第50話 黒蛇突進!
この作品を書き始めたころに予定していた第一章の話数に、そろそろ届きそうです。
ですが、これからも油断しないように頑張ります。
文章の質が落ちないようにしないと……
黒蛇に動きを察知した時、誰かが声を発して警告する前に、グレンは条件反射で全員に防御の魔法をかけた。
ここまで張っていた緊張の糸は、最高に張っている今この時。
何が来るかわからない恐ろしさを感じるグレンだった。
「全員、避けろぉぉぉ!!!」
前衛で誰かが叫んだ。
それを正確に確認できたわけではない。
そちらには目を向けず、黒蛇の巨体が動くところを見ていたのだから。
他の者もそうだろう。
黒蛇の些細な動きに気を配って、前衛のことなど見えていなかった。
それでも、聞いた言葉に反応して横に身を投げる者が半数。
それ以外の者は、言葉に反応するものの、身をひるがえして黒蛇に背を向けて逃げる者。
そんな人たちに容赦なく襲い掛かる。
黒蛇は体を少し後ろに引くようにすると、直後に、その巨体を地面に滑らせてきた。
くねくねと猛烈な勢いで土煙を立たせながら村人たちを襲う黒蛇を、横に避けた者たちは精々煙に咳き込む程度で済んだ。
グレンもその一人で、すぐ近くを通る黒蛇が作る煙に視界を奪われていた。
「くそっ!」
グレンは急に起きたことで目の前のことに集中して切ってしまっていた、探査の魔法をすぐに発動し直して全体を俯瞰するように見る。
すると、黒蛇の進行方向にはまだ数人の人たちが逃げている。
どうやら横に避けずにそのまま逃げた結果だろう。
そのことは当然わかっているだろうが、いまさらそんな少人数で横に避けたところで被害を免れることはできない。
グレンは探査の魔法の位置情報を頼りに、その場所へ向けて手を出す。
「大地よー」
そう唱えた一瞬後、正確に黒蛇の進行方向を塞ぐ形で壁が作られた。
洞窟内でサソリ型魔獣に使った時は無数の針が飛び出たが今度は違う。
元々この魔法は大地に形を変化させるだけの魔法なので、様々なことができる。
ただ、あまり複雑な構造をこの魔法で作ると、地面や土自身の硬さで内側から自壊してしまうという欠点はあるが、それもあくまで単純な構造にしてやればいいだけ。
針を作るよりも、ただ壁にする方がよっぽど楽で、その分強度も上げやすい。
「これならどうだ?」
突然の壁に黒蛇は勢いを殺せずに、そのまま突っ込んでいってしまう。
ドガァァァァン!!
盛大な音を立てて、黒蛇は頭から激突する。
黒蛇ア地面に体を引きずってできた煙は晴れてきて、多くの人がそれを目にした。
普通の生物ならここで全身がぐちゃぐちゃになって潰れてしまう所なのだが。
黒蛇はそういう普通の魔獣ではない。
ガガガガガッ!!
壁は少しだけ抵抗を見せたようだったが、呆気なく崩れ去り、それらの瓦礫を押しのけるように黒蛇は進行を続ける。
自分たちを助けてくれる壁の登場に期待してしまっていた逃げ遅れた人たちは、再び絶望的な表情をして、一度緩めた走るスピードをもう一度上げる。
そんな彼らを黒蛇はまた追い始めるが、壁のおかげで勢いが削がれていた。
「一つ目が破られるのは、予想通りだ」
グレンは再び動き始めた黒蛇を見て、にやりとした。
一つでダメなら、いくつもやってやればいい。
グレンの魔法は、まだ続いている。
ドガァァァ!
黒蛇の進行方向を塞ぐようにまたグレンは壁を作り出す。
今度もギリギリ回避できないタイミングで。
回避できない黒蛇は、その壁にまた激突する。
しかし、直前の激突違うところが一つあった。
それは黒蛇の勢いが先ほどよりも落ちていたということ。
確かに黒蛇の体表の鱗はとても硬いが、それだけでグレンの作る壁はあっさりと破ることはできない。
破るために必要な勢いが落ちているのだ。
とはいえ、それでも壁は破れてしまうだろう。
いくら勢いがないといっても相手は超級の魔獣。アグニには劣っても他の魔獣とは桁違いに強い。
そんな相手をこんな単純な手で抑え込めるとは、グレンは思っていない。
ゆえに、この壁はおとりのようなもの。黒蛇を止めるために作ったものではないのだ。
「いくら外が固くても、中はどうだ?」
この壁への激突では、あくまで黒蛇を壁に激突させるためのものだ。それによって生み出される衝撃は、当然、黒蛇の内側にも伝わる。
特に激突しているのは黒蛇の頭だ。
生物である以上、そこを激しく揺さぶられればくらくらとしてくる。
動きは鈍くなり、こちらが攻撃しやすくなる。
つまり、この黒蛇が動くという突然の状況も、次への攻撃のチャンスとするための壁。
しかし、物事はそう簡単には行くわけがなかった。
黒蛇は二枚目の壁も突破して、スピードをさらに上げてきた。
ぶつかったことで緩まった分を完全に帳消しにしている。
おそらく、黒蛇は地面からの些細な振動を壁を作る予兆として、一回目の時に掴んだのだ。掴んだからといって回避できないタイミングに合わせている以上、壁を避けるのは至難の業。
なら、どうするか。
方向を変えたり止まれないのなら、逆に勢いを付けて強引に突破してしまえばいい。
「そう来るのか」
感心するようにぼやきながら、グレンは突進する黒蛇の前に壁を作り続ける。
そのことごとくが破られても、何度も。
グレンが壁を作り、それを黒蛇が突破し、その目の前にまた壁を作り、それも突破していく。
黒蛇から追われている人たちは早く黒蛇からの荒れたいのだろうが、こうも勢いの強いやり合いになると無暗に行動できず、そのまま直進している。
背後からくるプレッシャーは、相当なものだろう。
しかし、グレンと黒蛇の我慢比べの構図になりかけていた時。
黒蛇が変調を見せた。
壁に激突する前にさらに勢いを付けているために余計に止まることが難しい黒蛇の前に、グレンは何度目かの壁を作ると、黒蛇は頭部を地面に掠りつけるようにして、突進の勢いのままに尻尾を振った。
ドガァァァァン!!!
グレンは唖然とする。
壁は呆気なく破られた。
それも今までの中でもっとも簡単に、最小限のダメージで。
しかし、グレンが驚いているのはそこではない。
勢いをつけた状態では方向転換は難しい。
特に、黒蛇のような蛇は人間ととは違ってしっかりと足を踏みしめているというわけではないからなおのこと。
そこを黒蛇は、体をうまく使って勢いを別の場所へと流すことでブレーキとし、またグレンの壁も利用して勢いをうまく相殺した。
人間でもそんなことが咄嗟にできる者などそうはいない。
それを黒蛇は、その十メートル越えの巨体に似合わぬ身軽な動きでもってやってのけた。
そして、その後に来ることはある程度予想できていた。
「黙ってやられるとは思ってなかったが、こんなのがあるのかよ」
グレンは当初、黒蛇が徐々に勢いを緩めていくと予想していた。
もちろんそれ以外にも考えていたが、まさかこんな方法をやってのけるとは思っていなかった。
「全員、もう一度避けろ!」
グレンがそう叫ぶのと同時に、黒蛇は地面を張っていた今までとは違って、壁を叩きつけた勢いでその巨体をグレンに向かって一直線に跳ね飛ばした。
その体の重さは想像できないが、家ぐらいのものが飛んできているような印象だろうか。
それもすごい勢いで。
今度は声に反応して回避できたものは少なく、大体の者が意表を突かれたようにしていた。
そんな彼らの傍を通ってグレンへと一直線に向かう黒蛇。
その勢いの風圧で風を超える突風が一瞬起き、黒蛇がとった近くにいた者たちは飛ばされて行く。
幸いだったのは、黒蛇に直撃した者はいないということだが、それだけでは安心できない。
なぜなら、グレンは回避することなく、猛烈な勢いで迫る十メートル以上の巨体に向き合っているのだから。
「耐えられるか五分五分だが……やってみるか」
グレンは全力の防御魔法を正面に展開する。
さっきまでことごとく地面でできた壁が破られていた直後にするには、些か無謀に見えることだった。
そんな行為をしているグレンは、防御に魔力をつぎ込む。
そして、二つの力が、ぶつかった。




