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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第一章 旅立ち、そして新たな日々
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第60話 ハーモニクスの力

 リベルは今目の前の光景を見て、思った。


「困難とは、いかなるものでも乗り越えられる。しかし、乗り越えた先にあるものすべてが良いものとは限らない。その先で何を選んで良くしていくのかに依存する」

「それは誰かの言葉か?」

「誰か言ってそうだよね」

「つまりは今作ったってことか」

「なかなか悪くないんじゃない?」

「趣味が良いとは言えないがな」

「そういうもんかね」

「そういうもんだ」


 リベルの隣で座るグレンも、村人たちを見ている。

 黒蛇の危機が去り、ルイという男の子も生きて帰ってきたことで、オーリン村はお祭り騒ぎだ。

 それは当然と言える。

 なにせ、これで今まであった命の危険が減ったのだから。

 騒いで騒いで、この調子では夜通し行われ、朝まで続くように思える。


(それでも、完全に安全だとは言えないんだよね。僕の言ったことを中心にして今回の事態が収拾したということになってるけど、全てが信用できるわけでもないからね。そこら辺は長老もわかってるだろうけど、今は騒がせておこうって感じか。まぁ、腹から見てる分には面白いからいいけどね)


 そう。

 すべてが終わったと言い切るには、確証がない。

 もしかしたら、再び黒蛇が脅威となるかもしれない。

 リベルも声の言ったことを元に行動していたが、その声の言うことを全面的に信用することもできない。

 だが、言っていることが嘘ではないとわかってしまう。

 嘘ではないとわかっても、信用ができない。


『少しずつ信用してくれればいいですよ』


 突然、リベルに声が聞こえた。


(聞こえてるんだね、ちゃんと)

『そうですよ。今はあなたと感覚が同調しているので、そういうこともあるんです』

(へぇ、一体どういう原理なんだろう?)

『それは慣れるからいいんじゃないですか?それより、後ろを見てください。面白いものが見れますよ』

(面白いもの?それは一体、っ!)


 声が聞こえても今まで姿かたちが見えることはなかったため、何も見ることなく、体を動かすことなく応対していた。

 しかし、今振り返ってみると、そこにはリベルと同じくらいの見た目の金髪碧眼の少女がいた。

 その長い髪は腰のあたりまであって、髪には緩くウェーブがかかっている。


「は?」

「ん?どうした?」


 急に振り返ったリベルがおかしな声を発したものだから、隣のグレンが訝しがった。

 リベルと同じように後ろを振り返るが、首を傾げるだけだった。


「あぁ、何でもないよ。大丈夫大丈夫」

「そうか?ならいいが」


 リベルは誤魔化そうと笑みを作って体の向きを元に戻した。

 その誤魔化そうという意思はグレンには丸わかりだったが、リベルが隠したいと思っていることなら、急いで聞く必要もないと思ってそれ以上が聞かないことにして、手元にある酒をグイっとあおった。


「飲み過ぎないようにね。一緒にいる僕の方も気分が悪くなるから」

「そこは問題ぜ。十分に気を付けてるからな」

「あ、そう。ならいいや」


 リベルがもう一度背後に視線を向けようとすると、金髪の少女がグレンとは反対側のリベルの隣に腰を下ろした。

 リベルとグレンは今回のことで一役買ったとは言え、外の人間ではあるので、村人たちは近づこうとしない。

 何人かは素振りを見せるのだが、大人たちでも一人では勇気が出ないようだ。

 そのため、今少女が腰を下ろした場所もちょうど開いていたのだ。


(グレンには見えていないようだけど、もしかして……)

『はい。幽霊ですよ』

(やっぱり。じゃあ、物には触れなかったりするの?)

『そりゃそうですよ。物に触れたら、今頃はここら辺にある食べ物を食べていたくらいです』


 見てみると、少女はリベルの前にある料理を物欲しそうに眺めている。

 まるで幼い子どものよう。

 そんな表情をされれば、リベルは食べ物を上げたくなるのだが、幽霊ではどうしようもない。

 食べられない以前に触れない。

 食べたいものが目の前にあって食べられないというのは、何たる拷問か。

 リベルは少女が少しかわいそうに思えてきた。


(えっと、幽霊でもお腹は空いたりするの?)

『そういうのはないですけど、おいしそうなものにお腹が空いているかどうかは関係ありません』

(その理屈はわかるけど、結局は食べられないんだよね)


 リベルが確認を取るように言うと、少女はハッと気が付いて、表情が暗くなった。


『どうせ私は幽霊ですしね。もう食べられないことなんて、全然気にしてませんから』

(いや、気にしてなかったらそんな風になってないと思うけどなぁ……あっ)


 リベルはただ思っただけで、少女に対して言ったわけではなかった。

 普通に人間同士の会話なら心の中で何を思っても伝わることはそうそうないので、伝えるつもりのないことは伝わらない。

 しかし、今は思ったことが少女に伝わる。

 しかも、限りなく本音に近い形で。

 それに気付いたときにはもう、少女の表情にはさらに影が入っていた。


『幽霊ですから気にしませんよ。えぇ、気にしてませんとも。気にする必要なんてありません』

(気にしてなかったらそんなこと言わないと思うんだけど、あっ)


 二連続で少女にリベルの考えが伝わった。


(ごめんね。ちょっとまだ慣れてなくて、そっちに伝わらないようにするのができないんだよね。だから、今のことも気にしなくていいからね)

『ぐすっ、ぐすっ……わかっていますよ。私は気にしません』


 もう涙ぐむまで来ている幽霊の少女。

 そんな彼女と思考がつながることで思考が駄々洩れしやすくなるということに、今更気付いたリベルだった。


「それにしても、お前の力はやっぱすげぇな」


 少女との会話に意識を割いていたリベルは、急に話し出したグレンにびっくりしながらも、グレンの方に顔を向けた。


「すごいって?」

「あぁ。お前は知らないかもしれねぇが、お前に<ナイトメア>をかけたことがあってな」

「おい。それってすごく危ないんじゃないの?」


 少女のことでの疲れが吹っ飛んだリベルは、半眼でグレンに突っ込んだ。


「あぁ、まぁ、結果的には何もなかったし、大丈夫だったろ?」

「うん、そうだね。何もなかったね。でもね、それで大丈夫だったって言うのは、被害者側の僕だと思うな」

「それはごもっとも」


 リベルの言うことに、グレンの反論する余地はなかった。


「大体、何でそういうことになったの?」

「お前が起きなかったからだが……」

「それで<ナイトメア>を使うって何?危ない人みたいなんだけど」

「そん時はこっちも痛い目を見たんだ。おあいこってことにしてくれ」

「僕には実感がないから、納得しづらいところだけど、まぁ、いいや。拘っても仕方ないし。それで?その<ナイトメア>を使った時に、僕の<ハーモニクス>を受けたわけか」

「<ハーモニクス>っていうのか、あれは」

「らしいよ。それでグレンは返り討ちにあったわけだ。自業自得だね」


 グレンはリベルの光のせいで、<ナイトメア>が消されて体から力が抜けたのを思い出した。

 その時、あまりに魔力を失って気絶したのも鮮明に思い出して、グレンは苦い表情をする。


「そう考えると、お前の<ハーモニクス>、だっけか?それの効果って、毒の浄化だけじゃないんだな」

「そうだよ。どうやらそれ以上のものみたいだよ、<ハーモニクス>は。それを知った時は、馬鹿みたいだと思ったよ」

「そんなにすごいのか?」

「すごいなんてもんじゃないね。とても強力で、とても危険な魔法だ」

「強力で、危険?」

「うん。この<ハーモニクス>っていう魔法の効果はね、確かに浄化で間違いないよ。ただね、それが毒に限らないんだよ」

「まぁ、俺の魔法を無効化したことから考えても、毒だけじゃねぇよな。もしかして、毒や魔法の無効化、浄化か?」


 グレンが頭をひねって考えた答えだが、リベルは首を横に振った。


「近づいてはいるけど、まだ遠い。正解はね、僕が害悪と判断したものを消失させる魔法なんだよ」

後もう一話ぐらいですかね、第一章が終わるのは。

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