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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第一章 旅立ち、そして新たな日々
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第33話 約束のためなら

 グレンと長老たちがオーリン村へと戻って来たのは、黒蛇が去ってから一時間ほど経った後だった。

 腕輪が光ったことも気になったが、グレンが嫌な気配を感じて索敵したところ、どうやら村に危険が迫っているということで急いで戻って来たのだ。

 しかし、今グレンは転移魔法が使えないので、急いでと言っても走って戻るしかなかったため、一時間もかかったのだ。

 長老の家に戻ると、そこには長老の奥さんの看病を受けるリベルの姿があった。

 急いでリベルの元へ駆け寄ったグレンは、まずリベルの腹部の大怪我に目が行った。


「これは、一体……」


 事情が分かっているであろう奥さんに尋ねると、奥さんは暗い表情をした。


「……黒蛇に……噛まれたんです……」

「何だと!?」


 長老が言っていた脅威、グレンも聞いたばかりでピンとは来ていなかったが、それに噛まれるというのがどういうことなのかは理解しているつもりだった。


「それは本当なのか?」


 今度は長老が尋ねると、奥さんはしっかりと頷いた。


「はい。アマンダちゃんを守って、代わりに黒蛇に噛まれたんです」

「アマンダの……。そうか……」


 長老が重苦しい表情で唸ると、グレンは必死な表情になっていた。


「毒は!?どうなっている?」

「よくわかりません。一応、解毒の薬草は使ったのですが、何分必要量が足りていなかったので、今は毒の回りを遅くしているだけかと思います」

「薬草が足りてないだと?なぜ補充していないんだよ?」

「黒蛇が出現すると考えていたのは、もう少し後のことだ。今の段階で薬草を採取しても、そのころにはすでに使えなくなっているだろう。ゆえに、残りはそこまで多くはなかったのだ」

「だが、黒蛇は現れたぞ。これはどういうことだ?リベルにもしものことがあったら、俺はお前らを許せなくなるぞ」


 グレンが鋭い目つきで長老を睨む。

 リベルがこうなったのは、村の管理が甘かったからだと言える。もっと厳重にしていれば、こんなことにはならなかったかもしれないし、村人がパニックに陥って何もできなくなるということもなかったかもしれない。

 それらはすべて想像で、憶測でしかないが、もっとちゃんとしていれば、という思いがグレンの中にはあった。

 そして、それは長老に対してだけでなく自分に対しても。

 転移魔法が使えなかったとはいえ、それをそのままにせずにちゃんと使えるようにしておく準備はしておくべきだった。

 その準備を怠った結果が、黒蛇が出現してから一時間後に村に戻ってくるという、あまりにも遅いことだった。

 悔しそうに唇を噛みしめるグレン。

 そんなグレンに、奥さんは恐る恐るといった様子で話しかけた。


「あ、あの……」

「あ?何だ?」


 少しだけ不機嫌になっているグレンを前に、奥さんは怯えたような表情をするが、次に意を決したように顔を引き締めて土下座をした。


「本当に、申し訳ありません!!」


 突然のことに、グレンも長老も驚いた表情で奥さんを見つめる。

 なぜそんなことを言うのか。

 雰囲気からして、黒蛇のことを言っているわけではなさそうだった。


「どういうことだ?」

「……リベル君はあくまで黒蛇には噛まれただけで、体中の怪我と黒蛇は関係がないんです」

「それは、一体……まさか……」


 グレンは自分が行き着いた考えを否定したかった。

 しかし、奥さんの様子からそれがほぼ間違いがないことを確信してしまうと、頭の中が沸騰しそうだった。


「おそらく、想像した通りです。うちの村の人たちが、寄ってたかってリベル君を……痛めつけたんです」

「ふざけんじゃねぇぞ、おい!!」


 グレンが上げた怒鳴り声に、奥さんは体をビクンと震わせた。

 長老も、その声の怒気には恐怖を覚えた。

 グレンの後ろには、まるで般若がいるような雰囲気がそこにはあった。


「リベルが何かしたってのか?あ?そんなわけねぇよなぁ。リベルがそんなことをするわけがねぇ」

「その通りです。リベル君は何もしていません。村の者が一方的に悪魔だのなんだのと罵り、暴力を加えていただけです」

「で、その暴力を振るった奴ってのは?」

「相当な数はいると思います。少なくとも、村の大人の男たちはほとんどが。その……無抵抗で蹲るリベル君を集団で蹴り続けていました」

「っ!!」


 グレンは勢いよく立ち上がり、そのまま長老の家を後にした。

 長老はその後姿を見て、この後に起こるであろうことを予期した。


              ♢♢♢


 グレンは村人全員を強制的に、村で一番広い広場に集めた。

 もちろん抵抗する者もいたが、グレンは魔法を使って有無を言わさずに集めた。

 そうして集まった五十人ほどの村人の前で、グレンはゆっくりと、だが確かに怒りを込めた口調で話し出した。


「お前ら、俺の連れに何かしてくれたそうだな?ものすごく腹が立つし、このまま全員締め上げようとも思ったが、さすがにそれでは理不尽だろうと俺でも考えた。だからな、お前らにその時の状況を説明してもらう。そこから俺が判断する。いいな?」


 グレンの言葉に反応はなかった。

 村人たちは、つい一時間ほど前に起きた黒蛇出現が衝撃的過ぎて、言葉が出ないのだ。

 そんな様子はグレンもわかっているが、それでもその沈黙を肯定とみなし、話を進める。


「まず、お前らに聞く。なぜ、リベルに暴力を加えた。いや、暴力なんて生温いものじゃなかったな、お前らがしたことは。誰か、その時の状況を説明しろ」


 グレンが説明を求めると、ある所から声が上がった。


「そんなことより、黒蛇をどうするかを考えるべきだろ」

「そうだな、そっちの方が大切だ」

「ことの重要性を考えると、黒蛇についての方が大事よ」

「このままじゃ、黒蛇がまた来るかもしれないしな」

「後回しにできる話題は今は放っておこうぜ」

「そうよ。優先順位からしたら黒蛇の方がね」


 一人を皮切りに所々からそんな声が聞こえてきた。

 どれも黒蛇についてのこと。

 リベルのことは後回し。


「ふざけんじゃねぇぞ、お前ら……」


 ぼそっと言った言葉は、群衆の声にかき消される。

 そして、その言葉こそが、グレンの限界だった。


「お前ら、ふざけてんじゃねぇぞ!!」


 他の声をすべてかき消す勢いで発せられたそれは、その場にいる全ての人へと届いた。

 その声の発信源、グレンの方へと目を向けると、その目には殺意すら芽生えている。


「お前らの優先順位なんか聞いてねぇんだよ!俺はお前らがどうしてリベルに暴力を加えたかを聞いてんだよ!お前らの勝手な考えなんざ聞いてねぇ!!」

「黒蛇の恐ろしさを知らないからそんなことが言えるんだよ!」

「そうよ!あれを目の前にして、他のことを考えるなんて無理よ!」

「もっと現実を見ろよ!」


 グレンの怒りに対抗するように、村人たちの方も負けじと言い返す。

 しかし、それは火に油を注ぐ様な行為で、グレンの怒りの炎をさらに燃え上がらせるだけだ。


「お前ら有象無象がどうなろうが、俺には関係ねぇんだよ!お前らよりも、俺にとってはリベルの方が重要だ!お前らの勝手をこっちに言うんじゃねぇよ!」


 一対五十という構図は非常にグレンの劣勢を意味しているが、それでもグレンは声を張り上げる。

 必ず守ると二人と約束したことなのだ。

 その約束のためなら、グレンは何でもやる。

 たとえ、悪者扱いされようと、それで救えるのなら望んで落ちても構わないと思っている。

 ここでグレンがどう思われようと、グレンには関係ない。

 今重要なのは、どう考えてもリベルのことなのだから。


「そこまでじゃ!」


 言い合いが続く中、一つの声がその場に響いた。

 それは昨日、リベルたちを襲おうとした村人を止めたのと同じ声だった。

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