第165話 教団の動き
二回に分けての話ですね。
リベルは宿の一室でアンナとソフィーと集まり、話し合いをする。
グレンとクレアが別行動をするということを決めた次の日には、二人とも各々の目的地へと向かっていった。それが今朝のことだ。
リベルたちはそのままラスカンに留まることになった。目的があっても、どうするかを決めていなければ、動こうにも動けない。
「さてと、どうしたもんかな。二人はちゃんとした対象が決まっているけど、僕らの場合はそう簡単にはいかないからね」
『そうですね。教団の動きを探る、というのはとてつもなく難しいですよ』
「リベルさん、どうするんですか?」
三人で集まっていることが最近増えているために、リベルとしてはこうして話をする分には全く問題ないのだが、そこで何か重要なことを決めるとなると、それは些かリベルの身には重すぎた。
「ソフィーはどう考えてる?」
『いきなりこっちに振りますか』
「そうだね。まぁ、何か話してよ。その間に、こっちでも考えをまとめる。それで何も思いつかなければ、それでまた考える。ソフィーの方は何か考えでもある?」
『そうですね。考え、ですか』
ソフィーは、強制的に渡されたバトンで、真剣に考える。
そして、アンナもどうやら考えているようだ。
『そういえば、魔族と人間族が動くのがほとんど同時でしたね』
「そうだね。もっとも、教団がイスリーノにある以上、魔族側の動きを捕らえられるだろうし、シュトリーゼの国王がなんか連絡を取っていたみたいだから、遠距離での連絡もできただろうね」
『そうなると、魔族の動きに合わせて動くことができますね』
「……でも、そう簡単でしょうか?」
リベルとソフィーの話に、アンナは首を傾げていた。
「どういうこと、アンナ?」
「魔族が動き出してから連絡を取っても、そんなに早く動けないですよね?ほら、この国みたいに、そんな同時期に何かできるようなことではないですよ」
『確かに、そうですね』
「てことは、人間族の動き初めは、魔族が目に見えて動くよりも速かった。となると、魔族側にも入り込んでいる、ということになるね。そういえば、各地に潜り込んでいるんだっけ。それは考えられるね」
教団がイスリーノにあるために、魔族側に入るのは、魔族であれば他の種族よりも楽だっただろう。
それに、一度入ってしまえば、その後がだいぶ楽になる。
逆に人間族の方に取り入るのが大変だったのではないか、とリベルは考えた。
魔族と獣人族はかなりの実力主義らしく、実力があれば中枢に入ることは大して難しくない。
その分、軍全体の力量が高いのだが、人間族の場合は完全な実力主義とは言えない。
幾らかは親戚の権力が影響したりするし、実力があっても出身から上に上がれないことはある。クレアは勇者という破格の力を持っていたがゆえに見逃されているが、人間族の国とは存外そういうものだ。
「魔族と人間族が動くと、当然獣人族が動くか。そうなると全種族がぶつかることは、かなり確定的なんだけど、これが教団側の意図したこと、なのかな?だとしたら、その目的、か」
「戦争させるのが目的じゃなくて、ですか?」
「うん。スケールが大きいと勘違いしやすいけど、逆にスケールが大きいからこそ戦うのを目的とすることはない。戦争というのは、あくまで交渉手段の一つでしかない。ただそれだけだ」
「ふ~ん、そうなんですか。言われてみれば、そうかもしれません」
『リベルの言う通りですね。それなら、教団側の目的、ですか。やはりそこに行き着きますよね』
そこへは何度も行き着いている。
グレンたちがいた時も、そこについては何度も考えた。
しかし、情報が少ないがゆえに、全く想像ができないのだ。スケールのデカさも、その判断を鈍らせる材料となっていた。
「そこへ行くのがいきなり過ぎるのかもね。もう少し、情報を整理しよう。今回の戦争についてだけでなく、これまで関わってきたことに関して」
「そうですね」
『最初は、確かにアグニ、でしたっけ?』
「そう。炎魔竜アグニ、または炎魔アグニ。その討伐の時だね。王都リンベルを散策していたら攫われた。その時に僕を攫ったのは、教団のハンナ、という女性。これはどうやら、アグニを試しとして、僕の力を測る。そんな目的が、教団のマスターという人にはあった」
『何度聞いても、あのアグニを試しに使うなんて、信じられないですけどね。でも、そう言っていたんですよね?』
夢の中で、だが、それでもあの時出てきたハンナは、本物だったのだろうとリベルは思っている。
そして、教団に関する正確な情報を得られたのは、その夢のみであるため、それが偽りであろうとなかろうと、重要なことなのだ。
その中で言われていることが、今回にどうつながるかは、整理して見なくてはわからない。
「ハンナさんは、ね。ただ、神の子の力を試したということは、確実に僕の力、<ハーモニクス>が必要ということになるね。実際、アグニに対抗するならそれ位しかなかったし」
「<ハーモニクス>……。自分が害悪と判断したものを消滅させる、でしたっけ」
『言葉上ではそうですね。ですが、そんな綺麗なものではないのは、実際に使った私とリベルならわかりますね』
「そうだね。害悪と判断したもの、なんて言葉にしてるけど、実際の所は、ただ自分が気に入らないものを消滅させる。そこに尽きるんだよ」
「そう、なんですか……」
<ハーモニクス>。調和を意味するその神属性魔法は、その調和という意味と、虹の光という神々しい姿が前面に出るものの、その実態は醜悪なものだとリベルは感じていた。
なにせ、神のように気に入らないものを消していくのだ。それは、人がやるべきことではないことくらい、誰でもわかることだ。
ましてや、この力では命すら簡単に奪えてしまう。そんな非常識が怒ってしまう。
そう考えると、やはり神属性魔法とはひどいものだとリベルは思う。
「アグニの討伐で、教団側は僕の力を確認した。そしてその後、時系列的には、エクリア王国とシュトリーゼ王国では、シュトリーゼの方が先だね。そこで国王が何者かと神の子について話しているのをクレアが聞いた。そしてクレアが脱出をしようとしたが、それを妨害するようにシュトリーゼの軍の部隊長四人が出てきた。クレアの話だと、まるで操られているようだったっていう話だね。国王と部隊長全員が教団と通じている、なんていうのはさすがに考えにくいね。可能性としては薄いから、ひとまずは国王が繋がっていたという事実の確認だけだね」
仲間と戦うというのがクレアにどんな思いをさせたのかはわからないが、リベルがその身になって置き換えて考えると、知っている人が自分に敵意を向けて全力で攻撃してくれば、困惑と同時に悲しくなってくるだろう。
クレアはその気持ちをもっと強く感じたはずだ。
そして、今クレアはその人たちの所へと向かっている。
もしかしたら、あの時のままで再開した瞬間に、今度は軍の全員から攻撃されるかもしれない。
そんな不安はあるはずだ。リベルが考え付くのだから、クレアだって当然そのくらいは考えているだろう。
となると、クレアはその恐怖を押し殺して、そして向かって行ったのだ。
それがどれほど勇気を必要とするかはリベルには考えられないが、それでも、何とかして救いたいという思いがあったのは確かなのだろう。
そういうプラスの想いがあったからこそ、クレアは真っ直ぐに生きているのだと、リベルは思っている。
「そして、次がエクリア王国か」
またしても、この三人です。
別に意図していたわけではないのですが、気付いたらこうなっていましたね。
まぁ、定番も悪くはないんですよね。