第43話 わかったこと
酔いしれるわけではありませんが、毎週休みに頑張る自分の姿を見てみたいものです。
グレンは魔獣が倒れたのを見ただけで、そちらにはもう気にする素振りすら見せなかった。
当初の目的であった薬草の元へと真っ直ぐに向かうと、防御魔法を解除して薬草を手に取る。
「……おぉ」
改めて見ると感嘆の声が漏れる綺麗な虹色だった。
周囲が幻想的に光っていることと合わせて、非常に見ごたえのある薬草であった。
しかし、もちろん観賞目的で採取するわけではなく。
「早く持ち帰んないとな」
リベルの楽器を収納したときと同じ要領で薬草をしまうと、グレンは来た道を振り返り……そして、ため息。
「はぁ。また引き返さなきゃいけないのか。さすがに面倒すぎる」
ここで詳しい事情が分からないリベルや長老辺りは、転移魔法を使えばいいじゃないか、というツッコミが来そうだったが、生憎と今は転移魔法が使えないのだ。
しかも、旅に出てからだから、ナルゼを出た後から。
もっと正確に言えば、ナルゼのリベルの店を出た後から。
「本当に、便利の割には不便だな、おい」
傍から聞けば矛盾しているような言葉だった。
これを直すと。
『本当に、(移動に)便利の割には(使い勝手が悪くて)不便だな、おい』
という風になる。
どういうことかと言うと、まずは原因。
それは別に不調とかではなく、ただ単に、グレンが収納してリベルの楽器たちだった。
出発前にグレンの魔法で楽器たちを収納したが、その収納した場所というのが、別空間にある倉庫、のようなイメージの場所である。
ようは、楽器たちを別の場所に転移させたと言える。
そして、それはさっきの薬草も同じ。
グレンが魔法で倉庫まで収納したいものを転移させ、取り寄せたいときは倉庫からこちらへ転移させる。
次に、転移魔法の説明だが、この魔法は何もある地点から別の地点へと直接転移するのではなく、ものを収納する倉庫を経由して別の場所へと転移しているのだ。
これはあまり知られていないが、転移魔法を使うものならば誰でもこの方法を取っている。というより、現代ではこうするしかないのだ。
今転移魔法が使えない理由は、至極単純なことで、非常に面倒なことである。
それはすなわち、人が出入りできるスペースがないのである。
この場合、絶対に無理というわけではない。
無理をすれば倉庫内にねじ込むことは可能だが、何分隙間がないので、人のからがぐちゃぐちゃに文字通りねじ込まれてしまう。
つまり、だ。
この状態で転移魔法を使えば、命がないのである。
そんな危険なことはできない。
しかし、そもそもな話、この倉庫というのはいわば次元の狭間のような場所で、本来は容量に限界などはないのはずなのだが。
「俺の今の力量じゃ……」
今のグレンの力では、倉庫からの出し入れはできても、そこに限界ができてしまうのだ。
悲しいことに。
それを意識したら、グレンはもう一度ため息をついた。
「はぁ…………この際は仕方ないか?」
このまま同じ道を戻るのが面倒なのと、この先旅を続けていくうえで、まだまだ強敵と戦う羽目になるのを考えると、少しくらいはいいかもしれないとグレンは思った。
少しくらい、少しくらい。
少しくらい、封印を解除してもいいのではないだろうか。
リベルの両親、キリルスとミシュアにも注意されていたことだったが、今はいいかもしれない、と。
リベルを守るためにも、全盛期ほどでなくとも、その十分の一程度の力はあった方が良いと思った。
なにも、いきなりすべてを解放するわけではない。
精々十分の一だけ。
今の力は、全盛期の百分の一にも満たないのだから。
その程度の力だけでは、守りたいものも守れないのである。
グレンはごくりと喉を鳴らし、自分の中の鎖へ、手を加えた。
♢♢♢
リベルは目を覚ましたように、はっ、となった。
しかし、それは本当に目を覚ましたのではなく、何も見えない暗闇に戻って来ただけだった。
「また、ここか」
少しは、どころかかなり期待していたリベルは、かなりがっかりしたように肩を落とした。
とはいえ、実際には自分がそんなことをしているのかは見えないので、感覚的に肩を落としているに過ぎない。
ただ、がっかりしたのは本当で、それは声にも伝わったようだった。
『期待させてしまったようで申し訳ございません。まだ、あちらには戻れないのです』
「一応、なぜなのかを聞いてもいいかな?」
リベルのその質問は、言葉の裏にここに残る理由、すなわちここが一体何なのかを聞いていた。
『そうですね。まず一つは、あなたの体はまだ回復していないということです』
「やっぱ、黒蛇の毒で?」
『その通りです。次の理由が、ここがあなたと私の空間だから、ということです』
その答えは、リベルがわかりにくく聞いた、ここがどこなのか、ということへの回答だった。
「僕と君の空間、ていうのは意味が分からないんだけど」
『でしょうね。あえて言うなら、ここは私たちの共有空間だということです』
「共有空間?」
『あなたと私の意識が交わる場所。今はこんな何もない、光すらない場所ですが、条件が揃えば見違えるような場所になりますよ』
「ものすごく意味がわからないんだけど、これって僕の頭が悪いわけじゃないよね?」
『それを説明している本人に聞くのはなかなか意地悪なことですが……えぇ、そうです。今の説明ではわかりづらいかもしれません』
「だよねぇ~」
『ですが……』
声の保証が入ったことでホッとするリベルに、声は続ける。
『その時が来れば、私が言ったことの意味が分かるでしょう。安心してください、危険はありません』
「いや、危険のあるなしは今はどうでもいいや。結局、その時になってみないとわからないんだし」
『その通りです』
「で、君の言ってた条件てのは?」
『そのことは、先ほどご覧いただいたことにも関わってきます』
リベルが見せられたのは、オーリン村の過去。
そして、誰かの視点で見せられたことだった。
「あれを見せられる前に、確か記憶の旅って言ってたよね?もしかして、あれって君の記憶?」
『さて、それはどうなんでしょうね?』
「へ?」
はぐらかされるリベルには、声の主が何となく笑みを浮かべているように思えた。
そして、それが間違っていないようにも思えた。
『とにかく、その過去と条件というのをかみ合わせる必要があるのです』
「かみ合わせるって、どういうこと?」
『あなたが見た過去を武器にして、条件を引き出すのです』
「過去を武器にしただけで、そんなことができるの?」
『可能です。というより、むしろこれでなくては、すべてが丸く収まることはないでしょう』
「すべて、か。それって……」
『はい。オーリン村のこと、フォルトナのこと、黒蛇のこと。そのすべてです』
この時には、リベルは声の言う記憶の旅で見てきたので、フォルトナがグレンがオーリン村へ来た目的の腕輪だということはわかっていた。
ある一人の少女が使っていた魔具。
資格のある者にしか反応しないそれが、一体どんなものなのか。
その知識が、すでにリベルの頭の中にはあった。
そして、なぜ黒蛇が存在し、何の目的でオーリン村を襲うのかも。
「面倒になる予感しかしないんだよね」
リベルのような人間が出しゃばって武器として翳していいのかが不安になってくる。
最悪、村人に前以上にボコボコにされてしまうかもしれなかった。
『その時はグレンに守ってもらえばいいではないですか』
「まぁ、それもそうだね。僕は精々村人からの熱い視線に耐えればいいか」
『視線の種類は……言うまでもないですね』
そう。言うまでもなく、殺意か嫌悪。
そういった負の感情で間違いなかった。
明日も、頑張りたいなぁ。
いや、今日だった。




