第58話 黒蛇の真実
リベルが話して話して話します。
リベルは声の言う記憶の旅というのをして、声の今まで体験してきたこと、見てきたことを見た。
そこで知ったことは色々ある。
リベルが一体何者なのかも、それを見ながら襲えてもらったし、その声が一体何者なのかも知った。
声の正体を知った時は心底驚いたものだが、今重要なのは、この村に重要なのはそんなことではなく、もっと根本的な解決策だった。
村と外の確執はどうにもならないかもしれない。
過去を見てきたリベルにはそう思えてしまう。
伝承で何をどのように伝えられているのかは知らないが、村人の反応からすると、決してオブラートに包んだものではなかったはずだ。
そして黒蛇のことも、記憶を見て、それが一体何なのかを知った。
しかし、声は解決策という一発逆転の策は何も教えてくれなかった。
ただ記憶を見せられただけで、それ以外は何もなかった。
リベルは記憶は見せてもらい、知識は授けられたが、その後は自分で考えなくてはならなかった。
意地悪と一瞬思ったことだが、すぐに、これは自分で考えなければいけないことだと気付いた。
今を生きる者が、今起きていることに対処すべきなのだ。
そうとわかり、リベルは考えた。
考えた結果、こうして黒蛇の前に立つことにしたのだ。
それはとても危険なことだ。
声からはリベルの力のことも教えてもらい、その力がとてつもなく強力であることを知った。
その力に絶対に自惚れていないかと言われれば、そういう気持ちはないわけではない。
しかし、その一方で力のことを全面的に信じることもできない。
強力な力は、いきなりその存在を知らされても、すぐに信じることはできないからだ。
それでもリベルは黒蛇の前に立った。
安全とは言えないその場所に立つことで、ようやく言えること、伝えられることがあるのではないかと思ったのだ。
襲われることもあるかもしれない。
その時は自分の力か、グレンに頼ることにすればいい。
どちらかと言うと信頼度が高いのは圧倒的にグレンだが。
そうした保険もあって、リベルは黒蛇に話しかけたのだ。
「君の存在意義にも関わってくることだけど、そこは自分でわかっている、よね?」
リベルは黒蛇に問いかけるが、黒蛇は何も答えない。
何か音を発することもない。
暴れるでもなく、リベルが近くに来てからは身じろぎもしない。
そんな黒蛇の無回答は気にせず、リベルは続ける。
「君が生まれた理由。それは、このオーリン村を守ること。そしてもっと言えば、ある存在を守ること、でしょ」
微笑みかけながらいうリベルに、黒蛇は相変わらず反応しない。
しかし、その声を聞いていた後方の長老は反応した。
グレンや村人たちも驚きをあらわにする。
「そんな馬鹿なことがあるか!村を守るはずの存在が、なぜその村を襲うのだ!」
そこは明らかに矛盾していた。
よく考える必要もないほどに、そこには疑問がある。
その疑問に、リベルは黒蛇へと顔を向けたまま答えた。
「それは、まぁ、悲しいことに偶然の事故、ですかね」
「事故だと?」
「はい。きっかけはグレンの、結界の強化です」
「は?俺の?」
「そう。そういう意味では結界の手を加えたグレンと、それを容認した長老のせいとも言えなくもない」
衝撃的なことだが、そんなことをいきなり言われても信じられるわけもない。
特に村の人たちは、完全にあ外部の人間であるのにそこまで言うことに腹を立てている。
後ろの方で罵声が浴びせられているのをリベルは感じながら、そのまま続けた。
「黒蛇というのは、神殿が作られてフォルトナが祀られるようになった時に、それを祀る村を守護する、神としてそこにいたんです。その守護もあって、この村を追おう結界は感知が極端に難しいものになっていました。ちなみに、それは今も続いている。この村、そして森を覆う結界は、この黒蛇の力あってこその隠匿性能だったんです。その結界のおかげもあって、この村は隠されてきました。神殿の方にかけられていた結界も黒蛇の力によるものです」
リベルは記憶の旅で見たことを整理して、自分で考えてまとめたことを言う。
この後どうやって収拾していくのかは、リベルはドキドキしている。
「ですが、グレンが神殿の結界に手を加えたことで、そこに異変が生じます。グレンの行った改良は、結界の強化としては比較的最近の技術だったものを、昔の結界にも適用できるようにアレンジしたものでした。そのアレンジを加えて結界を強化することは、別に悪いことではありません。根幹となるものに狂いが出なければ、自然と修復されていきます。それだけ高度なものだったのは、グレンもわかってるよね」
グレンは直接結界に触れたのだから、そのことはわかっているはずだ。
それに当時は今のように力を制限する前だったはずだから、気付かないはずがない。
「あぁ、確かそうだったな」
「グレンの組んだ結界にはちょっとした不備がありましてね。そこは自然修復されました。今の結界はすでに修復された後なので、結界としてきちんと機能しています。ですが、そこで一つの不具合が生じます」
「不具合、じゃと?」
「そうです。結界の作り主は想定してなかったんですよ。グレンのような馬鹿げた魔力を持つ者が結界の強化することを」
「それで何か問題があるのか?」
不具合を起こすようなことをしてしまったグレンは、焦りとともにリベルに尋ねる。
「問題、ね。大あり。自然修復する対象が想定を超える魔力だったんです。結界に負荷がかからないはずがありません。結界自体は持ち直して修復は完了したけど、その大元である黒蛇に影響が出ました」
「影響ってのは、一体何なんだ?」
「それは黒蛇の守る対象が、一つ消えてしまったんです」
「一つ消えた、じゃと?」
「そうです。黒蛇から、村を守るという役目が消えてしまったんです」
「それが消えるとどうなるのじゃ?」
「黒蛇はいわばここの守り神、主みたいなものです。その地に部外者が入ってくれば、当然のように排除するでしょう?」
「そんな……つまり、俺のせいで……」
「そうかもしれないね。黒蛇はその役目の消失から一定周期で出現し、侵入者を排除しようとした。期間に十年という間が空いていたのは、一度出現するのに膨大な力を使うからです。そして、意識が明確になって顕現できるようになった時に、この村があればまた襲う。それを繰り返してきたんです。不運だったのは、この村が外から閉ざされていて、この場所から去るということができなかったこと。黒蛇の力が及んでいるのは、森を覆い隠している結界の中。その結界の外に出れば黒蛇に襲われることはなかったでしょうが、それでも外に出ることはできなかった。悲しいことに……」
何度も起きたその災厄とも言える黒蛇への対処は、ただ村から出るだけで良かった。
そうしておけば、多くの人が死ぬこともなかった。
それが確定したことに、ショックを隠せない人は多い。
しかし、森を出ることを一度たりとも考えなかったというのはあり得ない。
そのたびに、村人たちの恐怖とプライドがそうはさせなかった。
大元を辿ってけば、グレンかもしれない。
ゆえにグレンは責められる。
だが、そこから対処することをしてこなかったことも、ここまで人が死んだ原因の一つだ。
そのことを村人たち、長老もわかっていた。
そのために誰もが俯く。
そんな中、グレンは自分のせいというショックの中でも、気になっていたことを聞いた。
「リベル。黒蛇の守るものってのは、元々はこの村とある存在と言ったな」
「うん、言ったよ」
「その存在って、まさか……」
「グレンは気付くんだね。たぶんそれで合ってるよ。村が守る対象でなくなったから、今はその存在だけが守る対象。その存在って言うのは、神の子、というのらしいよ。僕が攫われたときに、僕はそう呼ばれたね」
「っ!?」
村人たちはそれにはピンと来ていないようだったが、グレンは息を呑んだ。
リベルが王都で攫われたときに何があったのかは聞いておらず、リベルが神の子と呼ばれたことをグレンは知らなかった。
しかし、アグニ討伐の時のことから考えて、その可能性はあると考えていた。
実際には見たことがなかったので、リベルが<ハーモニクス>を使った時も、確信はなかった。
確信はなかったのだが、今この時、確信が持てた。
「神属性魔法……」
グレンがぼそりと言ったそれは誰にも聞こえなかったが、グレンは今まで見たことのなかった魔法を見たのだという事実に驚いていた。
「本来十年ごとの周期で現れる黒蛇が、なぜ五年しか経っていないのに現れたのか。その理由は、僕が村の皆さんに暴力を受けたから、だそうですよ」
「何じゃと?」
「黒蛇が現れたのは、ただ単に僕を守るため。僕がその神の子らしいので、その守るべき対象が傷つけられていたから、無理を押して顕現したというわけです」
「じゃあ、ルイはどういうことじゃ!あの子が黒蛇になったと聞いているが、それはどういうことじゃ!」
長老の怒鳴るような質問に、リベルは長老たちに見えないようにしたまま、その表情を暗くした。
そこに間が空き、村人たちはそれが悲報であることを悟った。
「その子は……黒蛇が顕現するのに足りなかった力を補うためだけの、犠牲になったんです」
リベルは告げにくいことを告げ、苦しい表情で絞り出した声は、どこか震えていた。
その言葉に、村人たちはさらに衝撃を受け、誰一人として言葉を発することはなかった。
その場に沈黙が満ち、少しして、ここまで沈黙を守っていた黒蛇が声を出した。
「我は、何かしてはいけないことをしたのか」
その場にいる者すべてに等しく伝わるように響いた声が、リベルたちに聞こえた。
いきなりものすごく詳しくなったリベル。
すみません。ここまで説明が長くなるとは思っておらず、予定通りには終わりません。
黒蛇のことはもう一話だけ待ってください。
もう一話だけ。




