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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第四章 三種族戦争
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第178話 作られたハンナ

 リベルは魔力の気配を感じて振り向いた。


「どうしました?」


 アンナが不思議そうにして、ソフィーもリベルの行動をわかっていないところから見ると、どうやらリベルしか魔力を感じなかったようだ。

 だが、リベルはそのことに疑問を持った。

 確かにリベルは魔力探知には優れているが、それでもこの魔力を感じないというのはおかしな話だった。遠くからの魔力というのは間違いないだろうが、それでもここまではっきりと届く魔力だ。

 リベル以外にも気づいていいはずなのだ。


(どういうことだろう?こういう奇妙なのは、教団の仕業と考えたいところだけど、一概にそうするわけにもなぁ)


 リベルが黙ったままでいると、ソフィーが問いかけた。


『何か感じましたか?』

「……そうだね。感じた。何だか嫌な感じ」

『どこからですか?』

「どこから、か。具体的な距離は把握できないけど、方向としてあっち」


 リベルが指差した方向は、大体人間族の軍勢が待機している方向だった。


『何か、良くないことでもありましたかね?』

「どうだろう?あってほしくないとは思うけどね」

『そうですね』


 人間族の軍で何かあったということは、それにクレアも巻き込まれた可能性が高い。

 そのことを思うと、些か心配だった。


「本当に、心臓が休まらないね。何か起きるたびにビックリする」

「適度に休んだ方がいいですよ。気を張りすぎるのも良くありませんし」

「ありがとう。肝に銘じておく。でも、今は考えることに集中しないと」

『人々を落ち着かせて、不安を取り除く方法ですか』

「戦争が起きないのが一番なんだけど、そう簡単にもいかないと思うし。実際、言って言うことを聞くようなら軍なんて出していないだろうし。グレンの方は魔王ということもあってある程度は交渉の余地があるかもだけど、それでも厳しいかな。武力行使になる可能性は極めて高い」


 グレンもクレアも事情を完全に伝えられるかは微妙だし、伝えたところで教団のことを知らなければ戯言と判断される恐れがある。

 それは教団側のアドバンテージとも言えるだろう。知られていなければ、その存在を事が起きるまで信じることが難しい。

 どんなことを計画している凶悪犯でも、行動を起こして注目を浴びなければ、それはただの空想の産物で終わる。


「それを信じる方が難しいか。大体そんなものかな。まぁ、二人ともある程度の信用度はあるだろうけど、事がことだけに簡単にもいかないか」


 リベルはどうしたものかと悩んでいると、通りのある一帯の流れに気付いた。


「あれって……ソフィー、あの人たちの向かってる先って何があるかわかる?」

『ちょっと調べてみます』


 ソフィーが上空に浮かび上がって、人の流れが行き着く先を見つける。


『どうやら、教会のようですね。あの素敵で上品でかっこいいフォルムは、間違いなく教会ですよ、リベル』

「あ、そう。君がそこまで言うのならそうなんだろうね」


 こんな状況でも教会の建物愛がすごいソフィーにリベルとアンナは若干引き気味である。


「それにしても教会か。そりゃ、戦争が起こるんだからそこに通う人も増えるかな」

『そうですね。救いを求めるという意味では、教会ほどのシンボルはないですかね』

「シンボル、か。なるほど、なら使えるかもしれない」

『使えるって、まさか教会をですか?』

「そう。要は人がたくさん集まって、なおかつその場では神の名の下で信用はされているんでしょ?だったら、不安を払拭する意味では大事な場でしょ」

「確かに、リベルさんの言う通りですね」

「でしょ?」

『私も反対ではありませんが……そう簡単にいくでしょうか?』


 アンナは大賛成のようだが、ソフィーは少し不安げだ。


「簡単にいくかどうかはともかく、目的としては認めてもらいやすいんじゃないかな?なにせ、人々の不安を払拭するためだよ?これほど協力しやすいことはないよ」

『まぁ、リベルがそう言うのでしたら別に構わないですけど……それじゃあ、行きますか』

「そうだね」

「はい」


 そうして、三人は教会へと向かって行った。


              ♢♢♢


 ハンナは特別な場所へと呼び出された。


「お呼びでしょうか、マスター」

「あぁ、来たか」


 低く渋い声で返答するその人が、英知の神託教団でマスターと呼ばれ、絶対神ゼネウスの代理人とされている人だ。

 そして、ハンナの作り主でもある。


「さて、器の様子はどうだ?彼の者はどうしている?」

「はい。どうやら此度の戦争をどうにかして止めようとしているようです。あのグレンとクレアがそれぞれの種族へ説得を試みている様子です」

「魔王と勇者、か。古来より、魔王とは勇者に滅ぼされるという童話が人間族の間では大人気だったな。そして逆に魔族側では人間族の凶悪な侵略に対抗する魔王という英雄、か。どちらも国を救うシンボルのような存在だが、それでも神の子に使われるか。いやはや、大したものだ」


 マスターは自分の言った皮肉がおかしいのか笑っている。

 ハンナには理解はできないが。


「神の子の所には、他に獣人族の少女がいるようです。エクリア王国で奴隷だったのですが、神の子の功績で解放されたようです」

「元奴隷の獣人か。それもまた獣人族の童話のようだな。さすがにその主人公は男だったが、その男は元奴隷であるにもかかわらず最強となり、そして英雄としてたたえられたのだったな」

「童話をここで出すのには、何か意味がおありなのですか?」

「大した意味はない。ただ、どこの国も自分たちと同じ存在が注目される方がいいのだなと思ってな」

「それは当然のことでは。童話とは子どもを楽しませるものですから、そうある必要があります」

「ま、確かにな。ただ、真実は違う」

「真実、ですか」


 いきなり出してきたことに、ハンナは戸惑う。


「童話とは美化されるもの。真実の世界は、もっと醜く、アンナに綺麗にはならない。誰かが英雄になるその過程には、必ず批判の嵐がある。万人から認められたなどというのは、幻想にすぎない。ただのまやかしだ」

「それを言っても仕方ないのではありませんか?」

「そうだ。仕方のないことだが、それでも大切なことだ」

「それが私をここに呼び出した理由と関係があるのですか?」

「さてな。もしかしたら関係があるのかもしれないし、ないのかもしれない。それは個人の考えによる。私がお前を呼び出したのは、こんな雑談の合間にお前の調子をこの目で確かめておこうと思っただけだ」

「やはり、そうですか」


 マスターがハンナを作ったというのは、何も間違いはなく、言葉通り何もないところからハンナという人工物を作り出した。

 それはつまり、ハンナは間違いなく人ではないということだ。この世界の生き物の定義からは外れる存在だ。

 マスターがハンナを作り出した理由。

 それは、神の子とセットでハンナが必要だったからだ。

 神の子という器と、ハンナという鍵が。

 この二つが揃ってこそ、教団の思惑は先へと進むことができる。教団にとって、戦争というのはその二つの者を効率よく使うために最適な舞台を整えるという作業でしかない。

 つまり、彼らにとっては戦争は起こった方がいいが、起こらなくても構わない。

 鍵である、神器ハンナを起動させるために、戦争を起こして不安や恐怖といった負の感情を放出させやすくするのだ。

 人がもともと持っている負の感情をただ利用するのではなく、それが放出されやすい状況を作ることで、最大限の効果を発揮させる。

 そして、神器ハンナを使い、器の神の子を本当に器として使うことができるのだ。


「ふむ。では、少しばかり後押しをしてやろうか。ここは数の多い人間族から動かした方が、奴らも対処ができないだろうな」


 マスターはエクリア王国とラスカンの間の草原に配置されている人間族の一部の軍を、魔法で動かした。

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