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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第一章 旅立ち、そして新たな日々
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第25話 深い森

 グレンが必死になって結界を解析し、リベルが謎の声を聞いていたその時、森の中では複数の影が動いていた。

 それらの影は外をうろつく二人の人間に警戒の眼差しを向ける。

 特に、結界を探っている男には警戒心が強かった。

 それに比べてもう一人の方は珍しい髪色ではあるが、それ以外に目立つようなところはなく、気弱そうな雰囲気がある。

 銀髪の方はさしたる脅威にならないと判断した影たちは、お互いで相談を始めた。


「おい、どうする?このまま結界が破られたら……」

「いや、ここの結界は長老様方が代々守ってきたんだぞ。これが破られたことは、結界が張られてからは一度もない」

「だがよ、今までここが感知されたことがあったか?この結界は村の者にしか感知できないはずだろ?それがどうして?」

「そんなこと知るかよ。当てずっぽうかなんかじゃねぇの?」

「そんなことで特定されてたまるか。ありえねぇよ。この草原にあるとわかったとしても、こんなに広いんだぜ。たとえこの近くを通っても、どれだけ感受性がすごい奴でも意識しなきゃ無理なんだぞ」

「だったら、どうしてだって言うんだよ?」

「そんなのわかったら苦労しねぇよ」

「とにかく、ひとまず村へ報告に戻ろう。何人かはここに残って、あいつらの見張りをしていろ。破られるようなことはないはずだが、もしものことがあったらすぐに知らせろ」

「わかった。そうする」

「それと、わかっていると思うが、『蛇』には気を付けろ」

「あぁ。お前たちもな」


 そこで会話が終わると、数人を残して残りの影が森の奥へと消えていった。


              ♢♢♢


 グレンがすぐにそれに気付いた。

 背を向けていたといても、グレンには気配の変化がわかった。


「おい、リベル?」


 結界の解析を行ったままリベルへと質問を投げかけるが、答えが返ってこない。


「おい、聞いてるのか?」


 グレンが振り返ろうとした時、リベルはグレンの横を通り過ぎていった。

 その時に見たリベルの目は、ナルゼの店を出た時に空へと向けていた目と同じものだった。

 瞬間的にグレンはわかった。

 リベルは全く別のものへ意識を集中させている、と。


「おい」


 グレンがその肩を掴もうとするが、すんでの所でそれをやめる。

 確かに意識はぼうっとしているようだが、危ない感じは今のところしない。その時になったら手を出そうと、グレンはリベルの行く先を目で追う。

 そして、あるところで立ち止まると、リベルは不意に声を出した。


「そうか、ここなんだね」


 それは誰かに話しかけているような口ぶりだったが、もちろんグレンには見えもしないし聞こえもしない。気配すら感じない。


(一体どういうことだ?)


 グレンが訝しげに思うと、リベルはグレンの方に向き直った。


「何かここら辺からやれば行けるみたいだよ」

「みたいって、誰からか聞いたのか?」

「う~ん、声?」

「は?」

「まぁ、そんなことはいいじゃん。ここからならグレンもできるんじゃないかな?」

「そうか?」


 疑問に思うグレンだが、この結界を見つけたのもリベルなので、そのリベルが言うなら何かしらあるのかもしれないと思った。グレンは解析作業を中断し、リベルの所へ行く。

 そして、そこで先ほどと同じように解析を始めると、グレンは驚きに目を見開いた。


「どうかした?」


 リベルが問いかけると、グレンは驚きをあらわにした声で答える。


「ここなら何とか開けるかもしれねぇ」

「本当?」

「あぁ、ここはこの結界の、何つうか、玄関みたいなもんでさ、他よりも開けやすくなってる」

「なるほどね。手がかりが何もないところから開けるより、何かしらの要素がある方が開けやすいってことか」

「そうだな。これなら全部を解析せずに、ここの鍵を読み取れば…………よし、できた」


 グレンが作業の終了を伝えると、二人の目の前の空間が歪んだ。

そして、何もなかったところに一つの扉ができたように、そこに四角い穴が開いた。大きさとしては、大人一人が十分に通れるほどだろうか。


「ここを通るのかな?」


 リベルがその穴に躊躇なく足を踏み入れようとすると、グレンがその腕を掴んで止める。


「待て。先に俺が入る」

「?何で?」

「もしものことがあったら、お前じゃ対応できないだろ?俺が先に入って、安全を確認してからお前が入れ」

「う~ん、まぁ、グレンがそう言うなら別にいいけど」


 そう言ってリベルが一歩下がると、グレンがその穴に足を踏み入れた。


「……マジか……」


 入って第一声がそれだった。

 穴に入るまではただの草原が広がっていたはずなのだが、グレンが入ったそこは明らかに森だった。

 しかも、相当に深い森で、昼間の今でも少し薄暗く感じた。


「ねぇ、まだ?」


 いきなりの風景の変化に戸惑っていたグレンは、リベルの声で我に返り、周囲に敵がいないかを確認した。

 気配と魔法、その両方で。

 そして、その確認を終えると、穴の向こうで待つリベルに声をかけた。


「もういいぞ」

「わかった」


 ようやくか、という感じで入ってきたリベルも、目の前に広がる森に感嘆の声を漏らした。


「へぇ、こんなのがあったんだ」

「そうみたいだな」


 リベルに返事をしながら、グレンは自分で開けた穴を塞いだ。

 鍵を解析して開けることができた以上、閉めることも当然可能だ。

 四角く広がっていた穴はみるみると小さくなっていき、穴が塞がるとそこはただ何もない空間となった。

 穴の向こうの草原が見えていたところは、今では深い森が広がっていて、先が暗くて見えなかった。


「さてと、そんじゃ、行くか」


 グレンが言って歩き出すと、リベルもそれに続いた。


「どこに行けばいいのかわかってるの?」

「まぁな。さっき魔法でこの辺り一帯を調べておいたから、どっちに行けば村があるのかはわかってる」

「村?村に向かってるの?」

「そうだが、言ってなかったか?」

「言ってないよ。初めて聞いたよ。そこは、何て名前の村なの?」

「言ってもわかんないと思うがな」

「わかるかわかんないかの問題じゃなくて、情報が欲しいってことなの」

「そういうもんか。まぁ、教えてもいいぞ。名前はオーリン村。村人の数は五十人もいないらしい。種族は人間族なんだが、他の人間族とはちょっと違っていてな。その違いが理由で、昔はいろんな奴に利用されたり、迫害されたりと、様々なことがあったらしい。だからこうやって、森全体を結界で覆って、隠れて暮らしているんだ。その結界は破るか、どこかに穴を開けない限りは中に入ることはできず、そのまま素通りしてしまうらしい。例えて言うなら、この森だけが別の空間にあるみたいなもんかな?」

「別の空間……。こんな大きそうな森全体にそんな結界をかけるなんて、それをやった人は相当すごいんだね」

「まぁ、お前の言う通りすごいんだが、俺としてはこの結界を嗅ぎつけたり、扉の場所がわかったお前もすごいと思うぞ」


 グレンが褒めるつもりでリベルにそう言うと、リベルはそれに複雑な表情をした。


「嗅ぎつけるって、何か動物みたいな表現だね」

「物の例えだ。つまりは見つけ出したってことだからな」

「うん、わかるんだけど。それに、扉の方だって僕が見つけたんじゃなくて、教えてもらったんだよ」


 グレンはリベルが言っていたことを思い出す。


「確か、声、だったか?」

「そう」


 力強く頷いたリベルに、グレンは尋ねた。


「その声ってのは一体何なんだ?」

「わかってたら、声だなんてわかりづらい言い方してないよ。事実そのまんま、声としか言いようがないからそう言ったの」

「心当たりがないってことか?」

「その通り。そんなことは僕だって知りたいし」


 何やらむしゃくしゃしているような表情のリベル。

 それも当然だろう。

 急に訳のわからない声なるものが聞こえてきたら、誰だって戸惑うだろうし、気味が悪いだろう。

 それを理解したグレンは、それ以上は聞かないことにした。

 リベルがわからないのなら、いくら聞いても今はどうしようもないからである。


(これが何かの罠だったとしても、俺なら、まぁ、何とかなるだろうからな。そこまで心配しなくてもいいか)


 そう思い直して、再び村を目指すことに意識を切り替えた。

 グレンの言う通りに村に向かって歩いていた二人。

 まだ村の姿も見えず、気配も感じず、リベルはこの森の大きさに頭が痛くなった。


「そういえば聞いてなかったんだけど、その村まではどのくらいかかるの?魔法で調べたんでしょ?」

「あぁ。だいたい、一、二時間ってところだな」

「アバウトだね。それに門から家までが一時間なんて遠すぎるでしょ」

「身を隠すなら、それ位がいいんだろうな」

「こっちは苦労するってことか。ていうか、転移魔法を使えばいいんじゃない?」


 まさにグッドアイデア、という風に思い至ったリベルだが、グレンはその考えを一蹴した。


「無理だ。転移魔法はそんな簡単に使える魔法じゃないんだよ」

「そうなの?」

「あぁ、特に今はー」


 そこで言葉を切ったグレンは、足を止めて鋭い眼差しへと変わった。

 グレンと同じように止まったリベルは、グレンの変わりように戸惑った。


「グレン、どうしー」


 リベルがすべて言い終わる前に、その答えは現れた。

 二人の周囲の木々から、数人が飛び降りてきて、二人を取り囲んだ。

『声』って誰なんでしょう?

これはリベルに直接かかわってくるかも?

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