ』
(面倒なことじゃないよね?)
『大丈夫ですよ。一度はやっているんですから、今度はもっと楽にできるはずです』
(一度はやってるって……あぁ、貸し出すやつか)
黒蛇と戦っている時に、グレンの魔力が尽きたため、グレンにフォルトナを貸し与えたのを覚えている。
黒蛇の毒を完全に解除するのと、黒蛇を守護神へと戻すのに力を使うために返してもらっていたものだ。
(あれをやればいいの?)
『そうです。フォルトナという腕輪は、私と意思疎通をする機能もあるんですよ。もっとも、神の子はフォルトナを使わずとも、声を聞くことはできるんですけどね』
(じゃあ、腕輪なしでも意思疎通はできるんだよね?だったら何のために?腕輪は神の子しか適応できないんだよね、貸し出す場合を除いて)
『だって、姿を見せられないのは寂しいです。人とお話しするときはやっぱり顔と顔を合わせたいじゃないですか』
何だか大人ぶっているところから、たまに見える子供らしさがある。
そのギャップに、何だかリベルはこの少女に対応するのに困る所はある。
『それに、貸し出された人にも私の姿は見えますし、声も聞こえるようになります。それがうれしいんです』
(えっと、腕輪は君が他人と意思疎通するために作ったんだっけ?)
『それだけじゃないですよ。使用者の魔力を補充するという役目もちゃんとあります』
(でも、意思疎通に大分熱意を感じるんだけど、それは僕の気のせいかな?)
『…………』
さっきまではおしゃべりだったのに、いきなり黙ってそっぽを向いた少女。
リベルがそれに呆れると、少女は勢いよく言いだした。
『そんなことは今は関係ありません。今重要なのはグレンと意思疎通することです。さぁ、早くグレンにフォルトナを貸し出してください。大丈夫です。貸し出しは手早く済みますし、あなたが回収しなければずっと貸し出されたままになるので、何度も貸し出しの手順をやる必要はありません』
(思い切り喋るね。まぁ、別にいいけど)
その後、リベルがグレンに腕輪を貸し出すと、まずグレンはそのことに驚いた。
そして数秒後。
自分たちの近くにいるもう一人の金髪碧眼の少女が目に入り、さらに驚いた。
「な、何だよこいつ!」
「まぁ、そういう反応になるよね。それが普通。グレンのそういう所が見れて、僕は楽しいよ」
「お前の趣味はどうでもいい。とにかく、こいつは何なんだ?」
にこにこしたままの少女を指差すグレンに、リベルは面倒だと思いながらも仕方なく説明した。
詳しく全部を話すのは時間がかかって面倒なため、今回のオーリン村のことでどんなところで関わっていたのかを話した。
それでも一通りの説明をするのに数分がかかって、それだけ関わっていたことに話しているリベル自身も驚いていた。
「と、いうわけで、この子はそんな風なの」
「……結界のことも、神の子のことも、黒蛇のことも、村のことも、フォルトナのことも、関わりすぎくらいに関わってるじゃねぇか」
「そうだね。僕も今更ながら驚いてる」
『ね、すごいでしょう?』
「自分で言われるのは癪だが、実際にそうだから反論しづらい」
グレンが悔しそうにしている気持ちもリベルにはわかる。
たった数日だが、かなり近くにいて、記憶も見てそのすごさがわかる。
もっとも、リベルは厳密にはこの少女の記憶のすべてを見たわけではなく、少女の方で選んだ一部だったので、すべてを探ればまだまだすごいのが出てきそうに思えた。
「それで、リベル、こいつは一体何なんだ?」
「何って、説明したでしょ?」
「説明って、名前を聞かされてねぇぞ、おい」
「あれ、そう言えば僕も知らない」
「お前もかよ」
リベルとグレンは少女に目を向けると、少女は笑みを浮かべて答える。
『やはり、これから行動していくうえで、名前を教えておかなくてはいけませんしね』
そう言って、少女は上品にスカートのすそを持ち上げて、軽く礼をした。
『私の名前はソフィー=シュトリーゼ。シュトリーゼ王国初代国王にして、先代神の子です。以後お見知りおきを』
「「はぁ!!??」」
だだっ広い草原に、リベルとグレンの驚愕の声が響き渡った。
これでプラス一人。
いきなりの大物です。




