第39話 生まれる疑問
今回はグレンの考え中、が多いです。
グレンの発動した魔法によって、広場全体に一つの魔法陣が浮かび上がる。
そして、五匹の魔獣に向けて放たれた魔法、<テラグラウンド>は、大地そのものを武器となす。
起こったのは一瞬だった。
五匹の魔獣の真下の地面から、それぞれ一本、全部で五本の巨大な剣が飛び出し、魔獣の体の中心を刺し貫いた。
その剣は魔獣の体を串刺しにし、その血で刃を湿らせながら天井へと刃先が向いていた。
大地でできた剣の強度は凄まじく、魔獣の体を貫くのは一瞬だった。あの一番硬度の高い体を持つ魔獣でさえも、抵抗することができなかったほどに。
「……何とか保ったか」
グレンは自分で使った魔法が洞窟を崩壊させないかひやひやしていたが、どうやらどこも心配ないことに安心した。
この魔法を魔獣たちが耐えられないことは初めからわかっていた。
わかっていなくては、こんな博打は打たない。最悪、二度目の大地震を発生させなければならなくなるため、そうなると洞窟が本当に耐えられるのかが不安になるレベルだった。
結果としては予想通り一撃で終わったが、こんな心臓に悪いことはそう何度もやりたくないと思うグレン。
「とにかく、これでひとまず片付いた、か。時間を思った以上に取られたから、急がないとな」
広場は大型の魔獣の串刺しというショッキングな場面ではあるが、グレンはもう興味も関心もないという風に一瞥することなく、薬草を目指して先へと進んでいった。
広場からの道の一つに入ると、すぐに広場が遠くなったような気がした。
道が狭くなっているため、内部の音が響きやすく、外の音を拾いにくいからだろう。
グレンはぬかるんでいる足元を中心に照らしながら、慎重に、かつ迅速に歩く。
時間は結構取られたが、幸いなことに魔力はだいぶ残っていた。魔力の変換効率の良い魔法を重点的に使い、また、普通よりも消費する魔力を少なくしても戦えたことが要因だ。
洞窟という場所は面倒なことこの上ないが、魔力濃度の高い空気には感謝すべきだとグレンは思った。
もっとも、この魔力濃度の高い空気も、長時間ここに居続ければ体には毒になる。
薬も飲み過ぎれば毒になるのと同じように、本来ここは魔獣のような例外は除いて生物が生きていけるような環境ではないのだ。今はこの濃度の高さに心地よさを感じているが、中にいる時間が長引くにつれて体が不調に見舞われ、仕舞いには動けなくなってしまう可能性がある。ここは魔法をよく使うグレンのような人種には特に危険だ。
こういう場所はあまり立ち寄らない方が良いのが常のグレンだが、今は仕方がなかった。
「まぁ、手っ取り早く終わらせたいね。さっきので、結構な数の魔獣は蹴散らしたと思うが……」
広場に集まっていたのは、おそらく洞窟内の魔獣の七割くらいだろう。最初に出てきたオオカミ型と同格の魔獣は、そのほとんどすべてが出てきて、グレンの手によって倒されたに違いない。
残りの魔獣を考えてみると、最後に残った五匹の魔獣と同じかそれ以上の魔獣ばかりだと思った方がいいというのが、グレンの見解だった。
さすがに、それらすべてを相手にできるだけの余裕は今はないため、これ以上遭遇しないことが切に願うことだった。
「とはいえ、完全にスルーしてもらえるかは運任せだな。さっきの戦いでかなり気配を放っちまったし、魔力だって相当な量使った。数が減って遭遇率が下がったのはいいが、その分残ってるのが危険な奴ばっかだと、気が滅入ってくる。どうにかならんかねぇ」
一人ぼやきながら歩いていると、今更ながらに、手元の明かりに気付いた。
「そういえば、もうこれって必要なくね?」
考えてみれば、グレンは先ほどすでに洞窟の細かい構造を調べ尽くしていた。全体像しかわかっていなかった入り始めた時と違って、今では壁面や床の凸凹やぬかるみ具合までもが手に取るようにわかっている。
こうなれば、もはや明かりなどなくとも少し慎重に歩いて行けば十分に進める。魔獣は気配に気を付けていれば、急に鉢合わせるようなことはないだろう。
むしろ、明かりをつけていると魔獣に気付かれて余計に面倒なことになりかねない。できるだけ魔獣との戦闘は避けたい今は、暗闇の中で慎重に進んで、魔獣が来てもやり過ごすのが一番だった。
「よし」
そこまで考えをまとめたグレンは、手元に明かりを躊躇なく消した。
唯一の明かりをなくし、当然のごとく辺りは真っ暗闇に包まれるが、グレンには問題はなかった。頭の中にある詳細な地図に従っていけば、薬草のある場所へたどり着くのはそう難しいことではないのだから。
(それにしても、気になるのはこんな洞窟に魔獣がうろうろしていることだな。いや、今ではうろうろしていたと言うべきか)
洞窟内にいた魔獣はその大半をグレンがすでに倒してしまっているから。
そんなグレンは、明かりを消したことで何となく声を口に出して独り言を言うのをやめた。明かりを消すと、なぜか声の響きが良くなるように思える。
そんな不思議な感覚に、自然にグレンは反応していたのだ。
もっとも、洞窟に入った時点でそこに気を付けていれば、大声を出して魔獣を引き寄せるという失態は犯さなかったかもしれなかった。
そのせいで時間が押しているので、そこは悔やまれるところだ。
(こんな辺鄙なところに、魔獣がそんなにいることはおかしいと思うな。確かにここは空気中の魔力濃度は高く、魔獣にとっては住みやすい場所であるのは確かだが、はっきり言ってここには魔獣の食料となるようなものがないはずだ。少なくとも俺はここまで見ていない。もしかしたら奥地にある何かを食料にしているのかもしれないが、それでもあれだけの数の魔獣が生息するのは足りないんじゃないか?)
グレンは今まで培ってきた魔獣に関する知識を整理していく。
世界各地を回っているグレンがこれまで遭遇した魔獣は、そこら辺の軍の連中よりははるかに多い。そこから学んだことも計り知れない。
そして、その観点から考えると。
(この洞窟は魔獣が十分に生きて行けるだけの環境じゃない。何よりも食料が足りていない。食料がなければ、満足に動くことも生きていくこともできない。しかし、さっき相手した奴らはどれもがしっかりと動いていた。まるで、食料をしっかりと確保しているかのように。俺の勘違い、ということも無きにしも非ずだが、どうにも腑に落ちない。これをそのまま、俺のかんがえすぎで済ましていいことじゃない気がする。もっと考えろ、もっと考えろ。こんなところに魔獣が集まるのはなぜだ?食料がないはずの場所で、どうしてあれだけの数の魔獣が生き残れる?なぜだ?なぜ……だ……)
その瞬間、グレンの頭の中に偶然、グレン自身ですら思いもよらない考えが横切った。
自分で出した考えのくせに、という言い分はあるが、しかしそれほどなのだ。
それほど、グレンは自分の考えが信じられなかった。
それでも、グレンはそれが一番可能性のあることだと思った。
(こんなにあり得ないことが連発している。そこに自然の摂理以外のものが働いているとしたら……。すなわち、人の手。魔獣を手なずけて食料を与えている、というわけではなさそうだから、おそらく食料は……周りにいる自分以外の魔獣。確か、そんな事例があるってのは聞いたことがあったが、実際にあるとしたら相当やばいぞ。魔獣をくらった魔獣は、基本的にはそのスペックが上昇する。本来なら同格の魔獣であっても、魔獣をくらった魔獣は他の魔獣の力を上回る。この洞窟に食料がなくとも十分だったのはそういうことか。そして、魔獣が大量にいたのは、きっと、この洞窟に放たれてすぐだったから)
そう思ったのは、グレンが相手した魔獣たちはそのほとんどが普通の魔獣と同じくらいの強さだったからだ。魔獣をくらっていればもっと強いはずなのに。
(そういうことなら、このタイミングでラッキーだったな。もっと後になって魔獣同士の捕食が始まっていたら、数は減っていても、今回以上の苦戦は免れなかった。そこは素直に喜んでおくか。だが、一つ問題なのは、一体だれが何の目的でこんなことをしていたか、だ。せめて、俺たちの邪魔になるようなことじゃなければいいがな)
ここから次の章に繋がることをちょいちょい入れていきます。
第一章はもう少し続きますが、そろそろ『オーリン村編』の結末をイメージしておいた方がいいですかね。




