第35話 自業自得
思えば、一話3000字程度に定まってきました。
これがこのまま続けばいいな、と自分のことであるがゆえに切に思います。
グレンの前に現れたのは、オオカミ型の魔物、いわゆる魔獣と呼ばれる部類だった。
その魔獣は毛並みは黒く染まっていて、もしグレンが魔法で辺りを照らしていなければ、視認できるのは金色に輝くその瞳だけだった。
魔獣は全部で三匹。どいつも獰猛に唸っていて、侵入してきたグレンに警戒心をあらわにしている。今にも襲ってきそうな雰囲気ではあるが、それでもグレンは冷静だった。
「まぁ、初めはこんなもんか。崩しちゃ悪いから、少し加減を調整するか」
グレンは余裕の表情で一歩狼へと近づく。
その動作を見た瞬間、線が切れたように一気に魔獣三匹がグレンへと襲い掛かってきた。
「このぐらいなら……こんな感じか」
目をすっと細めると、グレンは自分に迫ってくる空中の魔獣を見据え、それらに向かって人差し指を向ける。
そして、その指先に魔力を集中させると、指先に何か黒いものが集まり始めた。
それはグレンが辺りを照らしているからわかる黒で、そうでなくてはわからない。
その黒いものは、グレンの魔力。
いつもは白い魔力なのだが、こうして戦闘になって意識を集中させると、こうした真っ黒な魔力となるのだ。こっちが本当のグレンの魔力と言える。
そんなグレンは指先に溜めた魔力を、魔獣たちに向けて放つ。
それは精々が豆一つ分の大きさ一つ。
たったそれだけのもの、だが。
「燃えよー」
その一言。
それだけで、魔力を中心として、爆炎が巻き上がった。
火でも炎でも生温い。
そんな言葉で言い表せるものではない。
爆炎は魔獣三匹を一瞬で飲み込み、さらにその後方へと洞窟に沿って突き抜けていった。
グレンは安全も考えて自分の方へ炎が来ないように、爆炎に方向性を与えていた。
それゆえに、グレンに熱気が伝わってくることはあっても、火の粉が飛ぶことすらなかった。
爆炎が晴れ、ようやくその向こうの洞窟までが見えるようになったところ、そこに残っているのは、三つの黒い塊だった。
それは明らかに魔獣の毛が黒いからではなく、その体が灰になっているということだ。
絶命は確実。
燃えよ、の一言ではあったが、結果は燃える程度では済まなかった。
魔獣は完全に燃え尽きた。残るのはただ灰のみ。一瞬で命を刈り取った爆炎だが、それでもまだグレンは加減していた。
「これでもまだ威力が高いか。何気に攻撃系の魔法は久しぶりだからなぁ。感覚が少し狂ってるか。ちゃんと正していかないと、洞窟が崩れて薬草が取れなくー」
そこまで自分で言ったところで、グレンは重大なことに気付いてしまった。
いや、まだその場所はさらに奥で、ここからかなり離れている。いくら密閉空間の洞窟であっても、道なりに進んでいれば、最悪なことにはなってはいないはず。
「大丈夫だ、落ち着け、俺。計算上、ここらやっても壁を突き破っていないから、そこまでは届かない。だから、大丈夫だ」
そう言い聞かせて自分を落ち着かせたグレンは、もう一度先ほどの行動を思い返す。
「……………………よし。炎系の魔法を使うのはやめにしよう」
もしも、もしも最悪薬草のまで届いてしまったら、それはもう目も当てられない。
せっかく薬草を取りに来たのに、その薬草を自分でダメにしては元も子もなかった。これからは気を付けなくてはならない。
「はぁ、危なかった。…………あれ?これって、風属性もダメじゃね?」
風に煽られて薬草がダメになってしまうかもしれない。
火属性もダメ、風属性もダメ。こうなると、他の属性ではどうか、と考えてしまう。
あれもダメ、これもダメ。
洞窟という狭い空間で、魔法の威力が伝わりやすい場所だからこそ、慎重にならなくてはならないと、今更ながらに気付いたグレンだった。
「ていうか、長老も教えてくれよぉ~!」
グレンの叫び声が洞窟に響く。
それが反響していくつにも重なり合う自分の声を聞くと、グレンは急に虚しい気持ちになってきた。
雰囲気からして、ここで膝を抱えて蹲るとどれだけ会うだろうか、と考えたグレンだったが、すぐに気持ちを切り替えた。ここでのんびりとしていたら、長老の言っていた時間まで間に合わない。
『噛まれてから一時間経ち、解毒の薬草を微量呑んだことから推察すると、早くとも三時間で絶命、ということになるだろうな』
三時間というタイムリミット。
致死性の毒にしては随分と長い時間だが、それが微量の薬草の効果だという長老の話からすると、やはり今から取りに行く薬草の効能は期待できると思えた。
「三時間……。長いと思いきや、ここを通っていくとなると、少し時間がかかるかもだから、予想だとそこまでじゃない、か」
いざとあれば転移魔法を使えなくもないのだが、それはあくまで最後の手段。変わらず、今は使うことができない。
「それだと、やっぱ急いだ方がいいか。ただ、使える魔法のことを考えると、あまり無茶はできないな」
自分で確認した感じでは、グレンの使える魔法の半数近くが使えないということになった。
グレンはこれでもかなり高威力の魔法を持っていて、火や風以外でも使えば大惨事となりうる魔法がある。洞窟の中ではなおさら。
ここまで自分の魔法が使い物にならない事態が連発するとは思ってもいなかったことで、これはもう試されていると思えるほどだった。
しかし、当然その程度ではめげないグレンは、リベルのためにという目的で、最善の方法で薬草を手に入れようと思った。
「よし、やり方は決まったし、そろそろ移動していくか」
思えば、魔獣の死体、というか灰の目の前で立ち止まっていたグレンは、思い直して再び足を進める。
いくら死体でも、もう灰になっていれば何も思うところはなく、面影すら残さないそれを踏み越えて、グレンは奥へと向かって行く。
するとー。
「これは……ちょっと……」
目の前の状況に頬が引きつった。
この狭い洞窟に先ほどの三匹でも横幅一杯一杯だったのに、それと同じ魔獣が今度は五匹も現れた。
いくら何でも頻度が高いだろ、と思ったグレンは嫌な予感がし、ここで探査の魔法を使う。
普通の探査では魔獣は見つけられないが、モードを生体反応へとシフトすると、見える見える。
この五匹のさらに向こう。
狭い洞窟を抜けて少し広くなっているところに、四方から魔獣が集まってきているようだった。目の前の五匹はその中から飛び出てきたと見える。
「これ、無限に湧き出るとかないよな?さすがにそれじゃあ、きつすぎるぞ。ていうか、こんなのを長老たちは突破したのか?すごいな……って……あぁ~」
勝手に納得したグレンは、額に脂汗を浮かべていた。
先ほどの魔法で疲れたというわけではなく、頭を使って混乱しているというわけでもなく、ただ魔獣が集まっている理由に気付いてしまったからだ。
それはもう直後に気付いて行動すべきだったのに、だらだらと思考していたことで、完全に失念していた。
これはもう、グレンの自業自得。自爆とも言う。
原因は簡単。
グレンが洞窟内で上げた叫びが全体に響いていて、その発生源近くまで集結しているのだ。
獲物は間違いようがなく、グレン。
リベルのために、と気を引き締めた矢先にこんな事態。
今回はグレンの魔法が役に立たないという複雑な事情ではなく、単純にグレンが自分で招いたことだ。
「俺、どっか空回りしてんのかな?何か、悪い方向に転がっていく気がする」
せめて、その悪い方向がリベルへと向かないことを祈るしかないグレンは、再びのオオカミ型の魔獣へと進む。
その五匹の先にもまだいることを、しっかりと意識して。
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グレン無双(?)の予定です。
乞うご期待!




