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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第五章 記憶の館
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第198話 今と昔を合わせ

 気付いたらどこからともなく机と二つの椅子が現れ、キリルスとミシュアはそこに座り、リベルは元の場所に付いた。

 今いる場所が自分の心の奥底だと言われたところで、それを真に受けることはできないが、それでも死んだはずの両親に会えているということが、リベルはこの場所が少なくとも現実的な場所ではないことは理解した。

 もしそこがリベルの心の奥底であるのなら、その時になれば何かしらわかってくるはずなので、今は置いておくことにした。考えるべきことは、もっと別にある。


「それで、二人は僕のことをどこまで知っていたの?こうなることまで予想していたみたいだけど」


 リベルが早速切り出すと、二人は気まずい表情をする。それはきっと、リベルの事はほとんど知っていて、さらにはリベルの知らないことまで知っているのだろうと推測できた。


「そうだな。お前は覚えていないだろうが、小さい頃にリベルは一度だけ<ハーモニクス>を使ったことがあるんだ。それは本当に小さなことで、消した物も大した物ではなかった。だが、それでもリベルが特別な力を持っていることはすぐにわかった」


 リベルは初めて<ハーモニクス>を使ったのはアグニ討伐の時だと思っていたが、キリルスの話ではもっと前に使っていた。リベルの記憶にないほど幼い頃ということは、それから十年以上も一度も使わなかったということになる。

 小さい頃から使えたことも驚きだったが、それ以上に長い年月で一度も使わなかったことに驚いていた。十年以上もあれば、どこかで偶然無自覚に発動してしまってもおかしくはないはずなのに。


「俺たちは、すぐにリベルの事を調べてもらおうと思ったが、その時に会った人がリベルの事について教えてくれたんだ。今ではその人は、マスターとか呼ばれているがな」

「マスター……。教団の実質的なトップだね」

「そうだ。教団は、そんな時からお前に目を付けていたんだ」

「それは……あまりいい気分がしないね、知らないうちにずっと見られているというのは」


 教団が本格的に動き出した時期がつい最近で、それまでリベルの力が再び使われ、自覚する時を待っていたのだろうか、とリベルは予想する。


「私たちは、リベルが特別な力を持っていて、特別な存在であることを知った。だからこそ、あなたには普通の一人の人間として生きていてほしいと思ったの。私たちにとっては、あなたはかけがえのない子どもだから、厄介ごとに巻き込まれないようにしてほしかった。そのために、護衛も付けたしね」

「それが、グレンだね」

「そう。グレン=マイス=フィリカーナ。当時、なぜか魔界から抜け出してきた魔王。偶然が重なって、私たちは彼に会い、そしてリベルの事を任せたの。私たちは大した力は持っていない。守るためには力は必要よ」

「でも、その力のせいで巻き込まれることもあるでしょ?」

「そうね。私たちも最初はそこで悩んだ。でも、グレンはそういういざこざに巻き込まれることに嫌気がさしていたようなの。だから、グレンが面倒ごとを回避できれば、リベルも回避できると思ったのよ」


 グレンを拾ったのが、リベルの護衛のためというのは、リベルは初めて聞いた。そんな話は、グレンもリベルにはしなかった。


「グレンは快く引き受けてくれた。そのおかげで、俺たちも安心できたんだが、ミスって死んでしまった。そこは予想していなかった。俺たちが甘かったということだろうな」


 リベルは両親が死んだところをこの目で見ていない。グレンから聞かされただけで、何やら紛争に巻き込まれたらしい。リベルを連れて行かなかったのも、紛争に巻き込まれないようにするため。グレンを護衛に残して二人で行ってしまい、そして死んだ。


「まぁ、だが、こうして話すことができるだけでもいいか。本当ならもう話せないのにな」

「……二人は、どういう原理でここにいるの?ここが僕の中だと言ったけれど、だったらどうして?」

「それはな、グレンに頼んだんだ。俺たちの意識をリベルの心の奥底に刻んでくれって。そうすれば、少なくともその時の俺たちはリベルの中で生きることになるからな」

「グレンが、そんなことを……」


 リベルはまだまだ知らないことだらけだ。グレンと両親の間に会ったことの多くは、リベルに関わることだ。それなのに本人のリベルすら知らない。それは確かにリベルを守るためにやったことかもしれない。それでも、悔しく思うところはあった。

 だが、今は別にそんなことはどうでもよかった。悔しくとも、今会えているのは事実だし、そして今しなくてはならないことはあるのだ。


「そういう話はもういいや。それよりも、こうなることを予想していたんだよね。一体どこまで?」

「どこまで、か。きっと教団の思惑通りに負の感情はまかれ、リベルがそれに対処する。そして、ここに来る。その間に、教団は計画を進める、くらいかな」

「計画を進める、か。やっぱり、僕が止めたとしても計画に支障はないんだね」

「むしろ、止めることすら予想して計画に組み込んでいたということになるわね」


 ミシュアの言ったことに、リベルはため息を吐いた。


「まったく……止めなければ負の感情が増大し、止めればそれも計画通り、か。どちらに転がっても、教団にとっては大したことではないんだね。精々、先延ばしにしただけか」

「そうだな。だが、それは仕方ない。先延ばしできただけでも、十分なことだ」

「……二人は、教団が何をしようとしているのか、知っているの?」

「いや、知らん」

「即答されると困るんだけど……まぁ、いいや」

「ちなみに、私も知らないわよ」

「うん、だと思った」


 キリルスとミシュアのどちらかが知らないと言えば、それは両方とも知らないということだ。十年以上も前に、情報は共有していたはずだから、それくらいはわかる。

 もしかしたら、と期待していたリベルは少しがっかりした。そう簡単に知ることができるとは思っていないが、ここまで知っている人がいないというのは、些かまずい気がしていた。


「だが、一つ訂正がある」

「え?」


 リベルが諦めかけていると、キリルスが言ってきた。


「俺たちは教団の目的は知らない。だが、リベルも知らない情報も持っているはずだ。あくまで、十年以上も前のことだけど。それでも、その情報とリベルが今持つ情報を合わせれば、もしかすると……」

「教団の目的が見えてくるかもしれない?」

「そういうことだ」


 確かにキリルスの言う通り、今と昔の情報から見えてくるものはあるかもしれない。しかも、二人は昔教団のマスターと会ったことがある。そこから得られることもあったはず。

 たとえ目的を知らずとも、今ある情報を持ち寄れば、そこにたどり着くことができる可能性は十分にある。

 それに、こうしている間にも教団は次の計画に進んでいるかもしれない。いや、もしかするともう最終段階ということもあり得る。

 世界を相手にした大規模な攻撃。戦争を誘発することで高めた負の感情をさらに増大させることで何かをしようとした。

 これだけの規模なら、その真意を読み取ればおのずと教団の目的も見えてくるかもしれない。

 そして、教団に誰が参加しているのか、ということも十分に情報になりえるのだ。誰かが参加するなら、そこには理由がある。その理由が目的と繋がっているのは当然のことだ。


「わかった。じゃあ、ここで情報交換にしよう。教団が何をしようとしているのか、それを今度こそ掴むためにね」


 リベルはもう一度心の中で、今度こそ、と思った。

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