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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第一章 旅立ち、そして新たな日々
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第51話 砕かれる期待

そろそろサブタイトルに悩み始めています。

何かアドバイスがあればほしいです。

 グレンは防壁の向こうから見える黒蛇の凶暴な顔に、一瞬慄くが、すぐに歯を食いしばって黒蛇を見据える。


 ガアァァァァァン!!


 甲高く大気が震える音が響き渡り、その音に村人たちは顔をしかめる。

 両手で耳を抑える者さえいる。

 そして、その一番近くにいたグレンと黒蛇は。

 グレンと黒蛇の体が後方へと飛んでいくのが見えた。

 この状況は、グレンの防壁に直撃した黒蛇は防壁を突破することができずに弾き飛ばされ、グレンは黒蛇の威力を殺しきることができなかった、ということだろう。

 その威力はすさまじく、グレンはまるで紙のようにあっさりと飛んでいき、黒蛇もその巨体を宙に飛ばしていた。

 グレンは途切れかけていた意識を必死に取り戻し、今の状況を一瞬で理解する。

 洞窟内でやったのと同じように、魔法を瞬時に発動させて突風を起こす。

 その風は飛ばされるグレンの体を空中で受け止め、その後風を制御することでゆっくりと体を下へと着地させた。

 無事に着地できたグレンが顔を上げると、グレンと同じように宙を舞っていた黒蛇は、空中で体をジタバタしていたが、それでどうにかなるわけではなく、そのまま暴れた状態で鈍い音を立てて地面へと墜落した。


 ドガァァァァァン!


 キレイに降り立ったグレンとは反対に、どうすることもできずに落ちた黒蛇には、相当なダメージがあったはずだ。

 そこそこの高さから落ちたとはいえ、やはり鱗を傷つけることはできないだろう。

 狙うのは当然のごとく、硬いだけでは守り切れない内側。

 どんなに外が固かろうが、内臓やほかの器官まで硬度が尋常じゃなく高いのは生物としてあり得ない。

 そんな内部狙いの攻撃、というよりかは待ちであり受けの姿勢。

 真っ直ぐ突っ込んできた黒蛇に対して正面から防壁で迎え撃ったのは、最初からの狙い通り、衝撃で内部にダメージを与えるというものだ。

 今までで最高のスピードで突っ込んできている黒蛇に、真正面から防壁で迎え撃って、カウンターの要領で逆にダメージを与える。

 しかし、そのためには猛烈な勢いを出す黒蛇に耐えきれる防壁でなくてはならなかった。

 急激な黒蛇の変調に驚いた直後にカウンターまでは思いついたのだが、その先の強固な防壁に関しては、危機的状況で高速に巡る思考の中でも難題だった。

 これだけ急ぎでやるとなると、高等の防御魔法では強度はあっても展開までの時間が足りない。

 かといって、中途半端にするのはなおのこと良くない。

 一瞬の思考でそこまで判断したグレンは、魔法を駆使した技術で止めるのではなくて、大量の魔力を放出することで強引に力技で止めることに決めた。

 ただこのやり方ではやはり高等魔法に劣ってしまうため、強度はイチかバチかといったところだった。

 実際、黒蛇の突進を受け止めきれたわけではなく、ぶつかって跳ね返されるのと同時に、グレンの方の防壁も破られてしまったのだから。

 あの直後に追撃があったら、グレンは反応できなかったに違いない。

 なにせ気絶しかけるほどの衝撃がグレンを襲ったのだから。

 かなりギリギリだった。

 だから賭けだったのだが、何とかなったことにグレンはそっと息を吐いた。

 まだ戦いは終わっていないとはいえ、目の前まで迫った脅威を凌いだとあっては、体に入っていた力が抜けるのも致し方ないことだった。


「危なかったが、結果良ければなんとやら、か」


 立ち上がりながらそんなことを言ったグレンは、緩み始めていた警戒心を再び引き締めて、黒蛇が倒れて立って入り土煙へと慎重に近づいていく。

 他の者も勝利ムードだったところを長老が鎮めさせ、数人に慎重に確認に行かせる。

 グレンはいつ起き上がって来ても対応できるように、防壁の準備だけはしておく。

 初めからかけておけばいい、という考えはあるかもだが、グレンとしては今の魔力を全力で放出しながらの防壁のせいで、魔力の半分近くを使ってしまった。

 万全の状態であるか、普通の戦闘であれば問題はなかったのだが、今日はグレンが初めの時に予想していた魔法の使用回数を明らかにうわ待っていた。

 もちろん、魔法には魔力をあまり消費しないのもあるが、それとは反対に思いきり魔力を使う魔法もあるし、今日は使っている。

 洞窟全体を崩しかねないがゆえに、全体に防御魔法をかけてからでないと使えなかった<テラグラウンド>がその例だ。

 今になってみれば、あそこまで大規模なことはしなくても良かったはずなのだが、あの時は面倒ごとに対する苛立ちをどうにか抑える、というか発散したかったためにあんなことをしたのだろう。

 後々のことを考えて魔力を温存しておけば良かったと思うグレンだった。

 結局これもある意味自業自得で魔力量が心もとなくなってきたため、いざという時用以外は節約したいのだ。

 そういうグレンや他の村人たちは、額の汗を浮かべながら土煙の向こうを見る。

 ここで倒れてくれているのがベスト。

 しかし、誰しもこういう時はそういう良いことを思い浮かべるのと同時に、悪い方の考えも出てきてしまう。

 そしてそれは、嫌なことにいい結果の考えよりも強く出てくる。

 その悪い結果は当然のように、黒蛇の無傷。

 この結果が出るまでの短いようで長く感じるじれったい時間は誰もが嫌がることだ。

 皆の心に中では、淡い期待と色強くなる絶望があった。

 誰もがっかりしたくないから、できるだけ精神的ダメージが少なくなるように悪い方の結果を優先してしまう。

 それは用心深いことであり、良いことなのだが、その時の心情というのは想像するだけで気分が悪くなる。

 そんな空気の中、恐る恐ると近づくグレンたちは、極度の緊張状態にあった。

 探査魔法では生死はわからないため、直接目で確認するしかない。


(あんま期待するわけにもいかないからな)


 こんな状況では声を出すことすらできず、グレンも自然と心の中で思うだけにとどめている。

 そんな緊張感は、少しづつ近づいていくグレンたちの目の前で、呆気なく崩れ去った。

 ブワッ、と風が起こって土煙が飛ばされる。

 目に入りそうになる小粒に目を細めながら、グレンや村人たちはしっかりと見た。

 黒蛇が体に傷一つ付けることなく、ピンピンしている姿を。


「そんな……」

「ありえねぇよ」

「やっぱこうなるのか」

「俺たちはもうだめなのか?」


 あちらこちらで村人たちの声が聞こえる。

 それはついさっきの勢いのある声ではなく、絶望に打ちひしがれている声だった。

 それが、勝てるかもしれない、という早く危ない期待の結果。

 そのせいで全体がガタガタになっている。

 さらに、今まで抵抗すらできなかった相手に、今回はグレンという助っ人がいるから戦えるという期待が破られたことでのショックもあった。


 やはり黒蛇には抗えないのか。


 そんな思考が次第に広がっていく。

 声に出す者はいない。

 明確に言葉にしないのは、最後の必死の抵抗かもしれない。

 しかし、そんな言葉などなくとも、目の前の状況とこれまで一緒に過ごしてきた村人たちが集まれば、おのずと思考は一つになる。

 こういう戦いで、決して持ってはならず、しかしだからこそ持ってしまいがちな思考だ。

 かくいうグレンも、それの持っていかれてしまいそうだった。

 黒蛇の体に傷がないのは仕方がない。

 そう簡単に敗れるようならそっちに集中している。

 本命は内部。

 内部にダメージがあれば、表面に現れずとも何らかの様子の変化があるはずなのだ。

 しかし、それがない。

 つまり、ダメージはないということ。

 ここまでやっても無理だった。

 そこまでグレンは意識し、しかし心を折ることはなかった。

 グレンはこういうことを昔経験していた。

 その時は今の村人たちのように心を折られて諦めてしまっていたが、今はそれを経験として糧にしている。

 この程度はまだ予想の範疇。

 これぐらいでなくては、討伐のし甲斐がない。


(だが、他の奴らは限界に近い、か。ここで俺が何を言ってもどうにもならん。聞く耳を持たないだろう。かといって、このまま放置することもできない)


 グレンは考えに考え、そうしている最中、村全体に響く声が放たれた。


「皆の者、落ち着けぇぇぇぇぇ!!!!!」


 長老があらん限りの声で叫んだ。

 それは怒号であり、叱咤だった。

 その声に村人たちは振り返り、グレンも思考が止まってそちらに目を向けた。

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