第29話 村人
長老の案内で、村の人々に奇異の視線を向けられながらも、リベルたちはひと際大きな民家に入った。
「長老となると、やっぱり大きいところに住んでいるんですね」
「見た目はそうなっているのじゃが、実際に使っている部分は少なくてな。一部が共同で会議場のようになっている」
「じゃあ、ちょくちょく他の人が来るんですね」
「じゃが、それを邪魔だとは思わんぞ。この村の住人は皆、仲が良いからな」
「でしょうね。雰囲気でそんな感じがします」
リベルがここに来てから感じる村の風情は、そんな仲の良さがにじみ出ていた。
ただ、それゆえに部外者には厳しそうだが。
長老の話では、ちゃんと村の人には話を通しておくとのことだったが、だからと言って簡単に認めてもらえるとも思えない。
グレンの用事が済んだら、早々と帰るのが良いだろう、とリベルは判断した。
「さて、お主たちの目的はあの神殿ということだったな」
「俺たちっつうよりは、俺がそうなんじゃないかって勝手に思ってるだけだ。だが、それでも少しだけ中を見せてもらえないか?」
「ふむ。お主がそう言うのであれば、見せてやれないこともない。昔なじみのよしみで、そこは融通を利かせよう。もしかしたら、お主なら、ということもあるからな」
「ありがとう、長老。恩に着るぜ」
「礼には及ばん。だが、一つ問題があるのじゃが、そこの少年は入れることはできんのう」
リベルには二人がどういう話をしているのかは、言葉しかわからず、その内容までは理解できていなかった。
しかし、自分が何か拒絶されているのだということはわかった。
「やっぱ、そうなるか。まぁ、予想はしていたが……」
「お主ならまだ、昔なじみとして通用するが、少年は難しい。そう軽々と部外者を入れていいものではないのだ」
「わかっている。長老がそう言うなら、残念だが中に入るのは俺だけにする。リベルもそれでいいか?」
「僕個人としては、今の話がどいうものかはわからなかったけど、グレンがそう判断したのなら、そうなんだろうね。今回に限っては僕には何もわからないし、口出しできるわけではないから、言う通りにするよ」
「悪いな、お前のためと思ってはいるんだが……」
「そこまで気にする必要はないよ。むしろ、僕をさらなる面倒ごとに巻き込まないでくれて感謝できなくもないからね」
リベルの遠回しな言い方に、グレンはおかしくなって笑みを浮かべた。
「本当に、悪いな」
「いいよ。グレンが見てくれば」
リベルがそう言って終わらせると、グレンは長老へと向き直った。
「じゃあ、長老の言う通り、俺だけが神殿に入るってことで了解だ」
「そうか。ありがとう、聞き入れてくれて」
「いや、勝手に来たのはこっちだから、長老の言うことを聞くのが筋というもんだ」
「そう言ってもらえるなら、こちらは助かる。だが、今すぐに、というわけにもいかんかな」
「どうしてだ?」
何か特別な儀式をしなければ入れないとか、何か手間がかかることなのか、と身構えるグレンだったが、直後の長老の、にかっ、とした笑顔で拍子抜けした。
「お主たちも疲れただろう?今日は休んで、明日、神殿へ向かうことにしよう」
「あ、なるほどね……」
身構えるのは杞憂だったと、安心した一方で疲れが出てきたグレンだった。
♢♢♢
リベルとグレンがオーリン村へと来た次の日の朝。
長老の家で出された食事を食べ、少ししたら長老はグレンと二人の屈強な村人を連れて森の方へ入っていった。
転移の魔法陣を使わないところを見ると、昨日通った道とは全く違う所なのだろうと推測できた。
推測したところでどうなんだ、という話だが、グレンがいなくて何もすることがなくて退屈なリベルには、こんなことくらいしかしていることがなかった。
リベルとグレンは長老の厚意に甘えて、大きな長老の家の使っていない部分を使わせてもらっている。
結局はすぐに出て行くことになる所だが、こういう自然豊かな場所や家で暮らしたことがなかったリベルには、意外と居心地が良かった。
それでも、ずっとグレンが戻ってくるまで家でぐったりとしているわけにもいかなかったリベルは、長老の奥さんに一言断ってから、村の散策に出ることにした。
快く笑顔で送り出してくれた奥さんに、リベルは感謝を言って、今はそのオーリン村を散策している。
と言っても、この村はグレンの話では五十人も住んでいないらしく、村の規模もそこまで大きくない。
だからこそ、村人同士のつながりが強いと言えるが、散策をするリベルには歩き回るところがあまりなかった。
村の外に出れば森の中でここよりはドキドキワクワク体験ができそうだが、余計に動き回ると後々迷惑をかけかねないので、リベルは村の中にいるしかなかった。
ただ、歩き回っている最中に感じる視線は、リベルにはあまり心地良いものではないが。
「ははははっ!」
「こら、そんなに走ると危ないわよ!」
リベルの視界の先で、一人の小さな男の子が走っていて、その後ろを姉のような女の子が追いかけているのが見えた。
こういうところはどんな場所でも変わらない光景だな、と一人で納得していたところ。
「いたっ!」
走っていた男の子が、女の子の言った通り勢いよく転んでしまった。
「あぁあぁぁぁぁっ!」
体全体を地面に打ち付けた男の子は、顔を上げるや否や、大声で泣き始めた。
それを聞いた周りの人たちが男の子に駆け寄ろうとした。
しかし、その時見た光景に目を疑った。
リベルが男の子に駆け寄って、男の子を立たせてあげたのだ。
リベルとしてはごく自然な行動で、たまたま一番近かったからそうしただけの話で、ここで黙って見ているのは心苦しかったのだ。
他意はなかった。
ただ、男の子がかわいそうと思っただけで、リベルはたとえ自己満足でもいいことをしたと思っていた。
しかし。
「ちょっと、弟を返してよ!」
駆け寄る女の子に男の子を渡そうとしたら、ひったくるように男の子の腕を掴んで、リベルから引き離した。
「え?」
予想していなかった対応に、リベルは驚きの声を上げた。
リベルに見えたのは、男の子を背にかばってリベルに敵意を向ける女の子の姿だった。
助けてこんなことになるとは思っていなかったリベルだが、何やら周囲の空気もおかしいことに気付いた。
何となく予想はついていたが、恐る恐る見回すと、リベルを見る大人たちの顔が恐ろしく歪み、小声で何かを話しているようだった。
その内容は聞き取れなかったが、それが良いことでないことは、その不気味さから理解できた。
この状況へ頭が追い付かないリベルが再び女の子へ視線を戻すと、女の子は怯えたような声を出した。
「ひっ……」
そんなに怯える理由が、リベルにはわからず戸惑った。
しかし、村の対応は早く、声を耳にした瞬間に周囲の大人たちがリベルへと早足で詰め寄り、子どもたちとリベルを引き離した。
「勝手に近づいてんじゃねぇよ、悪魔が!」
そう罵られ、リベルは衝撃とともに熱い痛みを頬に感じた。
倒れていく中で目に見えたのは、目の前の男が拳を突き出していること。
その瞬間に理解できた。
自分は殴られたのだ、と。
ドサッ
倒れこんだリベルは、すぐには動くことができなかった。
予想すらできない状況の変化が飲み込めず、頭が混乱していた。
もしかしたら、何か悪いことをしたのかもしれない。
そう思うリベルだったが、一体何がいけなかったのか一切わからなかった。
わからない、わからない、わからない。
だが、今はかなりまずいということだけはわかった。
「くっ……」
そこまでやっと思考が巡ったことで、リベルは体を起こそうと仰向けに倒れていた状態からうつぶせになって手をついた。
しかし。
ゴッ!
「うぐっ」
うつぶせのリベルの腹を誰かが蹴り、少し体が浮いてリベルは呻いた。
あまり暴力を振るうことも振るわれることもなく生きてきたリベルには、この仕打ちはつらかった。
額に脂汗をにじませて、ゆっくりと顔を上げる。
すると、いつの間にかリベルを見下ろす男たちの輪が出来上がっていて、その中心にいるリベル目掛けて、その足が振り下ろされ、蹴られる。
リベルはただ、体を蹲らせて耐えるしかなかった。
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