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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第四章 三種族戦争
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第173話 魔王、登場

 場所は移り、グレンのいる草原。

 そこに人影が見え始めていた。

 木の陰からをそれを見たグレンは、いよいよかと腹を括る。


「まったく、我ながらこんなことを言い出した自分がおかしいんじゃないかと思えてくる。これだけの数を一人で対処しようなんてな」


 グレンが把握できている魔族の数は、数万はいる。

 それは一つの国の軍としては少ない部類に入るのだろう。人間族や獣人族と比べて、魔族はそもそもの人数が少なく、軍に入っているのは精々がその程度の数しかいないのだ。

 しかし、それ故に均衡が保てていると言ってもいい。

 魔族は数が少ない代わりに、個々人が非常に高い戦闘能力を有している。身体能力では獣人族にやや遅れをとるが、人間族と比べれば雲泥の差だ。

 そして、魔族を何でもって魔族たらしめているのか。

 それは単純に、魔を操る種族。すなわり、魔法に関しては人間族を大きく上回る。

 つまり、個々人では絶対的に人間族は勝つことはできず、獣人族でも身体能力で優っていてもそれは少し、魔法を混ぜられれば、その優位性はひっくり返る。

 しかも、身体能力と言っても人それぞれ。

 魔族の中にも、獣人族を上回る身体能力を持つ者もいるらしいから、単純に個々人で言えば最強の種族だ。

 ただ、それが軍隊としての機能を合わせるとしたら、そこにある絶対的な個人の力は半減する。その力はその人が個人で戦うからこそ真価を発揮するものだ。

 つまり、状況で見れば、グレンの方が少し有利に戦える可能性がある。グレンはそもそも一人であるから、仲間の心配をする必要はない。

 もっとも、相手もそれに合わせて少数、または一人で向かってくる可能性があり、そうなるとグレンが不利になる。

 つまり、グレンの有利不利は完全に相手の出方次第で決まるということになる。


「とはいえ、軍として戦うことはそうそうないだろうな。俺が魔王だってことを知っている奴があの中にいれば、俺相手に集団で挑むようなことはしないはずだ。いや、確実にいるだろうから、ほぼ確実にそうなる。これはやっぱ、俺には不利、か。そもそも一人でこんな大群に挑もうとしている以上、不利なのは否めないか」


 グレンは少しずつ封印が解けかかっている状況を感じながら、そのことに不安を覚えていた。


「これ、封印が解除されたと同時に暴発とか起きねぇかな。さすがにそうなると、あいつら全員殺しかねないんだが。少しくらい痛めつけて戦闘不能にするならともかく、さすがに同族殺しは嫌だな。ていうか、あの数に対して戦うことすら億劫なのにな。出来れば、話し合いだけで解決したいものだ」


 グレンは意を決して、木の陰から出て行く。

 向こう側からはまだ影になっていて見えないようだが、グレンからはその軍全体が広い草原に出てきたのを確認した。

 全員がそれなりに警戒しているようで、それに関しては素直に感心するところだが、グレンの目的上、これ以上進ませるのは些か問題がある。


「さてと、久々にあいさつでもするか」


 グレンはそう呟き、彼らの陣営まで一気に転移した。


              ♢♢♢


 数万の魔族軍を指揮するのは、六魔将の第三位、エンバー。一位のギルソーと二位のミーシャは、念のために本国で待機している。

 そして、ヤルコフは相変わらず偵察を行い、四位のイレイヌと五位のカラルティも軍に参加している。


「まったく、もっと早くこうしておればよかったのだ!」


 エンバーは苛立たしげにそう言い放つ。他の二種族が動くというから、こうして反抗として動くことができたが、もっと早く動き、そして他種族を制圧してしまえばよかったと思っているのだ。

 つい数日前に人間族と獣人族が軍を動かしたという情報が入り、六魔将はすぐさま準備に入った。

 こういう時、元々の人数が少ない魔族は軍を集めるのに対して時間がかからない。だからこそ、早くに出発ができた。

 ようやくの機会に興奮気味のエンバーに、他の魔族たちは若干引いている。それにすら気付かない興奮ぶりだ。

 そのエンバーを抑えるための役割にいるはずの他の六魔将が、無口のイレイヌと、自信なさげなカラルティだ。どちらもその実力は他の魔族から認められているとはいえ、エンバーに対して何かを言うような姿勢はない。

 そのせいでエンバーがますますエンジンがかかってくると言うこと。この時にギルソーとミーシャがいれば、という言っても仕方のない仮定が、軍全体に広がっていた。


「おい、この進軍で我々は絶対に他種族を抑え、我々魔族がこの世界をとる!そのために必要なことだ!そのために全員、全力で事にかかれ!」


 エンバーの言葉に、兵士たちは大きな声を上げる。

 かなり無理矢理なところがあるエンバーだが、それでも六魔将として実力を認められているだけはあり、その言葉には従っている。

 そんな彼らに、落ち着いた言葉が降りかかる。


「それでは、その進軍は止めてもらおうか」


 六魔将はすぐさま上空に目を向け、他の兵士たちも次々と上空にたたずむ人影を見上げる。他の兵士たちも次々と頭上に佇むそれを見る。


「誰だ、貴様!」


 エンバーが怒鳴り声をあげると、その人影、グレンは不敵に笑みを浮かべる。


「誰、か。できれば、こちらが名乗る前に気付いてもらいたいものだがな。まぁ、そこの二人は気付いているみたいだがな」


 グレンはエンバーの後ろにいるイレイヌとカラルティは、正体に気付いて驚愕の表情を浮かべていた。

 しかし、エンバーを含めそれ以外の兵士たちは気付くことができない。


「まぁ、仕方ないか。エンバー、だったか。お前は俺がいた頃はまだ六魔将の一員ではなかったからな。俺の顔や気配を詳しく覚えていないのは仕方ないことか」

「一体何を…………っ!?」


 グレンがほんの少し放出した魔力で、それを知っている者は気付いた。それはエンバーも然り。


「ようやくか。まぁ、俺も随分変わったからな。魔王でない生活もなかなかいいものだった。それもあって、今ではだいぶ楽しくさせてもらっているよ。魔王だったころは、俺は結構忙しかったからな」


 そこまで言って気付かないものは誰一人としていなかった。

 自らを魔王と名乗り、しかもその身から発せられる圧倒的魔力と存在感。魔族としての感覚が、グレンを魔王だと言っていた。

 そして、すぐさま全員がその場に膝をついた。


              ♢♢♢


 眼下の光景を見て、グレンは久々の対応に何だか居心地が悪かった。

 魔王の責務を放棄して人間族として生きていた頃は、こんな風にかしこまられるなんてことは一切なかった。

 それに慣れていて、そんな対等な関係というのがグレンは心地よかっただけに、この対応には些かしっくりこない部分はあった。


「ま、それはいいか」


 違和感は後でどうとでもなる。

 今はこの軍勢を止めることが最優先だ。

 せっかくここまで来て、魔王ということを明かしているのだから、それに見合うくらいにはいい方向に行ってほしいとグレンは願う。

 ずっと上空にいるのも魔力を使うので、グレンはエンバーの元へと降り立った。

 魔王であるグレンが目の前にまで来たことで、周囲にどよめきが起こり、エンバーですらも体が強張るのを感じていた。


「さて、ひとまず話があるのだが、それでいいかな?」

「話、でございますか。一体、どのような御用でしょうか」

「大したことじゃない。俺がお前たちに言いたいのはただ一つだ。この軍を引いて、とっととイスリーノまで帰れ。以上だ」


 グレンは下手に交渉するよりも、圧倒的な存在とみせて強引に要求する。案外こちらの方が魔王のイメージらしい気がしていた。

 この魔力の圧なら、大抵の魔族なら言うことは聞くはずだ。

 そのはずなのだが。


「大変申し訳ありませんが、それはできない相談でございます」


 エンバーははっきりと、グレンの要求をはねのけた。

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