第40話 光る洞窟
色々考え事をしながら洞窟内を進んでいたグレン。
所々で魔獣と出くわしそうになったが、そこは何とか対処して危機回避をした。ひやひやする場面もあるにはあったが、序盤の魔獣大集合に比べたら断然楽だった。
暗闇の中も大分慣れて、今では明かりを使っていた時と同じくらいのペースで進めていた。
(もうそろそろ一時間は経つか。このペースだと三時間はギリギリか?早く帰るに越したことはないんだが)
歯がゆい思いのまま進み、薬草のある洞窟の奥へと進んでいく。
地図は完璧にわかっているので迷うことなく道を選べているが、それでもやはり不安はある。
もしこのまま進んだとしても、もし薬草がなかったら?
長老までグルになる、ということは考えづらいことだが、それでも薬草が常にそこにあるとは限らないのだ。長老から教えられたその場所で何かが起きて、薬草が全滅している可能性すらある。そうなってしまえば、グレンにはもうできることはない。ただ、リベルの回復力に賭けるしかないのだ。
(あぁ、くそ!こんなことを考えてもしょうがねぇ。なかった時のことを考えても意味がねぇってのに)
グレンは唇をぐっと噛みしめる。
長く生きていても、近くにいる者の死には人並みの恐れがある。それがグレンが最優先に考えているリベルのこととなればなおさら。
リベルの両親に頼まれていたこともあるにはある。
しかし、それ以上にグレンはリベル=ハーモという人間に死んでほしくはなかった。
可能性があるとはいえ、何もできなかったでは済まされないことなのだから。
グレンの考えが暗く落ち込んできているのは、時間が経過していることの焦りと、洞窟内が真っ暗で周りが良く見えていないことによるものだろう。
暗い考えをしてはいけないと考えを振り払うグレンだが、一度考えれば付きまとってくるのが、こういう後ろ向きなことの嫌なところだった。
今はとにかく進むしかないのだから、余計な考え事は後回しにしなければならないというのに。
(そうなったときは怖いが、やっぱりリベルに頑張ってもらうしかねぇんだよな。俺が戻るまで耐えてくれればいいが。そうだな。俺が何とかするって思わないと、できるもんもできねぇ)
無理矢理にでも前向きな考えへと戻して、気持ちを切り替えた、と自分に言い聞かせていると。
「ん?」
今まで真っ暗だったのに、何やら小さな青い光が道の先に見えていた。
「なんだ、ありゃ?」
疑問に思ったグレンは少し足を速めて、道の先、青い光へと近づいていく。
近づいて行くにつれてその光は徐々にはっきりとしてくるが、その発光源までは距離があるのか、なかなか辿り着かない。
それでも不可思議なこと。
そこに何かがあると考えるのが普通で、気になるのは必然。少しくらい距離が離れていても気にはならない。
グレンは早足で光へと向かい、ついに、そこにたどり着く。
青い光がその場所の壁面全体を照らしているのが、離れた場所から見てもわかっていた。そして、そこの目の前に立つと、より一層その風景が幻想的なものだと思えた。
「これは、きっとリベルが気に入る光景だな」
笑みを浮かべたグレンが目にしているのは、何やら空気中に発光する小さな粒が舞っていて、その青い光がそこから先の洞窟を照らしている光景だった。
さっきまでの重苦しい雰囲気はどこに、というほどの洞窟内の変化に若干戸惑うグレンだが、こういうこともあると思い直した。なにせ、ここの空気中の魔力濃度はとても高いのだから、そういう不可思議な現象が起きてもおかしくはない。
「何だか、これはいいな。確か、この先に薬草があるから、この中を通っていくのか」
少しだけ淡く照らされる道を歩いて行くのを想像してワクワクしながら、グレンはその道を歩いて行く。
何だか今は観光客気分で、天井やら壁面やらを見回して感心していた。
やはり、人間が作り出す美しさも自然が作り出す美しさもどちらもあるんだと認識させられた。
グレンとしては自然の方が好きなのだが、リベルはどうなのだろうと気になった。
「今度聞いてみるか」
青い光でこの辺りが神聖な場所のような気がしているのは、グレンの間違いではないだろう。こういうところに特別な薬草があると言うのなら、それは当然だ、と今のグレンなら即座に頷いてしまうほどだった。
「さて、もうそろそろだと思うが」
美しい光景に目を奪われていてすっかり意識の外だったが、ようやく思い出したことでグレンは再び警戒をした。探査ではこの先は広場のようになっていて、地図と照らし合わせるとそこに薬草があるようだった。
ただ、最初に広場で大量の魔獣が集まったことはグレンの記憶に新しく、今度も似たようなことにならないかと心配だった。もっとも、今は洞窟内にあの時ほどの数の魔獣はいないし、最初の時は大声を出したグレンのせいということもあるため、気を付けていればあの時のようなことにはならないはず。
不安の中でそうやって自分を落ち着かせるグレンは、次第に先の広場がうっすらと見えてきた。どうやら今通っている道と同じように、広場も青く照らされているようだ。向こう側から見える淡い光は、不思議とグレンを安心させる。
「よし、このまま行くか」
なんだかんだ言っても洞窟に入ってからそれなりに時間が経って、少しは苦戦もした結果辿り着いた場所だ。緊張はするが、それでもそこにあると信じてグレンは、駆け足で光る道を抜けて広場に出る。
「おぉ……」
道に入り始めた時も光に囲まれて驚いたものだが、広場のように大きく広い場所で同じ光景を見て体感すると、また違った感じがする。
同じように光に包まれているのだが、道に入った時は後ろは暗かったので、前面だけ明るさがあった。それ故に綺麗と言える部分もあったが、広場の方ではもう言葉通りどこを見渡しても光、光、光となっていて、まるで星空の中にいるかのよう。
それでも、壁や天井が岩でできているのは確認できたが。
「おっと、気を取られてる場合じゃなかった。薬草、薬草っと…………あった!」
見渡して損したと思えるほどに、中央にドドンと一つの草があった。
様子からしてはちょこん、という感じなのだが、ここまでの苦労を考えると、やはり派手な登場という感じがグレンにはあった。あくまで、グレンの個人的な感覚だ。
グレンはその一つだけ生えている草へと近づいていく。
茎は普通の緑色で、花は咲いていないのだが、なんと付いている葉っぱが七色に光っている。その色合いはゆらゆらとしているかのように少しずつ変わっていく。その草の周辺では葉っぱの色が地面に映し出されて、その一つだけの草を華やかにする演出のように見えた。
そんないかにも特別です、とでも言ってそうな薬草が長老から聞いていた通りであったため、グレンはそれが解毒に必要な薬草だと理解した。
「さて、とっとと持って帰って、リベルの目を覚まさせてやらないとな……って、この言い方だと、何かリベルが催眠術にでもかかってるみたいに聞こえるのは俺だけか?」
自分で自分の言ったことを笑いながら、グレンは屈んで薬草へと手を伸ばそうとした。
しかし、その瞬間、首筋に感じた鋭い感覚に従って、グレンは薬草に触れることなく、全力で後ろへと飛んだ。
そしてその最中に天井を見上げると、さっきは気付かなかったが、天井に巨大な魔獣が張り付いていた。
向こうもグレンの視線を認めたのか、グレンに視線を合わせるとそのまま天井から落ちてきた。
降りてきた、ではなく、勢いを付けて地面に着地すればそれは落ちてきたと言える。
魔獣が着地した時に待った砂ぼこりが晴れると、その向こうに薬草を守るようにそこにいた。
大量集合した時にいた中で一番大きかった魔獣よりも大きい、体長十メートルほどのサソリ型の魔獣。
その目が赤く光り、侵入者であるグレンを見据える。
その目を真っ向から受け止めるグレンは、不敵に笑みを浮かべる。
「やっぱ、そう簡単には行かないか」
僕の中では洞窟は結構綺麗なものなんですけどねぇ。実際に読んだらどうなんでしょう?
それはさておき、いよいよ、洞窟内での最後の戦いです。
グレンは本当に運が悪いというか、実力をうまく発揮できないですねぇ。




