第4話 人界上位会議
一日一話をモットーにはしていますが、さすがにに辛そうですね。でも、がんばります!
人間界上位会議に出席するのは、国王とそれぞれ四つの部隊の隊長、国政において国王の補佐をする二名の国政官、そして勇者の計八名である。その八名が長机のそれぞれ割り当てられた席へと着く。
長机の脇、つまり首を動かさずにそれぞれの面々を確認できる場所に国王、ハルイド=ヴィ=シュトリーゼが座る。五年前に国王となった彼は、他の国王としては若い方でまだ中年という年齢だった。
その国王から近い順番に国政官のユーリ=ハイウェイとラナンシュ=アドムス。どちらもすでに七十代半ばといったおじいさんである。ハルイドの右手側にユーリが、左手側にラナンシュが座っている。
そしてユーリの隣に赤い鎧を着た中年の男、第一部隊隊長シリウス=ネイツァーが座る。彼は隊長の中では古株の人間であり、他の隊長を束ねる立場にある。
またその隣には青い鎧を着た女性、第二部隊隊長アスティリア=ウィリアンが座っている。アスティリアはおよそ三十代と考えられているが、詳しいことは誰も知らないのだ。彼女は国の中でも相当にレベルの高い美人で、またその胸に見事な双丘を持っていることから、人々からは癒しの女神とされている。
一方、ラナンシュの隣には黒い鎧を着ていて不愛想な顔をしている男、第三部隊隊長メフィスト=ルーエン。彼は三十代で、その剣の腕は敵う者がいないとされるほどである。しかし、一方で彼の声を聞いたことがある人は一人もおらず、同じ部隊の人間ですら指示は全て書いて伝えるそうだ。
その無口なメフィストの隣にラインヴォルトが座り、さらにその隣に勇者クレアが座っている。
ハルイドは全員が揃ったのを確認すると、しわがれた声で言った。
「これより、人間界上位会議を始める」
それぞれの席の目の前には今回の会議の議題に関して書かれてある。みんながそれを手に取り、一枚目をめくってその内容を確認する。
これから、いくつかの議題を重ねていく。
♢♢♢
会議が進んでいく中、クレアはその内容に耳を傾ける風をしているが、内心では早く終わってくれないかと時間の流れにお願いをしているところだった。
それもそのはず、毎度のように出席が義務付けられているこの会議だが、いつもいつもクレアには関係のないことばかりの議題なのだ。
クレアは自分が出席しなくてはいけない理由は何となくわかっている。要は、勇者という王国最強の人間が大事な会議に出て国のために頑張っているという構図が必要なのだろう。それは理解できていたし、仕方ないと思いながら、早く終わってくれることを願うのは当然の対価だ、と自分に言い聞かせ続ける。
そもそも国政に関する会議にクレアが出たとしても、そんなことを勉強したことのないクレアにはわかるはずもなく、退屈そのものなのである。自分の担当分野は戦闘であると割り切っているところは自分で自分に好感が持てていたが、そういう力で解決しなければならない事案が出た時も、残念ながらクレアに出番はないのだ。
国の最大戦力である勇者を、毎度毎度出動させるわけにはいかないということだった。こういう事案に軽々と出ないからこそ、勇者は規格外の存在なのだと周りに印象付けることができるらしかった。
クレアは国政には疎くとも、そういう心理は理解できる年頃なので、渋々といった様子で認めてはいる。なにせ、クレアは事実としてシュトリーゼ王国の最高戦力なのだから。
自分の出番は本当に戦争くらいにしかなく、小さないざこざは基本的に軍の部隊の人たちが何とかする形式になっている。ゆえに、こんな会議に出てもやることはなく、戦争のような大ごとの時くらいしか自分の担当分野は発揮されず、勇者という思い肩書を背負わされるクレアには、日々が退屈なのだ。
簡単に言えば、やること、できることが少ない。
可能か不可能かで言えば、クレアはある程度何でもできる。クレアはいわゆる天才というやつで、一度見たものは武術だろうと魔法だろうと芸術だろうと何でもできた。その中でも武術が特に秀でていたから今は勇者となっているが問題はそこではなく、何でもできるクレアだが、何もさせてもらえないのである。
身の回りの世話は侍女が一通りするし、料理も王宮付きの料理人がしてくれる。武術の練習は少しするが、他の芸術に関してはさっぱりさせてもらえない。侍女に頼んでみても、勇者にそのようなことは必要ありません、と恐れ多いというような様子で必死だった。
クレアは別に、侍女や料理人たちの仕事に不満があるわけではなく、むしろ感謝しているくらいだった。彼ら彼女らは本当によく仕事をしていた。
しかし、クレアも年頃の女の子。武術以外にもやりたいことはたくさんあるし、自分でできるところは自分でやりたいと思ってしまうものなのだ。もともと王宮に住んでいなかったクレアには、そういうやりたいことが限られてしまうという生活をとても息苦しく感じてしまうところはあった。
もちろん、不便はない。何でも揃っていると言っていい。
ただ、その便利さが余計にクレアに不便な思いをさせてしまう。
何でもかんでも揃っていれば、それでいいというわけでもないのだ。
この十六という年齢になるまでに武術ばかり取り組んできたクレアには、この王宮という場所は新たな道を道を見つけるには不便なところと言えた。
ゆえに、クレアは一日を決まったことでしか過ごしていない。
朝起きて、武術の稽古、それを昼までやってから昼食、少し睡眠をとってから稽古、夕食、そして稽古をしてから風呂に入って、そして寝る。
これを毎日のように繰り返していた。
こうなると退屈退屈と駄々をこねたくなってくる。今出席している会議でも、クレアには理解しがたい言葉が延々と繰り出される。
そこで早く終わってほしいという願いは当然出てくるが、さすがにここまでにはならない、とクレアは横に座るラインヴォルトを見る。
「こら、ラインヴォルト!貴様はまた寝てるか!これで今日の会議何度目だ!」
隊長を束ねる役割のシリウスが、椅子にふんぞり返って爆睡しているラインヴォルトに怒鳴り散らす。
「う~ん、たぶん一回くらい?」
余程眠たいのか、半開きの瞳を目でこすってから大きな欠伸をして伸びをした。
「貴様、陛下の御前で何ということを!それに、貴様はもうこの私に五回起こされているのだぞ!」
「ぐうっ…………」
「寝るな!」
これがなんといつも通りの光景なのである。
怒鳴って声を荒げるシリウスを、ハルイドが手で制した。
「よい、シリウス。こやつのこの態度は今に始まったことではない。いくら言っても言うことなど聞かん。自分のやりたいことだけやるという自分勝手な人間なのだから、いちいち目くじらを立てていては身が持たないぞ?」
「……陛下がそうおっしゃるなら」
ハルイドがラインヴォルトを放っておくと言ったことに、ユーリとラナンシュは小さく笑っていた。
「ラナンシュ、相変わらず我らが陛下は身内に甘い」
「そうだのぉ。それがハルイドというものだろう」
ほっほっほっ、といかにも年寄りといった笑いをするユーリとラナンシュに、アスティリアがふふっと笑みをこぼす。
「まだまだお二方はお元気ですねぇ。この状況で笑っていられるなんて、心臓がお強いんですのね。そうは思いませんか、クレア?」
「えっと、そう、ですね。お強いかもですね」
「あら、私が強いと言ったのは、あなたの心臓ですよ?」
「別に私は二人じゃないですし、笑ってもいません」
「あら、私そんなこと言ったかしら?」
「一瞬前のことですよ?さすがに私もそんなに早く忘れることは、半分くらいしかありません」
「半分はあるわけね。かわいそうに」
「それ、自分に言ってくれません?」
バンッ!!
会議そっちのけで各々が会話をしてしまう状況で、シリウスが机をたたいて、その場を黙らせた。
「会議の途中だ」
シリウスの放つオーラに、国王も苦笑いをしていた。唯一、にこにこしていたのはいかにも図太そうなアスティリアだけだった。
会議が強制的に軌道修正されたことで、ハルイドが再び進行を始めた。
「とはいえ、次で最後に議題なのだがな。そこで、つまらなそうにしている勇者、今回はお前にも関係のあることだ」
ハルイドがいきなりクレアのことを言ったのには驚いたが、それ以上に『つまらなそうに』、という言葉に反応して鋭い視線をクレアに向けるシリウスから、クレアはそっと顔を逸らした。怖いシリウスはできるだけ視界に入れないようにしながら、クレアはハルイドに尋ねた。
「私にも関係あるって、どういうことですか?この資料を見る限り、そのようなものがあるとは思えないんですが」
パラパラと資料をめくって確認するクレアは、やはり見当たらず、その目をハルイドへと向けた。
「それも当然だ。私が今から言うことは、まだユーリとラナンシュ、そして四人の隊長しか知らないのだから。その資料ああくまで私たちが要請した通りに作成されたもので、私たち以外の者が関わている。外部に情報が洩れると厄介であるから、その資料には載せていないのだ」
「ここには国に関する重要なことが掛かれているんですが。それを作成するのに相当信頼できる人たちのはずです。つまり……それ以上の大ごとってことですか?」
「その通りだ。だから、お前にもこの情報は内密にしてもらいたい。せめて、実行日が来るまでは伏せておきたい」
「……ことの重要性は何となくわかりました。それで、結局その情報とは何ですか?」
クレアが聞いたことで、その場が少し暗い空気になる。ハルイドやユーリにラナンシュはもちろんのこと、軍のトップであるシリウスやいつも微笑みを絶やさないアスティリア、いつも無口で不愛想でわかりづらいメフィスト、そして先ほどまで寝ていたラインヴォルトでさえもその表情に影を落としていた。
その様子にただならぬものを感じ、クレアはごくりと息を呑む。
この空気では言いづらいと判断したのかシリウスが口を開こうとしたが、ハルイドが再び手で制した。
「陛下……」
「これは私の義務だ」
「……わかりました」
そう言って頭を下げたシリウスから、ハルイドはクレアへと視線を戻した。
「よく聞き、そしてしっかりと受け止めるのだ」
「はい……」
緊迫した雰囲気の中、ハルイドが口を開き、みんなの顔の影の理由を口にする。
「炎魔竜アグニ……あの悪魔の竜が、復活する……」
「………………」
しばらく呆然としたクレア。信じられないものだった。信じられるはずがなかった。
しかし、他の人たちの表情は、それが真実だとクレアに告げる。
「え?」
それでもようやく発した言葉が、理解できないという意思表示だった。




