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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第四章 三種族戦争
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第170話 教団とシュトリーゼ王国

 リベルはレヴィを見つめ、じっとその瞳の奥を見る。

 初めから多くのことを語らないことは想定していた。想定はしていたのだが、それでも実際に答えられないとそれはそれで納得がいかない部分が出てくる。

 全くもって強情なのだな、とリベルは自分に対して思った。


「じゃあ、教団は何を中心としているんですか?」

「中心?中心というのはどういうこと?」

「それはつまり、教団が何を第一に置いているのか。つまり、教団にとって一番大事なもの、あるいは、一番重要な人。教団の中心人物と言ってもいい」

「なるほどね。それはゼネウス様よね。当然でしょ?」

「その大前提はわかっています。ですが、そのゼネウスとあなたたちを仲介する人がいるのではないですか?元来、神と人の間を仲介する人というのはどの時代にもいただろうから、それと同じような役割を持つ人が、教団にもいると思ったんですが、どうでしょうか?」


 神と人の間で神の言葉を人に届けるという役目を持っている人は、人に対して大きな影響力を持つことができ、それは様々な人を操り、動かすことができる人物だ。

 その人が、教団の中心人物だとリベルは睨んでいる。


「仲介、ね。それならマスターのことね。あの人が教団の人々をまとめる役割を持っているからね」

「マスター……」


 そのマスターという人のことは、クレアがシュトリーゼで聞いた国王と誰かの会話にも出てきたことで覚えがあった。

 その名前から予想はしていたが、やはりかなりの地位の人物ということか。


「そのマスターという人、本名はわかりますか?さすがに、マスターは地位の名称でしょう?本当の名前があるはずですが……」

「あ、それは私も知らない。聞いた話によると、だいぶ昔に捨てたとか何とか」

「捨てた?名前を?」

「そう。だから、私はマスターの本名なんて知らない。むしろ、マスターが本名とも言えるわね」

「……それは屁理屈ですね」

「だよね。でも、私は実際にそう思っているからね。屁理屈でも、突き詰めればそれは理屈だよ」


 マスターという存在がわかっても、一体どんな人物なのかがわからない。

 そもそも英知の神託教団自体が謎の多すぎる集団だ。グレンやクレア、ソフィーですら聞き覚えの無かった集団が、どうしてここまで大きな組織になっているのか、リベルには皆目見当がつかなかった。

 当然、グレンたちの知っていることが全てということではないから確実ではないのだろうが、それでも気になる所だ。


「あの、教団の設立の経緯というのは何ですか?そういえば、今まで聞いたことがなかったな、と」

「あれ?今回の戦争に関してはもういいの?」

「まぁ、それに関してはある程度の情報は得られたので、あとは推測で大体予想がつきます。それで何をしようとしているのかはわかりませんが、ゼネウスが一体どんな神様なのかを考えれば、それである程度はわかります」

「あぁ、音楽神ね。なるほど、そうやって考えるんだね」


 レヴィはリベルの考え方を別に否定はしなかった。それが公邸になるということは必ずしもないが、リベルはそれを肯定と判断した。


「さて、それで設立の経緯、教えてもらえますか?」

「と言ってもね、私は最初の頃からずっといたわけじゃないから詳しくは知らないわよ。そういうことは、あの人間の国の、シュトリーゼだっけ?あそこの国王とかは知ってるんじゃないの?あそこは確か、王族が代々教団の一員だったはずだから」

「え?それは初耳です」

「そう。まぁ、今更知っても大して関係ないでしょ。国王が一員だってことは知っていたんだから、権限が絶大だってことに変わりはないんだし」

「それはそうですけど……」


 王族が代々教団の一員ということは、代々と表現するほどに教団の歴史もまた長いということ。

 国の中枢に入り込むという作業から考えると、大体百年くらいを想定していたのだが、それよりももっと長いようだ。

 と、王族が代々ということで、リベルは少し思い当たる所があった。


「王族が教団に一員だったのは、初代国王のこととかが関係していたりします?」

「初代国王って、ソフィー=シュトリーゼのことよね?えぇ、もちろん。彼女が神の子であったから、王族と教団の間に繫がりができたらしいわ。出来ることなら初代が生きている間に関係を構築したかったらしいんだけど、マスターが言うにはその前に死んだからそれができなかったって。当時はそれは惜しい存在をなくしたとマスターは思ったらしいよ」

「え?」


 ソフィーのことが教団と関係していたということも一応は驚きなのだが、もう一つ驚いたのは最後の言葉だった。


「マスターって、そんなに前から生きているの?」

「えぇ、そうみたいね。それがどうしたの?」

「……本当にそのマスターとやらは何者ですか?人間族や獣人族ではそれだけの長寿は無理です。魔族であっても、魔王という例外を除いてそこまでの寿命はないはずですが」

「確かにそうだね。でも、あなたはもう一つ見落としていることがある。いえ、知らないこと、というのが正しいわね」

「何に関してですか?」

「そうね。人間族を選択肢から外したこと、かしらね。マスターは人間族よ。それだけの長寿を実現している、本当に例外的な人間族。わかる?」

「わかると思いますか?」


 魔族における魔王という例外が、人間族にもいるということだ。

 そんな例外をリベルは聞いたことがない。

 マスターという存在が今までおぼろげだったものが見えそうだったのに、またしてもおぼろげになり、全貌が全くわからない。


「まったく、ただでさえ教団のことがわからないのに、そのマスターとやらが不確定すぎる、か。なんとも面倒な」

「……少し思ったのだけど、あなたはこの状況で<ハーモニクス>を使わないのね」


 突然にそう言われ、リベルは思考が一瞬停止した。


「どういうことです?」

「あなたはもう知っているでしょ、<ハーモニクス>は簡単に人を殺すことのできる魔法だと。それはもう、神の裁きの力よ」

「それくらいは理解していますよ」

「なら、何で使わないのかしらね。それを使えば、少なくとも獣人族側の内通者は消えるわけだし、少しくらいは優勢になると思うのだけど」

「それは論外ですね。ありえない」


 リベルは即答でレヴィの言うことを否定した。


「どうして?」

「内通者があなた一人という確証はどこにもないし、むしろあなたを殺すことでもしその内通者がいたら、見つけられなくなるかもしれない」

「実際にはいないんだけど……まぁ、その警戒も妥当ね」

「それと、ここであなたを殺せば、僕は王族殺しということになります。相手が教団であっても、それを信じてくれる人が、正確には信じてくれる第三者がいないと、僕はただの王族殺しです。おそらく極刑ですかね。こんな時期に殺すんですから、獣人族を陥れるための他種族のスパイという容疑がかけられます。そして、この変身の魔法もそれを裏付ける証拠となりえる」

「そういうことね。それで殺さないわけだ。人殺しが嫌いとかいう理由かと思った」

「もちろん、それが一番ですよ。人殺しは嫌いです」

「その嫌いなことを、あなたの仲間たちはやろうとしているのかもしれないけれど、それは良いの?」


 レヴィが言いたいのは、きっと戦場に向かっているグレンとクレア。

 確かに、その二人なら相手を殺してしまうかもしれない。それをリベルは許容していることになる。

 しかし、そこにはリベルにとっての大前提があった。


「あの二人が生きて帰ってくる。それ以外に望むものはありませんよ。それを阻み、そして二人がそうすべきと判断したのなら、それは仕方のないこととなりますからね。僕はそれを否定はしませんよ」

「……つまり、二人の方が大事、と?」

「当然でしょう?それ以外の理由はないですよ」

「…………そんな風に考えられるのは良いわね。まぁ、私を殺さないのなら、もうそろそろこの場もお開きとしましょうか。私もそろそろ戻らないといけないしね。あなたは私を拘束もできない以上、私は自由にさせてもらうわ」

「どうぞ。僕一人の力なんてたかが知れていますからね。今この場で動くのは無理なんで、どうぞご自由に。それでどうにか止められるようにはしますけどね」

「……まぁ、やってみてね」


 そう言うと、レヴィは勢い良く飛び上がり、建物を越えて行って姿が見えなくなった。

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