第36話 限られた魔法
五匹の魔獣を難なく倒し、ついに嫌々ながらも大量の魔獣が集まる開けた場所に出る。
とは言え、開けていると言っても、そこは魔獣で溢れかえっているわけで、何だかその広々とした感じがわかりづらい。
「だがな、これは多すぎだろ……」
探査の魔法で確認はしていたが、実際に目にしてみるとその数は迫力のあるものだった。
どの魔獣も、別に恐ろしく強いというような奴らではないのだが、いくら何でも数が多い。
これではいくら一騎当千級のグレンでも、物量作戦を取られたら危ないとこである。
いや、魔獣のほとんどは単純な思考をしているため、ただ突っ込んできて結果的に物量作戦になることは目に見えていた。
ここが広い草原とかだったりしたら、ドカンと一発花火でもあげられるものを……。
先ほどから何度も思う、この場所の恨めしさ。
「しっかし、これだけの数の奴がどこから湧くんだか」
それなりに広い洞窟であるのは確かだが、そんなどこもかしこも魔獣だらけというわけではないと思ってきたグレンは、あまりの大歓迎にその考えを改めなければ、と早くも思い始めた。
「こりゃ、苦労するなぁ……」
グレンは若干気の抜けたように独り言を言う。
この薬草採りには、リベルの命がかかっているかもしれないということなのだが、それに対してグレンは焦っているような焦っていないようなという態度だった。
それは不可解と思われるかもしれないが、生憎とそれを指摘するような人間はここにはいない。
いるのは、ただただ大量の魔獣。
「はぁ……」
そっと一息ため息をつくと、グレンはその足を前に出して、魔獣が集まる場所へと一歩踏み出した。
「しゃーない。早めに終わらせるか」
グレンは魔獣たちを見据えて、魔法を発動する。
明かりを掌に浮かばせている右手はそのままに、左手を前に出すと、その掌にどこからともなく現れた水が集まっていく。
それは手のひら大の大きさの球体となり、明かりと同じように掌の上で漂う。
「さてと……それじゃ、行くか!」
自分で掛け声を出して、グレンは魔獣の群れへと立ち向かう。
「先手必勝、ってな」
グレンはが左手を振るうと、球体の水から鞭のように一本のしなる水が構成され、それが魔獣たちを吹き飛ばす。
「おりゃっ!」
最初に現れたオオカミ型の魔獣と同じような比較的小さい魔獣たちが、揃って吹き飛ばされ、魔獣で埋め尽くされていた広場に、一か所だけ空白地帯ができ、そこにグレンは降り立つ。
水の鞭は魔獣を吹き飛ばした後は、掌で球体へと戻っていく。
最初の一撃で飛ばされた魔獣たちは、相当なダメージで、壁に叩きつけられていったのがほとんどだ。大抵の魔獣は、勢いに押しつぶされて壁面に赤い絵を描いていて、そうでない魔獣も動けるような状態ではなさそうだ。
飛ばされた魔獣たちはすべて低級の魔獣であったため、鞭のような水でも十分なダメージを与えられた。
しかし。
「全部が全部うまくいくわけないしな。これが一番楽だけど、工夫しないとな」
洞窟にないに大きな衝撃を与えるような魔法は使えない今、水のように攻撃範囲が広くなくコントロールしやすい魔法を使うことに決めたグレンだが、如何せん威力が出しづらい。
今までは高威力の魔法は人か風属性を中心として使ってきて、水属性はあまり使う機会はなかったと言える。少なくとも、使う頻度は他の属性の魔法と比べたら低いのは確実だ。
ゆえに、いくらグレンでもこれだけの魔獣を相手にするのに水の魔法それだけで戦うのは苦労がはっきりと予想されるものだが、それでも何とか切り抜けていくしかない。
「すぅー……ふぅ……、よし」
一度深呼吸をしたグレンは、覚悟を決めた。
目の前の魔獣たちは、水の魔法のみですべて倒しきる、と。
「頑張るかね」
グレンは魔獣の群れに向かってもう一歩大きく踏み出して、今度は水の球体から先ほどよりも細い糸のようなものを何本も出して、魔獣たちへと襲い掛かる。
先制攻撃でいきなり多くの魔獣を飛ばしたグレンに警戒の色を見せて動いていなかった魔獣たちは、いきなりの攻撃に反応ができず、空白地帯のから数メートルの近さにいた魔獣たちは水の糸にからめとられてしまう。
「……よっと」
グレンは水の糸を操り、からめとった魔獣たちの体を切り刻んでいった。
この水の糸は魔力でできているため、必要なのは指先の感覚ではなく、単純に魔力操作の感覚。そこに関してはある程度の自信のあるグレンは、水の糸で難なく魔獣を倒していく。
水の糸は魔力でできていると言っても水であることもまた事実。
しかし、水というのは恐ろしいもので、操作の仕方によっては、グレンのように魔獣の体をバラバラにすることも可能なのだ。
その時に付いた魔獣の血は、糸をふっ、と払うことによって辺りに飛ばし、糸を回収して水の球体へと戻す。
最初の一撃と糸による肉体解体で、魔獣は二十体ほどは倒せたが、そんな数は全体に比べるとほんの少しで、しかもこんな魔獣よりもずっと強いのが後ろで控えていることも考えると、まだまだ大変なことだった。
「もっと来いよ」
魔獣に言葉が通じるわけはないのだが、それが挑発だと理解したのか、魔獣たちの様子がグレンに驚くような感じではなく、獲物を見るような鋭い眼差しへと変わる。
本番がここからだ、と気を引き締め、グレンは左手を振るった。
♢♢♢
気が付くと、リベルは暗闇の中に一人いた。
暗い、暗い、暗い。
周りは何も見えず、自分がどこにいるのかわからなかった。何か浮遊感はあるのだが、それだけ。
急に感じたことにもがこうとして腕をバタバタさせようとするが、動かない。腕があるのかすらわからない。
周りは何も見えず、ただの暗闇が広がっているが、それでも暗闇が『見えている』ような気がした。
本来なら何も見えなければ目を閉じているというようなことを思いつくが、この時のリベルは自分は今見ているのだ、と感覚的にそう思った。
見回す、という動作ができているかはわからないが、とりあえずそんなイメージで辺りを見ている気になるが、やはり暗闇だけ。
この中では自分の存在すら何もないもののように思えてしまう、とっても暗い場所で、人によってはパニックに陥って泣きわめいてしまうだろうな、と意外に冷静にリベルはそう思った。
(暗闇と浮遊感……霊体ってこんな感じなのかな?)
冗談ではなく真面目にそう思うリベルは、この場所について考え始める。
とりあえず、思考という行為ができている以上、魂は確実にここにあるようだ。
仮にここが存在するどこかだとすると…………考えが詰まる。
(ていうか、こんな何もないような場所が実在するなんて信じられないし。これは仮定が間違ってるかな?)
もう一度リベルは考え直す。
仮にここが、夢の中のような実在しないような場所だったら…………考えが詰まる。
(夢ってどういうこと?そもそも、夢だったらどうしようもない気がする)
もっと自分に可能性が見えるようなところに仮定しようと考えるリベル。
…………………考えが詰まる。
(そんな完全に僕の理想の世界を仮定しても意味ないし。何でこの場所がどこかを考えるのに、ここが自分に都合の良い世界として仮定しなきゃいけないんだよ)
自分の思い通りになる世界でないことはわかる。
いくら何でも、何もわからなくともわかる。
なにせ、こんな何もないような場所で何かできるとはどうしても思えないのだから。
(ここは発想を逆転させて、完全に自分の思い通りにいかない世界という仮定は…………ないな。それは結局、誰かの夢ってことと同じだから、無意味だ。ていうか、自分に可能性が見える世界と仮定しようとしたのに、何ですべての可能性を消すような仮定にしたのかな?自分で自分に聞きたい)
そんなこんなで悩むリベルだったが、不意に、あの時の声が聞こえた。
『遅れて申し訳ありません』
やはりそれは、若い女性の声だった。
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自分的には、戦闘シーンはできるだけ引っ張っていきたいですね。
自分と同じものを読者さんに見てほしいです。




