第45話 今必要なのは情報
このサブタイトルは、どうすべきか迷いに迷い……こうなりました。
意味は、申し訳ありませんが中身のあることではありません。
案の定、グレンがそこに行くと、中から出てきた女性が疑いと同時に怯えの表情を向けてきた。
原因はわかり切っているが、実際にこういう表情を向けられると、冷静な今はかなり困ってしまう。
できることなら、自分が見ている前では愛想よく建前だけでも笑顔を作ってもらいたという、かなり図々しいお願いをしたいところのグレンだった。
ただ、それを表に出すことはなく、重要な要件を手早く済ませたかった。
「何の御用でしょうか?」
「そちらの娘さんに、黒蛇に近づいていた時のことを詳しく聞きたいと思いまして」
「帰ってください」
考える間もなく即答し、グレンの目の前で扉が閉められた。
余程ショックだったということはグレンも十分わかっているつもりなのだが、今はそんなことを気にしていては手遅れになりかねないのだ。
小さい頃は大人の事情というのは誰しも嫌いなものだったが、実際にその大人の事情をかざしている自分に、何ら違和感を覚えなかった。
そんな自分が幼気な少女に何をしようというのか、と自問自答の嵐が押し寄せるが、それを何とか振り払う。
このままドアを蹴破ったり、ぶち抜いたり、壊したりすることはできるが、そこまで迷惑をかけるのは、グレンは忍びない。
ただでさえ悪いイメージしかないのに、これ以上何かをしでかすと取り返しがつかなくなってしまう。
ならば、何も壊さずに、中にいる女の子だけをこちらに転移させる、という方法もある。
(て、そりゃ誘拐だろ!)
自分で自分にツッコミを入れるという虚しいことをしているグレンは、他に何ができるか考える。
(やっぱ厳しいか。たしか、弟のルイが黒蛇になったとか言ってたからなぁ。訳がわからなくてショックなんだろうな)
穏便に事を済ませて、知りたいことを知るというのは、やはりこういう状況で環境では難しいのだ。
せめて、グレンがこの村に受け入れられていれば話は別だったのだが。
(本当に、そうなんだよなぁ。まぁ、ほとんど無理なのはわかってるけど、そういうアドバンテージがあれば……はぁ)
「はぁ……」
気付けば、心の中でのため息が現実でもグレンの口と体全体から発せられていた。
そのオーラは、いかにも気が滅入っている風だった。
「どうにかならんもんかね」
仕方なくひとまずは断られたその家から遠ざかる。
いつまでもそこにいては、すでに悪いイメージがさらに悪くなるだろう。
それはできることなら避けたかった。
「このまま不安を残すのはなぁ……」
相手が相手なだけに、ミスはない方がいい。
(リベルが誰かを庇えるくらいにまともに動けたなら、黒蛇は大したことはなさそうだが、何度も黒蛇に襲われてる…………あぁ、リベルのは当てにならないか)
グレンは今更ながらに気付いた。
(あいつの初遭遇の魔獣がアグニだったか。もしかすると、アグニと比べていたから動けたということも……。となると、俺でもやばかったりするのか?嘘だろ?)
こうなれば、より一層情報が欲しくなった。
何だか、旅に出てから少しだが、もうすでにリベルを基準にしてはいけないのではないか、という考えがグレンの中で固まりつつあった。
正確面では最初からそうだったが、いまではもうその他のものさえ。
特に魔法関係などは、よくわからない。
(こりゃ、目を覚ましたら聞いてみるか。いや、聞いてわかるような感じじゃねぇか。調べる、ていう方が正しいな)
リベルのことはひとまず置いておいて、今は黒蛇のこと、そして女の子のこと。
直接話が聞けないなら、情報は得づらい。
グレンはその状況に顔をしかめた。
(あんまりやりたくねぇんだがな。薬草の時の魔獣に対してといい、何だか俺の考え黒くね?リベルのことが言えないくらいに。これも力を解放したから出てきた優越感、みたいなもんかな。ったく、嫌になる)
グレンは自分の出した方法に頭を抱える。
黒蛇のことをできるだけ早く知りたい。
しかし、だからと言って他人の、しかも幼い女の子のプライバシーを無視するようなことをやるのも気が引ける。
どっちを取るべきか。
(…………これが大人の判断かな。これだから……)
その先を続けることを、グレンはしなかった。
思うだけで気が滅入りそうだったので、思考を強制的に止めることで、それを凌ぐ。
とはいえ、結論を出したことは変わらず、グレンはばれたら誰からも非難されるであろうことを実行する。
(ごめんな)
心の中で女の子に謝り、グレンは魔法を発動させる。
心苦しくも、必要なことだと自分に言い聞かせて。
グレンが<ナイトメア>の二段階目と同じくらい嫌っている、しかし便利な魔法。
その魔法は、人の記憶を見る魔法。
♢♢♢
長老はグレンの予想通り黒蛇のさらなる襲来を恐れ、櫓で警戒に努める。
そんな長老には、黒蛇のことを考えているグレンとは別に、気になることがあった。
「フォルトナは、なぜあの時に……」
そう。
長老たちが黒蛇襲来を聞く前、グレンを神殿へと連れて行ってフォルトナの説明をした後。
反応しないフォルトナを見て、グレンは早々に諦めて神殿を出ようとし、長老も諦めたその時に、なぜか光り輝いたフォルトナ。
その光は、虹色。
グレンは一度だけリベルに<ナイトメア>をかけようとした時に、それと同じ虹色の光は目にしていた。
しかし、長老はフォルトナの虹の光ですら今まで見たことがなく、その現象には何も言葉がなかった。
これは一体何なのか。
どういうことを意味しているのか。
なぜ、グレンが神殿に入ってきて一番近づいたときに光らなかったのか。
なぜ、出ようとした時に光ったのか。
過去の伝承によれば、フォルトナは適応する者にすぐに反応するとのことだった。
時間差の意味が分からなかった。
「だが、それよりも……」
長老にとっては、いつどんなタイミングで光ったということは、光ったというその事実そのものに比べれば、大したことではなかった。
どんな時であろうと、光ったということは適応する者であるということなのだから。
しかし、長老の衝撃はその後にあった。
なぜなら、フォルトナの光が、少ししたら収まってしまったからである。
何もアクションを起こさなかったにもかかわらず、フォルトナの光は消えてしまった。
その後にグレンが近寄ったり、再び出ようとする素振りを見せるが、フォルトナは一切反応しなかった。
たった十秒程度の光。
それが何を意味しているのか、全くわからなかった。
フォルトナが光ることが初めてなら、その後に自然と光が消えることの記述は、村の伝承を探してもなかったのだ。
「ようやく……ようやく光ったというのに……何じゃこれは?一体、あのフォルトナとは一体何なのじゃ?」
独り言でそう呟く長老の頭の中はぐちゃぐちゃとしていた。
フォルトナのことと合わさった起きた黒蛇の突然の襲来。
なぜこうなったのか。
思えば、リベルとグレンが来てから、この二つの不可解は起きた。
「グレンとリベル……この二人が……来てから、か」
長老は村の子どもを庇って守ってくれたリベルには感謝していたし、村の人々が暴力を振るったことは申し訳なく思っていた。
しかし、それでも長老も村の教えに従って生きてきた身。
グレン以外の人間に、そう容易く心を開くものではなく、安直的にリベルを災いの種と判断しようとしていた。
「リベル……か。両親がフォルトナについて知っていたようじゃが、それはどうして……」
グレンの大概謎は多いが、それでもその謎を意図的に隠して自覚している分はいい。
それに対して、リベルは自覚がないまま謎を抱えている。
その違いから、長老はリベルに得体の知れなさを感じて、少し恐怖していた。
もう何十年も生きてきた老人が、まだ十代の少年に畏怖する。
そうなってしまっているのは、今の非常事態も原因の一つだった。
「……ん!?」
考え事をしていながらも、自分なりにはちゃんと見張りをしていた長老の目に、一つの、一本の影が見えた。
「あれは!」
全体が見えずとも、それだけでわかった。
リベルにたいしてとは違い、生物として恐怖を覚える対象。
黒蛇だ。




