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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第四章 三種族戦争
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第169話 戦争の恐怖と不安

「やっぱり、あなたにはわかるみたいね。さすがは神の子ね」

「……僕としては、あなたが僕に気付かせようとしているとしか思えなかったんですけど、その辺の所はそちらとしてどうなんですか?例えば、最初に会った時とか、狙ってやったんですか?」


 最初はレヴィが、その時はルヴィと名乗ったが、彼女がリベルの真上に落ちてきたというものだ。その衝撃的な出会いだったが、その相手が教団の一員というのは、あまりにも出来過ぎというものだ。


「あぁ、あれね。ごめんなさないね、本当に。まさかあそこにあなたがいるとは思っていなかったのよ」

「ということは、別に狙って会ったわけじゃないんですか?」

「残念ながらね。ああやって王宮を抜け出すのは、私のひそかな楽しみでね。あれは完全にプライベートだったのよ。だから、あなたに会った時は本当に驚いたわよ」

「その偶然というのが出来過ぎな気がしますが……まぁ、いいです」

「本当に偶然なんだけどね」


 レヴィが苦笑している様子から、リベルは彼女が本当のことを言っているのだろうなと感じだが、それはこの際どうでも良いことだった。

 狙ったにせよ、偶然だったにせよ、どちらにしてもリベルがあの時レヴィにあったという事実は変わることはない。むしろ重要なのは、どうして会ったのかではなく、会ったという事実だけだ。


「それで、質問したいところなんですけど」

「さて、それに答えられるかどうかはわからないわね。私としても、教団を裏切るわけにはいかないから」

「それはそうでしょうね。むしろ、簡単に裏切るという人の言うことの方が信用できませんよ」

「それは確かに。でも、教団に属しているからと言っても、完全に教団に染まっているとも言い切れないのよね」


 リベルはレヴィが言ったことの意味がわからなかった。


「どういうことです?」

「あぁ、まぁね、そりゃ教団の指示に従うことに変わりはないんだけど、それでもそれ以外の範囲では基本的に自由なのよね。はっきりって、教団の邪魔になるようなことをしなければ、何をしても自由、みたいな」

「それは本当に自由ですね。つまり、縛られ過ぎない、ということですか」

「そういうこと。まぁ、それでも私の判断で言わないことは言わないけど……答えないということが答えになることもあるから面倒なんだよね。あなたなら、それくらい判断できそうだしね」

「買い被りだとは思いますが……まぁ、いいです。それで、早速質問ですが、あなたは何をしましたか?」

「は?」


 リベルの質問があまりにも唐突に直接的だったことから、レヴィは自分の耳を疑い、呆けたような声が出た。

 つい先ほど自分が認めた人がそんな質問をすることが想定外だったというものだ。

 しばらくして頭が回ってきたレヴィは、呆れたようにため息を吐いた。


「はぁ、それをそのまま答えるのは、当然教団の邪魔をすることになるんだけど?」


 レヴィは当然のようにそう答える。

 しかし、そこからでもリベルは得るものがあった。


「なるほど。つまり、レヴィさんがしたことはまだ続いている、ということですか。続いているというのは、やはりこれから起こりそうな戦争のことですね。予想通りでしたが、やはりそれに関与していましたか」

「……あぁ、そうか。答えないことが答えになるのがこんなに早く実感できるなんてね。直球だと思ったら、変化球だったってことね」

「どんな例えでもいいですが、僕にとってはかなり直球だったんですけどね。答えはある程度予想していましたが」

「そうでしょうね。あくまで確認程度の問いだったということでしょう?まったく、こっちが油断したわ。もう少し余裕があればよかった」

「そうなっては困りますけどね。僕としては、こういう話し合いが得意分野なので、それを活かしたいところなんですが……まぁ、次に行きましょう」


 今のところ、リベルの方が優勢に見えた。

 もっとも、その優勢というのがどこまで続くのかどうか。正直なところ、こういう情報の攻守に関しては、守る側が無表情無感情を装えば、かなり有利になるのだ。そういう意味では、ハンナは適任と言えるだろうが、レヴィはそういうことができていないようで、気を引き締めているのがわかった。


(これで教団の一員か。いろんな人がいるもんだね)


 リベルはやはりいろいろな人が集まっているというのが面白かった。


「それでは、あなたはいつから教団の一員なんですか?」

「……七年くらい前からね。私はラスカンの第一王女だから、かなり重要な位置に入られるのよ。教団はある一つの目的を追っているから、そのために国の中枢に入れる人は重宝されたの。その時から、私はラスカンの情報をいくつか向こう側に渡していたわ」

「そのある目的というのは……教えてもらえないんでしょうね」

「そうね。それを教えるなんて、馬鹿のすることね」

「なら、何かしらのヒントはありますか?」

「あなたにヒント何て出したら、特定されるかもしれないっていう恐怖があるんだけど」

「恐怖って……。そこまで言いますか」


 ついさっきの件で警戒されてしまっているがために、リベルに対して慎重になっているレヴィ。

 その態度に、どこかグレンたち他の人と同じようなところを感じていた。

 今のところ、アンナくらいのものだろうか、リベルに対してそんなことが全くないのは。


「せめて、敵側の人には恐れられたくないんですけど」

「普通そのセリフは逆でしょ?ていうか、その言い方だとあなたは仲間からも恐れられているように聞こえるのだけれど?」

「残念ながら事実ですよ。本当に残念ながらね」

「ねぇ、自業自得という言葉知ってる?」

「責任転嫁という言葉を知ってますか?」

「そう返すのが恐れられる理由の一つでしょ」

「まぁ、自覚はしていますけどね。とにかく、それは置いといて……うん、これがいいですね、あなたたちがそれぞれの国、種族の中枢に入り込んでいるなら、魔族側にも入り込んでいるんですか?」

「それはそうだけど……」


 レヴィが呆気なく答えたことに、リベルは拍子抜けした。

 もう少し勿体付ける気がしていたのだ。しかし、それは逆に知られてもいいことで、それを知ったところで、教団側には何も不利はないということだ。


「なるほど、つまり、国の中枢に入っているあなたたちの役目は、この戦争を引き起こすところで、もうすでに終了しているということですね」

「本当に、よくもまぁそこまで頭が回るわね」

「ありがとうございます」

「褒めたくはないけどね……でも、まぁ、そうよ。三種族で戦争を起こすという目的が達成されれば、もうそこで教団の目的は大きく進み、私たちももうその役目が終わるのよ」

「なるほど。でも、戦争を起こすだけではなく、求めているのは戦争を起こすことで、何かが起こることですよね。それでもうあなたたちの役目が終わりということは、別に戦争が絶対に起きなければならないということではないんですね」

「あなた、どこまで考えているの?」

「どこまで、と言われても。ただ、思うだけですよ。戦争なんて、死ぬ気で止めれば止められるものじゃないのかってね。教団は用意周到な方だから、そのことを考えていないはずがない。でも、それでもあなたたちの役目が終わりなら、もしこのまま戦争が起きることがなくてもいいわけだ。結局のところ、戦争が起きそうだったという事実があり、それを後押しする形で戦争が起きればいいという希望的観測なわけだ。それはまるで、グレンの封印みたいですね」


 リベルがにやりとすると、逆にレヴィは嫌そうな顔をした。

 その顔をリベルは知っていた。


「なるほど。グレンの封印と同じようなことで、何かをしようとしているというわけですか。グレンの封印自体は、グレンが自分で編み出したものだから、関係はない。それに類するものですか。となると、戦争が起きることによる恐怖心や不安、そういったものが教団の目的ですか」

「やっぱり、こうなるのね。面倒なことに」


 レヴィは呆れるほどに察しの付くリベルにため息を吐いた。


「それなら、半分正解ね」

「それは残念。完璧な正解ではないということですか」

「えぇ、そうよ。そして、それは絶対にあなたでは止められないから、そこはわかっていた方がいいわよ」

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