第21話 クレアの罰
「なるほどな」
クレアの話を聞き終えたハルイドは、そう言った。
リベルのことを迷いながら言ったクレアは、結局最後の最後までそのことを話すことはなかった。
あくまで自分がアグニと炎を倒したとして、リベルを無関係な一般人とした。
手柄がクレアのもの、ということとなるが、それでもクレアはあの時のリベルの力はそうそう口にしていいものではないように思えたのだ。
せめて、クレア自身があれがどういうものかを理解していなくてはならないと、そう思ったのだ。
「それで、その炎を討伐した後はどうなったのか覚えているか?」
「いえ、残念ながら、私はその後すぐ倒れてしまって、気が付いたら自室だったのです。ですので、それまでの経緯は私にもわかりかねます」
「そうか。一体だれがお前をここまで運んだのか知りたかったが……わからないならいい。とにかく、無事に戻って来たことは良かった。そして、アグニ討伐も感謝する」
「……はい」
自分なりの理由があるとはいえ、親切にしてくれる人を騙すのは心苦しいところがあり、クレアは内心では渋い顔をしていた。
ハルイドの話が終わると、今度はアスティリアが話し出した。
「それでねぇ、クレア。一応、今は罰として立ってもらっているけど、さすがにそれだけじゃ足りないと思うのよねぇ。私たちの気も収まらないし」
彼女の言葉に、その場にいる全員が頷き、クレアは頬を引きつらせた。
「気が収まらないって、それでは私刑になりませんか?」
「もともと公な罰じゃないから、私刑満載よぉ」
「そんな物騒な言葉は初めて聞きましたよ。……ですが、罰が他にもあるというのなら、私は慎んでそれを受けましょう。私がしたことはそれだけのことに値するのですから」
「う~ん、そこまで肩肘を張る必要はないんだけどねぇ。ちょっとした訓練とでも思っていいのよ」
「そういえば、訓練で思い出しましたが、ラインヴォルトの顔はその訓練とやらで?」
ずっと気にはなっていたのだが、ラインヴォルトの美男子要素満載の顔が所々腫れており、赤くなっていた。
それは明らかに何らかのダメージがあったと思われる。
アグニ討伐が始まる前に約束された訓練によるものなのだろうか、とクレアは解釈していたのだが、これと同等の訓練となると……。
考えるだけでも背筋に悪寒が走った。
そして、案の定アスティリアは満面の笑みで答えた。
「もちろんよぉ。その時はまだクレアは寝ていたから、実際の現場を見ることはできなかったのよねぇ。楽しみにしていたみたいで、残念だったわねぇ」
「ここまでになるとは、私も想定していませんでしたが」
ラインヴォルトがその時のことを思い出したのか、体を震わせ始めた。
「ラインヴォルト、大丈夫?」
「あ、あぁ。ちょっと思い出してな。あの時のことは夢にまで出るようになってな、うなされるようにもなったんだよ。あれはある意味ではアグニより怖かったね。肉体というより、精神的にきた」
「そ、そうなんだぁ。へぇ~」
どうやら見た目よりも心の方が重症のようだが、このままの状態で隊長をやれるのだろうか、とクレアは心配になった。
結局、その心配はそこまで時間が経たずに消えたが。
理由としては、クレアはラインヴォルトが隊長を務められなくなろうと構わないとさえ思ったからだ。
このように訓練と称した罰を受けたのはラインヴォルト自身の落ち度であり、それによってどういう状態になるのかも自己責任で、最終的に隊長ができなくなるのも、元を辿ればラインヴォルトの失言が原因なのだから。
それに、今は他人の心配ではなく、この後自分はどうなってしまうのか、という所に注意すべきなのだ。
クレアは緊張で立っている足が震えそうになり、体中に力が入り、手の中に汗をかいていた。
「さて、私たちで話し合った結果ね、あなたへの罰を決定したわ」
「……何でしょうか?」
「ふふふっ、それは世にも恐ろしい究極の罰とも言われたー」
「そういうのいいんで、手早く言ってください」
「ぶー、もうちょっと楽しませてくれてもいいじゃない。せっかく用意した演出なのに~」
「子どもですか。もうそういうのが通用する年でもないでしょう?」
「違うわよぉ。私は童心を忘れていないだけ」
「だからって、それを今ここで出しますかね……って、話がずれてってますから、早く罰を言ってください」
「あら?随分とやる気満々ね。もしかして、案外楽しみだったりする?」
「言い返しませんよ。また話がずれますから」
「はぁ、こういう所は頑固なのよねぇ。いいわ。言ってあげる。この罰はあなたに対して、一生適用されるものよぉ」
「一生、ですか。それは重いですね」
「勇者という、この国の最前線に立つ者である以上、これはしっかりと守ってもらわなくてはならないわ。今回のことで、私たちはあなたにそれが足りないことがよくわかった。だから、あなたの罰がこうなるの」
「前置きを長くしないでください」
「まぁ、そう焦らないの。この罰には前置きが必要なの。とは言っても、今ので前置きも終わりだけどね。じゃあ、ついにクレアの罰ゲームが告げられるわけだけど、今の心境はどうかしらぁ?」
「一体、いつからゲームになったのかが謎ですが、まぁ、それは置いておきます。今回の罰では、私はその全てを受け入れると誓います。たとえ、どんなことになっても」
クレアは自分には覚悟ができている、ということを言葉にした。
それを見て、会議に参加する者たちが頷いていく。
メフィストを除いて。
「いい覚悟ね。この罰はあなたには特に大変なことだと思うけど、頑張って」
「はい」
クレアが返事をしたことで、意思表示の文言は終了する。
「それじゃあ、発表するわね。その罰の内容は…………自分の命を大事にすること」
「…………え?」
一週間前にアグニが復活すると言われた時と同じような驚きの声を、クレアは発した。
前回は信じられないというような驚きで、今回は拍子抜けの驚きということで意味は違ってくるが、それでもその時と同じような衝撃があった。
衝撃がなくて、衝撃的だったという感じ。
クレアは逆に不安になり、にこにこしているアスティリアへと尋ねる。
「あ、あの……」
「何かしら?」
「それ、だけですか?」
「?」
「それだけなんですか?自分の命を大事にすることだけが罰なんですか?」
「そうよ」
「え?え?それだけですか?たった、それだけのことですか?」
「軽い?」
「っ!」
アスティリアの問いかけはその一言だったが、クレアはそれに頷くことはできなかった。
この罰が軽いと言えば、それはすなわち自分の命を軽んじているということになる。
クレア自身はそうは思っていないが、炎から皆を逃がした時の行動は、命を軽んじていると言われれば反論がしにくい。
皆はクレアのあの時の行動がそういうものだと言っているのだ。
「クレア、私たちにとって、あなたは勇者という重要な戦力であると同時に、私たちの仲間なのよ。仲間には死んでほしくないし、死が近くなるような選択もしてほしくない。確かに、私たちの立場上そうすることはあるかもしれないけど、それでも自分の命を大事にすることから考えて。命は、賭けることができないものなのよ。少なくとも、私はそう思っているわぁ」
「アスティリア、さん……皆さん…………わかりました。その罰、謹んで受けさせていただきます。この勇者クレア=シュリンケル、これからも皆さんと一緒といるために、自らの命を軽いものとして見たり、賭けるような真似はしないと誓います!」
クレアの宣誓が、王の間に響いた。
小さい頃は罰を受けるとなると、どれも理不尽に思えてましたね。
何でこんなことになるんだ、と自分以外の何かへ責任転嫁をしたもんです。
今になってみれば、それこそ間違っていると思えるのですが。
これを書いていて、何かそんなことを思った二一京日でした。




