第34話 薬草探し
長老の登場で、村人たちは先ほどとは別の意味でざわざわとしていた。
「リベルの容態は?」
「……毒の方はわからん。ただ、解毒の薬が足りていない以上、このままでは死に至ることは十分にあり得る。体の方の傷は今は魔法と薬草を併用して治療中じゃ」
この時も奥さんはリベルを付きっきりで看病してくれているようだ。
村人たちのほとんどの態度に不機嫌を示すグレンだが、長老と奥さんに対してだけはある程度温和な対応が取れる。
あくまで比較的に、ではあるが。
「それで、何で止めたんだ、長老?」
「お主が事の真相を知りたがっていることはよくわかっているつもりじゃ。その行いを止めろとは言わん。ただ、少しだけ先延ばしにしてはくれないか?」
「俺にとっては、黒蛇がこの村を襲おうがどうでもよくなってるんだがな」
この短い時間で、グレンのこの村に対する評価は急降下している。
もちろん、リベルと同じように原因が一番悪いということは理解しているが、グレンにとっては別問題だった。
リベルを傷つけたという事実があれば、グレンには軽蔑する理由になりえるのだ。
「そうであろうな。だが、わしが言いたいのはそれでない」
「じゃあ、何だ?」
「先ほど言ったであろう?今は解毒の薬が足りていないのじゃ。このままではあの少年が死んでしまうかもしれん」
「つまり、その薬草を取って来い、と?この俺にそれを言うのか?それはどう考えても、お前らのやることだと思うがな」
「そう言われても仕方がないのはわかっているが、それでもお主に頼むしかないのじゃ」
「意味がよくわからないんだが……」
「簡単なことじゃ。早急に鳥に行くには、わしらには無理なのじゃ」
「どういうことだ?この森はお前らの森だろうが」
「その通り。じゃが、その中でも最も危険な場所にその薬草はある。そこはわしらであっても、十分な準備を整えていかなければ、薬草を手にするどころか、辿り着くことすらできん」
「そんなところがあるのか…………。わかったよ、行ってくればいいんだろ?」
少し悩んだようだが、さすがにリベルの命がかかっているとなれば、判断せざるを得なかった。
グレンがその薬草を取りに行っている間は、この村にリベルを一人にさせなくてはならないという不安はあるが、そこは割り切って考えるしかなかった。
不幸中の幸いか、長老と奥さんはリベルに何かしようとはしないだろうと思えるため、グレンは二人に任せることにした。
とは言え、完全に信用できないというのも事実であるため、すぐに戻ってこなくてはならない、と自分に決めた。
「こいつらへの断罪は後回しだ。帰ってきたら、続きをやる。それでいいな?」
「構わん。お主の好きにするといい」
「言ったな?後で撤回は無しだぞ」
「わかっている。それくらいの礼儀は守ろう」
「これで契約成立だな。じゃあ、その薬草の場所を教えろ。ここから遠いのか?」
そんなに危険な場所なら、たとえ薬草があると言ってもその近くには住みつかないだろう。
ある程度離れたところ、とうのが普通だとグレンは思った。
「まぁ、遠いと言えば遠いが、時間はあまりかからん」
この答えは想定外だった。
いつものグレンなら気付いたかもしれないが、今は頭に血が上っているために冷静に判断することができていなかった。
「転移魔法陣を使えば、時間はかからん」
「あ……なるほどね……」
納得のいったグレンは、自分で自分を慰めるように頷いた。
♢♢♢
転移魔法陣によって、昨日リベルたちが村人に囲まれたところの近くまで来たグレンは、長老の案内図に従って、目立つものが少なくただ普通の木が続いているように見える森の中で、少しづつ手掛かりを見つけて目的地へと向かう。
最初は探索の魔法でどうにかなると思ったのだが、長老の話によると、そこは自然が作った結界があって、魔法による探査はできないのだそうだ。
オーリン村を目指すことになってから、かなりの割合でグレンの魔法が役に立たない事態に陥っているが、これは決してグレンが無能というわけではなかった。
どちらにしても、役に立たないことが多いのは確かであるが。
「ここか……」
地図の通りに進んでようやくたどり着いたそこは、確かに周囲に不思議な空気を感じた。
「なるほどな。自然が作り出した結界ってのはこういうことか」
グレンの目の前にあるのは、大きな穴が広がる洞窟。
それが目的地なわけだが、その洞窟の周囲の空気には高密度の魔力が漂っていて、その魔力がバリアのような役割を果たしているのだ。
逆にこの中に入れば、漂う魔力のおかげで魔法がより強力になる。
しかし、そんな中であっても、オーリン村の人々では辿り着くのが困難だと言う。
「これは苦労しそうだが……しょうがないってことだな。この先に行かなきゃ、リベルは助けられないってことだし……無茶でもやるか。今の俺にできる精一杯を」
そう言ってグレンは、暗く先の見えない洞窟へと入っていった。
中に入ると、すぐにわかるほどにヒンヤリとしていた。
暑い時に入ればこの中は快適だろうと思われたが、今は少し肌寒く感じた。
「そろそろ本格的に暗いな。ある程度暗闇でも見えるが、これくらいとなるとなぁ……」
長老が危険と言うくらいなのだから、視界が頼りないと危ないことこの上ない。
ただ、こういう洞窟では明かりに反応するような魔物が多いのが定番だ。出来れば使わずに済んでいればよかったが、この際は仕方なかった。
「我に光をー」
右手をかざしてそう唱えると、グレンの右掌に光の球体が現れた。
暗視の魔法も使えないわけではないのだが、こういう狭いところで何かを探索する場合はあまり向いていない。
夜のだだっ広い草原なんかだとその真価が発揮されるのだが、このような洞窟でははっきり言って探査の魔法をかけた方が効率的だ。
もっとも、探査でもわからないことがあるから、こうして光の球体を使って目視で確認している。
「さて、ここで分岐か」
洞窟の中を進んでいって、大きく開けた所に出たら、目の前に三つに分かれた道があった。
後ろを振り返ってみると入り口の光はもう見えず、本格的に中に入ってきたのだと実感した。
「えっと、ここの道を……右だな」
地図を確認して進む道がわかると、グレンはその通りに進んでいく。
長老の話によると、一度道に迷ってしまえば、出ることはかなり難しいらしい。いわば迷宮のようなもので、よほどのことがない限りは、村の者でも洞窟に入るのは禁止されているそうだ。
そのよほどが、薬草を取りに行くということなのだろう。
グレンにはいざとなれば探索の魔法があるから脱出できるのだが、使えなければひどいことになることは予想できた。
こんな状況だからこそ、グレンは渋々ながらこの地図をくれた長老に感謝だった。
探査の魔法でもわかるのは全体の地図と魔力の反応だけで、薬草などの植物には反応しないのだから。
そう考えると、多彩な魔法を持つグレンがことごとく空回りしているように思える。
「……吐く息が白いな……」
はぁ~、っと息を吐き出してみると、それは白く空気中に舞う。
外ののどかな天気とは比べ物にならない気温差で、これこそ自然と思える体験だ。
地面もぬかるんできて、慎重に進まなければ足を取られて転んでしまう可能性だってある。
おそらく、奥に進んでいけばいくほどキツくなっていくのだろうが、グレンはそれを覚悟して進む。
「これよりもっとひどいことを経験したことも、あるからな」
不敵に笑みまで浮かべて進むグレンだったが、ついに目の前に現れたものがあった。
「ま、予想通りだな。この後もおそらく続くだろうし、気を引き締めて行かなきゃな」
グレンは気持ちを落ち着かせて、体をリラックスさせる。
体内の魔力が十分にあることを確認して、グレンは目の前の敵を殲滅すべく、魔法を使う。
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