第28話 転移魔法陣
誰もが不思議に思っていたであろうことを、代表してリベルがグレンに尋ねた。
「ねぇ、グレン」
「ん?なんだ?」
「グレンと長老さんって、知り合いだったの?」
「あぁ、そうだぞ。昔色々あってな。少しばかり、長老にお世話になったんだ」
「へぇ~、いろんな人に助けられてるね。一体利子はおいくらなんでしょうね」
リベルが冗談半分で言うと、グレンは顔を引きつらせた。
そのまま軽く流してくれるものだと思っていたことに意外な反応を示したため、リベルは逆に驚いた。
「もしかして、かなり助けられてるの?まさか、お金を借りるようなことは」
「……」
黙ってグレンが顔を横に向けると、リベルは目を丸くした。
「マジ?」
「……俺は何も言ってないから、そっちの都合で勝手に判断しただけだ。それはすべてお前の想像でしかない」
「つまり、グレンは相当いろんな人に迷惑をかけてきたんだね」
「おい、ちょっと待て。誰がそんなことを言った?すべてはお前の想像だと言ったはずだが?」
「うん、そうだね。じゃあ、この話はここまでにして、もしいつかグレンにそれ関係のピンチが来ても、僕には何も関りがない、と。残念だなぁ、せっかく親友を助けることができるチャンスかと思ったのに、優しいグレン君がそれを拒んでくれるなんて。本当に愚かなことだよ」
「おい、その言葉からはお前の気持ちの一貫性が見えないんだが?残念なのか、褒めるのか、馬鹿にするのか、どれだよ!」
「レッツ、翻訳!」
「やるか馬鹿。お前の遊びのために俺の人生があるわけじゃないんだぞ」
「だったら、もっと親切を人に返せる人になりましょう」
「それを言われては耳が痛いが、お前もそこらへんは気を付けておけ。いつ俺に恩を売られるかわからねぇぞ?」
「親友にそんなことしないって信じてるよ、グレン。ちなみに、ここを見つけたのは僕なんだけど」
「自分を棚に上げて言うなよ!しかも、痛いところ付いてくるし。マジで口喧嘩で勝てる気がしねぇ」
「まぁ、若いと頭の回転が速いんだよ」
「俺もまだ体は若いと思うんだが?」
「でも、僕に口喧嘩で勝てないなら、そういうことなんじゃないの?」
「その何もかも思い通りって顔が気に食わねぇ」
「本当そうだよね。自分の長所を上回っちゃった人は、なぜか気に食わないよねぇ。わかるわかる」
「お前、どこまでそれ引っ張る気だよ?てか、俺と長老の話からよくここまで飛んだな?」
「それが僕とグレンの力」
「俺、突っ込まなきゃだめか?」
グレンがリベルの相手をして、ぐったりと気落ちしたようだった。
その背中を長老がトントンと叩いて慰めているように見える時点で、何となくリベルは虚しい勝ちを手に入れた気がした。
「それで、助けてもらったグレンと長老は、それをきっかけに仲良くなった、ということ?」
話を元に戻してグレンに尋ねると、それには長老が答えた。
「そうだねぇ。その時はただ彼を介抱してあげただけだが、すごく恩を感じたようでな。神殿の結界の補強をお礼でしてくれたのじゃ」
「神殿?」
明らかに重要なものと思われる単語に、リベルは興味が出てきた。
音楽一筋の彼でも、お宝の雰囲気が漂うものには関心を寄せるようだ。
まぁ、人様に迷惑をかけようとは思わないが。
「そう、神殿だ。おそらくだが、お主の目的はそれではないかな?」
長老がグレンへと尋ねると、グレンはショックから復帰してきたのか、自然な様子で頷いた。
「あぁ。あの二人の遺言通りでここに来て、何かあるとしたらたぶんそれだろうな、と。だから、長老に話を聞こうと思っていたんだが」
そう言いながらグレンが一瞥すると、跪いていた四人は、深く頭を下げていた。
リベルとしてはどちらも怪我がなかったのだから、ひとまずはいいじゃないか、という考えなので、この男たちのことは別に気にしていなかった。
というか、完全に意識の外で、忘れていた。
「俺はできれば村まで行って、その神殿が遺言に沿ったものかどうかが知りたかったんだ」
「なるほど。わかった」
あっさりと承諾した長老に、四人の男だけではなく、一緒に現れた男たちも慌てた。
「長老、そんな簡単にこのような者たちを村へ入れてもよろしいのですか?」
「いいも何も、別に悪さをしようとしているわけじゃない。警戒せずともよい。むしろ、村の人々に普通の人間というのと、触れ合ってもらえばいい。そこの少年と同年代の子が何人かいるだろう?」
「こいつを外の人間の基準にするのもまずい気がするが」
グレンがぼそっと言うと、それを聞き逃さなかった長老がグレンへと聞く。
「その少年は性格に問題があるのか?」
「えっと、その、何というか……ない、とは言い難いが、ちゃんとした良識は持ち合わせているはずだ」
「それでは、変わった行動、奇行に走ったりするのか?」
「それはないと断言できる」
「自分とは違うものに対する偏見は?」
「おそらく、人間の中では最もそういうのから遠い奴のうちの一人だと思う」
「なら問題ないではないか」
「確かに、そう言われると何だかまともなような気がしてきた。俺の気のせいなのか?」
いつも感じるリベルの態度と、改めて考えた時のリベルという人間に、幾らかの差が出ていることにグレンは戸惑った。
そんな彼は置いておいて、長老がリベルへと話しかける。
「リベル、だったかな、名前は」
「はい。リベル=ハーモと言います」
「そうか。グレンが信頼しているようだから、君にはうちの村に来てもらいたいのだが、構わないかね?」
「それはもちろん!さっきまで草原だらけの場所にいたので、民家が早くも恋しくなってきていたんです」
「そうか、そうか。客人としてもてなすから、肩の力を抜いていい」
「ありがとうございます」
リベルが礼儀正しく長老へと頭を下げるのを、グレンは横眼に見ていた。
これが親しい人と初対面の人との対応の差。
当然と言えば当然だが、グレンは何かと複雑な気持ちになる。
せめて、今の態度が柔らかくなればいいのにな、と一人で願っているのだった。
「それでは、村へと案内する。こっちじゃよ」
すると、長老はリベルとグレンが向かっていたのとは少し違う方向へと歩いていく。
「こっちでいいんですか?村はあっちじゃ」
長老が間違えるなどありえないことだが、予想外のことにリベルはそう聞いていた。
「構わんよ。確かにそっちが村の方向じゃが、そのまま向かっていたら一時間以上はかかってしまう。だから、この近くには転移用の魔法陣が取り付けてあって、それを村にある魔法陣と繋いでいるのじゃよ」
「へぇ、そうなんですね」
「俺はそんなの知らなかったぞ」
「当然じゃ。なにせお主が来た後に作ったものなのだから。ここの初代長老の所持していた魔法書の解析を進めていてな、そこに転移の魔法陣があったのじゃよ」
「なるほどな。そういうことか」
「そして、あそこに見えてきたのが、その魔法陣じゃ」
長老が指差して見せた所は、一か所だけぽっかりと木が生えていない場所で、そこには大きな石の板が置かれている。
近づいてみると、その石の板には魔法陣が刻み込まれているようで、円状の枠の中にリベルには読めない文字がずらずらと刻まれていた。
「何となく、すごいですね。こんなにしっかりと魔法陣を見たのは初めてです」
「そうか?喜んでもらえたなら何よりだが」
「それで、この魔法陣はどうやって起動を?」
「あぁ、まずは魔法陣の上に乗ってもらいたい」
見ると、大きな魔法陣の中央にはすでにリベルとグレンを除く村の人々が全員乗っていた。慣れているからだろう。
それに倣ってリベルたちも乗る。
「この魔法陣は、村に設置されてあるここと同じ魔法陣の所まで飛ばされる。飛ぶ瞬間はちょっとした浮遊感があるため、気を付けてくれ」
「了解だ」
「わかりました」
グレンとリベルが返事をする。
村の男の一人が屈んで魔法陣に手を当てると、魔法陣が輝きだした。
自分の周りが魔力の光で覆われていく様子が、リベルにはよく見えた。
「おぉ~」
グレンの転移魔法で何度か転移は経験しているリベルだが、こうしたいかにも魔法が発動してすごいことが起きます、みたいな雰囲気は初めて味わうため、感嘆の声を上げていた。
「それでは、転移します。カウントダウン、三、二、一、転移!」
その声とともに、リベルたちの視界は真っ白に塗り潰され、長老が言っていたような浮遊感が訪れた。
来るとわかっていたら慌てることはなく、リラックスして少しの時間だけの浮遊感を味わっていた。
その感じが心地よく、つい足の力を抜いてしまったリベルは……。
「ぐがっ!」
着地の瞬間に崩れ落ちて、顔から倒れこんでしまった。
「いたたた……」
どうやら、長老の言っていた魔法陣が刻まれた石にぶつけたようで、ジーンとした痛みがあった。鼻血が出そうな感じはしないが。
その転んだ際にぶつけた鼻をさすりながら体を起こすと、目の前には、森ばかりが広がっていた光景とは違って、ちゃんとした集落があった。
以外に長老との立ち話が長くなりましたね。
これから第一章の山場へと投入していきます。
名づけるなら、『オーリン村編』ですかね。
……ネーミングセンスは見逃してください。
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