第56話 フォルトナの光
あと何話かで黒蛇に決着です。
あと、一話、じゃ終わらないですね。二話くらい?
黒蛇に接近していたほとんどの人間は倒れ、残った数人はグレンたち後方の所まで退避してきた。
その人たちも、逃げてきたところで力尽きたように倒れてしまった。
息はあるようだが、荒い呼吸は少しづつ収まっていく。
それは顔色から察するに、落ち着いてきたのではなく、体の調子が悪くなってきたということだろう。
逃げてきた人たちですらそれ位なのだから、今黒蛇の近くで倒れている人たちはもっと危ないはずだ。
「くそっ!」
グレンは魔力で倒れている人たちの体を引き寄せる。
これ以上長くその場所にいさせたら危険だった。
案の定、引き寄せた人たちの顔色は最悪で、今にももうだめという感じだった。
グレンは黒蛇を抑えることに意識を割きながらも、長老に怒鳴るように聞く。
「おい!これはどうにかならないのか!?」
これ、とは村人が明らかに毒に汚染されている状況だ。
このままではまずいことは誰が見ても明らかだった。
しかし、よく考えればわかることだ。
リベルの時に余っていた薬草を使い果たし、グレンに薬草を取りに行かせたのだから、当然、残りは皆無なのだ。
「薬草はもうないのじゃ」
「今から取りに行くのはどうだ!リベルの時は三時間近く余裕があっただろ!」
「あの時は少量とはいえ薬草を飲ませたからな。それで持っていたのだが、今回は本当に手詰まりじゃ。なにせ、本来ならこんな時期に黒蛇が来ること自体があり得ないのじゃよ」
「そんなことはわかってる!だが、他にはどうにもならないのか!」
グレンは声に熱がこもり、魔法の制御を手放しそうになるのを何とか堪える。
今ここで黒蛇が暴れ出したら、収拾できるものもできない。
「残念なことに、薬草の方は期待できん。一度の採取できる数が限られているのじゃ。お主が行った時も、お主が持ってきた一つしかなかったのじゃろう?」
「そうだが、他にどこか心当たりはないのか?」
「あるといえば、ある。が、あの洞窟よりもさらに遠いところにある。お主が転移魔法で行ってくれるのであれば、時間の問題はないのじゃが」
「無理だ」
長老の出した案に、グレンは即答でダメ出しした。
それは深く考える必要のないこと。
「俺がいなくなったら、その瞬間に、黒蛇を抑え込めなくなるぞ。そうなったら、被害は今以上になる。薬草だけでどうにかできるもんじゃねぇぞ」
「そうであろうな。わかっておる」
「他にはねぇのか?」
「うむ…………そう言えば、伝承にフォルトナには浄化効果があるとあったな」
「浄化効果?」
「そうじゃ。その力があれば、毒物を浄化できるはずじゃ。やってみてくれるか?」
「勝手はわからんが、やってはみよう」
グレンは黒蛇を抑える針を維持したまま、手首の模様に意識を集中させて、そこから何かしらの力が出てくるのを待つ。
グレンが言ったように、勝手はわからない。
はるか昔の魔具であるし、かなり特殊なものであるため、他の魔具と同じような感じではないだろう。
以前に何度か魔具を使ったことのあったグレンでも、今日初めて見て使う魔具に関しては自信はない。
それに、グレンの手首の模様に何かしらの違和感を感じているのも事実。
うまくいく気はしなかったが、それでも、意識を集中させてフォルトナから流れる力を感じる。
黒蛇の動きを封じることができるギリギリのところまで、その集中力をフォルトナへと向けていく。
しかし。
何も起こらない。
「……ダメだ。フォルトナから流れる魔力しか感じねぇ。そんな浄化効果みたいな力は感じねぇぞ」
「そんな馬鹿な。もう一度やってみてはくれんか?命がかかっておるんじゃ」
「わ、わかった」
グレンはもう一度フォルトナに集中する。
集中して、集中して、集中する。
魔力だけでなく、その内側、流れの元にまで探っていく。
しかし、それでも結果は変わらない。
何もない。
そして、今度はそれ以上に悪い結果となった。
「まずっ!」
フォルトナに意識を向けすぎたせいで、せっかく黒蛇を抑えていた針が、黒蛇の力に耐えきれずに破壊されてしまった。
グレンは咄嗟にもう一度針を出すことで押さえようとしたが、黒蛇はその体をくねくねとさせることで針地獄から抜け出して、グレンたちの方へ向かってくる。
これ以上近づかれては、毒の感染範囲にグレンたちも入ってしまう。
「こんの!大地よー!」
今度は針ではなく、黒蛇の体の真下の地面を隆起させ、そのまま勢い任せに隆起した地面の欠片ごと黒蛇を放り投げた。
針で足止めしては、毒の範囲がすぐそこにあるようなものだ。
できるだけ村には近づかせたくはなかった。
ドォォォォン!
黒蛇と地面の欠片が同時に落ち、すぐさまグレンは針で黒蛇を抑えた。
今度は避けることはできずに針に抑えられる黒蛇に、グレンはこの数秒の間止めていた息を吐き出して、呼吸を再開した。
「はぁ、はぁ、すまん。少し気が緩んだ」
「いや、こちらもお主の気を割くようなことをさせた。お互い様じゃよ。じゃが……やはりできんのか?」
「あぁ、できない。魔力が俺の中に流れている以外何もないぞ。少なくとも、俺には感じられない。本当に浄化能力なんてあるのか?」
「伝説ではあるとされている。こうなると定かとは言い難いが」
「早くしないと手遅れになるぞ」
グレンと長老の視線の先には倒れる村人と、その周囲で元気づけるような言葉を投げかける人たち。
その光景は、何もできないままではそう遅くならないうちに全く別のもに変わってしまうだろう。
それは悲劇だ。
「フォルトナの浄化能力が使えない。このままでは、本当に死んでしまう」
「長老が言う浄化能力ってのは、具体的なはどういう効果なんだ?」
浄化効果、という言葉に不意に思い出したことがあったグレンは、長老にそれを尋ねる。
「なぜ、そんなことを?」
「いいから教えろ。その浄化能力ってのは、ただ単に毒物を浄化するだけなのか?」
「そうと認識しているが、それがどうした?」
「いや、神殿に行った時に、そこにあった腕輪が一回だけ光ったよな?」
「そうじゃな。覚えているぞ、もちろん。それがなんだ?」
グレンの言うことの真意がわからない長老は、苛立たし気に聞く。
そんななくで、グレンの頭は非常によく回り、ここに来る前のこと、ここに来てからのことを次々に結び付けていく。
それは考えすぎかもしれなかった。
しかし、そうとも考えられた。
そうであれば、いろいろと辻褄が合う。
その合点のいく推論に、グレンは焦点を合わせる。
「あの腕輪が光ったのはどのタイミングだった?」
「お前が神殿から出て行こうとした時じゃろう?」
「あぁ、そうだな。だが、その時村では、たぶん黒蛇に襲われていたんじゃないのか?」
「……確かに、そういうことはあり得るが、それがどうしたというのだ?」
「あの腕輪が光ったのが、俺に反応したからじゃないとしたら?」
「はぁ?」
グレンの言う突拍子のないことに、長老はついていけていなかった。
今ここでフォルトナを身に着けているのはグレンなのに、そのグレンにフォルトナは反応していないなど、ありえるとは思えない。
確かに神殿に入った瞬間は光らなかったが、その後しっかりと光ったのだ。
それが他の人間だ、などと考えることができようか。
「そんなことがあるわけがないだろう!」
「そうか?俺としてはかなり合点がいくんだがな」
「どこにだ?」
「なぜフォルトナは反応したのか、一体誰に反応したのか。俺の考えでは、本来の適合者が危機的状況に陥ったから、フォルトナが遠隔で発動したんだ」
「遠隔で、だと?」
「そうだ。そしてそのフォルトナの力で、黒蛇の毒を浄化した。だから、さっきまでは黒蛇の毒をほとんど感じることができなかったんだ」
「そんなことが……」
「ある、かもしれない。だが、俺の感覚ではこのフォルトナの模様には違和感を感じる。何か、自分のものではないような感覚だ」
「つまりは、貸し出してるってことかな」
突如として、別の声が入ってきた。
グレンが長老に自分の考えを整理しながら説明していると、そこに新たに一人加わった。
本来なら、まだ寝ていて、起き上がることができないはずの少年。
「リベル……」
グレンと同じように、手首に虹色の模様を浮かばせて現れた。
リベル復活!
何か凄そう。
でも何ができるの?
そういう感想を持ってくれたらうれしいです。




