第20話 死とは
「馬鹿者がっ!!なぜあのようなことをした!我らでは力不足だと、そう言いたかったのか!」
「事実そうだったんだけどねぇ」
「おいおい、それとこれとは別だろ。アスティリアは腹が立たねぇのかよ」
「う~ん、まぁ、ちょっとは、ね」
クレアが目覚めたことで再び人界上位会議が開かれることとなり、前回と同じ面々が揃っていた。
しかし、その中で唯一、クレアは立ったままでいさせられた。
アスティリアが罰として立ったまま出席するようにと言って、こうなったのだ。
クレアとしてはその程度の罰なら別に苦ではないし、相当なお仕置きも覚悟はしていたのだ。
今回の会議では話すことは一つだけ。
ずばり、アグニ討伐計画について。
この計画の途中経過、そして結果を報告するための場だ。
そのためには最後まで残っていたクレアの証言が不可欠であったから、できることならすぐに始めたかった会議が、クレアが起きてからということとなったのだ。
それぞれの軽口がひと段落したところで、国王ハルイドが口を開いた。
「さて、まずはこの度のアグニ討伐に関して、お前たちが無事に帰って来てくれたことは喜ばしいことだ。よく、帰って来てくれた」
その言葉はねぎらいだということはわかっていたが、それでも討伐に参加した者たちは暗い表情をした。
それを見て、ハルイドは続ける。
「もちろん、今回の討伐で死んでいった者がいることもわかっている。その者たちを蔑ろにするわけではない。むしろ、我らのために尽くしてくれたことに敬意を表する。それは嘘ではない。しかし、こうしてお前たちが戻ってきたことがめでたいのも事実なのだ。こういう時に良かったことに目を向けることは決して悪いことではない。それは死んでいった者たちへの、せめてもの手向けなのだ。そうは思わんか?」
ハルイドの言葉に、暗い顔をしながらも各々が頷く。
皆、頭ではわかっているのだ。
しかし、感情の方が言うことを聞かない。
そうするべきだとわかっているのに、そうすることができない。
そのもどかしさが、全員の胸の内にあった。
そんな時、一人の男が口を開いた。
「無様で滑稽だな」
常日頃から声を出すことがない、第二部隊隊長メフィスト=ルーエンだ。
そのメフィストの言葉に、シリウスが憤りを見せる。
「今、なんと言った!?無様で滑稽だと?一体、誰に対して言ったのだ!?」
王の間に、シリウスの声が響き渡る。
そんな大声に対して、メフィストは低く静かな声で言う。
「誰、か。面白いことを聞くのだな、シリウス。お前は、自分が無様で滑稽だとは微塵も思っていないのか?」
その言葉は、シリウスだけでなく他の人の心にも刺さった。
特に、アグニと戦った者たちには。
「いや、お前たちだけではない。死んでいった連中もそうだ。無様で滑稽だ。立派な最期?価値ある死?魂は受け継がれる?そんな甘い考えでいたからこんなことになっているんだろうが。そこをもっと自覚しろ」
「貴様、俺たちだけならともかく、死んでいった仲間たちも愚弄するのか!」
「そうねぇ、そこはいくらメフィストでも言い過ぎじゃないかしら?」
「そうだな。あの戦闘に参加せずに、のんびりと王城にいたお前には言われたくねぇ」
「私も、その言い方はどうかと思います」
他の隊長三人と勇者にまで否定されるメフィストだが、その態度は変わることはない。
「そんな仲間意識を持っているのなら、なおさら役立たずは連れていくべきじゃなかったな。そんな暗い顔をするんだったら、最初からお前ら四人で行けばよかっただろうが」
「あいつらは役立たずなどではない!同じ目的を持って敵に挑んだ、我らの同士だ!」
シリウスの言葉に他の三人は揃って頷く。
が、それでもメフィストは淡々と返す。
「同士、ねぇ。そいつらが役立たずじゃないってんなら、アグニが現れた瞬間に逃げ惑った奴らは同士じゃねぇってこったな。その後のブレスで、欠片残さず燃え尽きた奴らも役立たずだから同士じゃねぇな。あれ?そうなると、やっぱお前ら四人しか残ってねぇじゃねぇか。どういうことだよ、これは?役立たずじゃない奴が、まさか何もできずに死んでいった、なんて言わねぇよな?」
「貴様は仲間というのを何にもわかっていない!仲間とは、役に立つかどうかの問題ではなく、共に歩いて行く者たちのことなのだ!」
「ほう?俺としては共に歩いて行く、という所には同意するな。珍しく意見が合うじゃないか。つまり、俺について行けない奴らは要らないってことだろ?」
「お前の部隊と一緒にするな!ただの実力主義に、本当の仲間はついてこない!」
「お前の言う本当の仲間が、あっさりと死んだわけだが?」
「くっ……!それについては、何も言い返すことはできん。本当に残念だった」
「それが無様で滑稽だって言ってんだよ。お前らも、死んでいった奴らも。何のための討伐計画だ。死なないようにするための戦いで死ぬのは、滑稽以外の何物でもない」
「だが、その死は受け継いでいくべきだ」
「価値ある死ってことか?俺にはそれが、ただ縋っているようにしか見えねぇがな」
メフィストの言葉は極端ではあるが、ある意味、だからこそ真実をついていると言える。
その言葉には一片の曇りも迷いもない。
そんなメフィストに、シリウスは悔しそうに拳を固く握りしめる。
それを見かねて、クレアが声を出す。
「さ、さっきから聞いていれば、あなたは何様なんですか?一体何の権限があって、人の命を軽んじるんですか?」
「世間も知らない小娘ごときが、何を言っている?俺は命を軽んじてなどいないさ」
「だって、さっきからあなたは」
「クレア」
言い返そうとするクレアを、アスティリアが止める。
そのことに不満を覚えないはずがなく、クレアはアスティリアに食って掛かる。
「どうして止めるんですか?あいつに何か言い返したいと思わないんですか!?こんな言われっぱなしで、納得できるんですか!?」
「……そうね。もし彼がただの、兵士の命を何とも思っていないような人間だったら、私だって言い返しているわ。シリウスも、押し黙ってしまうこともなかったかもしれないわね。でもね、彼の言葉はそうじゃないのよ。決して人の命を軽んじているわけではないのよ」
「何で!さっきから人の死を無様だ滑稽だのって、まるで何とも思っていないかのように!」
「クレア。彼の部隊が、なぜ四つの部隊の中で最も人数が少ないのに最強とさえ言われいるのか、わかる?」
「それは、弱い人間を排除しているからでしょう?そして、排除された人間は軍をやめさせられる」
「そうよ。では、何でそんなことをしているのか、知ってる?」
「どうしてって、弱い人を認められないからでしょう?」
「そう考えるのが普通。でも、実はー」
「そこまでにしろ、アスティリア」
アスティリアが言おうとしたところで、メフィストが間に入った。
その声は、今回初めてメフィストの声を聞いたクレアであっても、怒気と苛立ちを持っているのがわかった。
「人の都合をべらべらと喋ってんじゃねぇよ。いくらお前でも、調子に乗るようなら黙らせるぞ?」
「あら、それは怖いわね。話続けたらどうなるのかしら?」
「本気じゃねぇと思ってるのか?」
「いえ、あなたはこういうことで嘘はつかないもの。言われたとおり、口を閉じるわ」
「ちょっ、そこでやめるんですか?」
あともう一歩という所で止められたクレアは、アスティリアに訴える。
しかし、彼女はクレアに申し訳なさそうな顔をするだけだった。
「ごめんね。また、機会があったらね」
「は、はぁ……、わかりました」
「では、そろそろ本題に入ってもいいかな?」
メフィストとの言い合いがひとまず終わったとみて、ハルイドが会議を進める。
「この場で最も重要な証人、勇者クレアよ、私はお前の口から一部始終を聞きたい。お願いできるか?」
「了解しました」
そして、クレアは自分が見たこと聞いたことを話した。
銀髪の少年のことを、少し悩みながら。
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