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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第三章 獣人界へ
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第145話 敗北後のクレア

 昨日と同じ場所で待ち続けるリベルたちに、今日はクレアが加わっていた。

 どうやら、敗北したらその時点でお役御免ということで、速めに帰れるらしい。

 それもまた、仕方のないこと。

 そうして四人で待っている間は、何とも微妙な空気が流れていた。

 その原因は、もちろんクレアが負けたこと。

 リベルとアンナ、ソフィーは気にしていない。むしろ、気にする理由が思い当たらないくらいなのだが、本人はその限りではない。

 もともと腕試しで参加することにした大会であるため、できることなら優勝を狙いたかったというのはわかる。

 だが、それでも運というものが勝敗に大きく関わってくることを、クレアは知っているはずだ。

 だが、それを正面から認めることがとてもつらいのだ。

 だからこそ、クレアは今沈黙を保ち、リベルたちはそう簡単に口を開くことができなかった。


(まぁ、グレンが来たら、もっと微妙なことになるんだろうけどね。そこら辺はいい具合になってくれるといいな。立ち直る、と言うほど大げさではないけど、ちゃんと現状認識ができれば、それだけでいいと思うんだよね)


 そんな風に冷静に考えるリベルの横で、アンナは心配そうにクレアとリベルを交互に見る。

 それが何かを期待しているのだということを、リベルはうすうす勘付いているが、それでもここで動けるほどの人間ではない。

 それに、戦闘に素人のリベルが口出ししたところで、一体何ができるのか、ということだ。

 リベルは少し逃避の意味を込めて、宙に浮いているソフィーを見上げると、その姿は昨日と同じようになっていた。


(あ、これ面倒な奴だ。クレアほどではないけど。まぁ、その程度の具合も僕にわかることではないんだけど、こっちの方が個人的にはやめてほしいかな)


 リベルはため息を吐くと、上空のソフィーに声をかける。


「あまり昨日みたいにならないでね。見聞きしてるこっちが面倒だから」

『…………大丈夫ですよ』

「今の間を流せと言いたいのかな?」

『大丈夫ですよ?』

「せめて、言うなら普通の言い方にしてくれないかな?」

『大丈夫だと思いますよ』

「不安要素が大きい」

『大丈夫だと信じてください』

「今までのことで信じられるか」

『大丈夫です(棒読み)』

「何か投げやりになってるな」


 最後にリベルは再びため息を吐いたことで、ソフィーは苦笑して降下してきた。


『そんなに心配しなくても、場くらい弁えますよ』

「今までのが場を弁えていたとは思えないんだけど」

『見えなければ問題ありません』

「それが通用しちゃうのかな、これ?まぁ、弁えてくれているのならいいんだけど……って、ソフィー?」


 ソフィーはすたすたと俯くクレアの元まで歩いて行き、その拳を握りしめた。

 そして、その拳に魔力が纏ってあり、しっかりと物質化しているのがリベルにはわかった。

 半ば放心状態のクレアは、まだ気づいていないのか、平然としていた。


「ちょ、何やるつもり?」


 リベルがその先を予想しつつ問いかけると、ソフィーは振り返り、にっこりと微笑む。


鉄拳指導てへっ

「えっと、別に舌を出しても、言葉が言葉だからかわいいとは思えないんだけど……」

「えいっ」

「無視か」


 リベルのツッコミをスルーして、ソフィーはその拳でクレアを殴った。

 俯き気味だったクレアの額を強く殴ったのだ。

 当然クレアはその衝撃で一気に後方へと倒れこんだ。


「え?」


 クレアはその後すぐに立ち上がるが、衝撃のあった額をさすった。


「ねぇ、ソフィーは何がしたかったの?」

『言いましたよ、鉄拳指導、と』

「えっと、どこら辺が指導なのか聞いてもいいかな?」

『…………ひとまずそれは置いておいて』

「いいのかな?」


 リベルが少し不安になるが、ソフィーがビシッとクレアを指差したことで、視線がクレアへと向く。


『でも、表情はしっかりと戻ったと思いますけど?』

「確かに、ね」


 ソフィーの言う通り、よく見るとクレアは呆けたような表情をしているが、それでも先ほどのような暗い顔よりはましだった。


「まぁ、いきなり殴られればそうなるよね」

『いい方法でしょ?』

「それを認めるのは、少し危ない気がするから、この場は保留ということで」

『それは残念』


 ソフィーが本当に残念そうな顔をして、リベルとアンナが苦笑いをしていると、そこに呆けたままのクレアが入ってきた。


「そろそろいいかな?」

「あ…………」


 リベルが改めて見たら、呆けているなどどこに行ったのかというものだった。


「えっと、クレア。僕には責任はないと思うんだよね。悪いのはどう考えてもソフィーだからね」

『あ、リベルは責任転嫁するんですか?』

「責任転嫁の意味わかってる?」

「それは気にしてないから大丈夫だよ」


 クレアはそう言って、いまだに額をさする。

 それほど痛かったのか、とリベルは軽く戦慄した。やはり、先ほどいい方法と認めなくて良かったと思っている。


「確かにかなりイラッときたけど、でも、それは仕方のないことだから。ぼうっとしてた私が悪いし」

『ありがとうございます、クレア』

「……不本意ながら、ですけどね。感情面は別です」

『ごめんなさい!』


 感謝から一転、謝罪への切り替えの早さにリベルが感心していると、クレアは首を横に振った。


「別にいいですよ。悪いのはやはり私ですからね」

「実害を与えたのはソフィーだから、そこまでしなくても……」

「ううん。非は認めるべきだからね。実際に、ソフィーのおかげで今は話せてるわけだし」

『そういうことですね』


 自信ありげに言うソフィーの姿を半眼で見つめて、リベルはクレアに言った。


「まぁ、クレアがそういうのならいいとは思うけど……それより、大丈夫?」

「あぁ、リベルも気にするよね、さすがに」

「そうだね。場の空気が重くなるのは嫌だからね」


 クレアのためではなく、あくまで自分のためだ、とリベルは言っている。

 しかし、それを非難する人はここにはいなかった。


「そこでクレアさんのためとは言わないんですね。何だかリベルさんらしさがわかってきますよ」

『そうですね。今の発言にはそれがありますよね』

「私も、まぁ、そう言ってもらえて逆によかった、かな。何となくだけど」


 好印象、というわけではないけれど、それをリベルの個性として認められているあたり、リベルはそれなりに認められているということなのだろう。

 リベル自身もそう感じて、何だか恥ずかしくなる気分だった。


「とにかく、僕はそこまで気にすることじゃないと思うんだよ。仕方のないことだったわけだし。あれは相手を褒めるしかないよ。最後のあれ、たぶん知ってないと対処は難しいと思う。特にお互い接近戦なんだから、それだけ一瞬の判断が必要になるわけだしね。あのリートハルト、はその一瞬を潰していたよ。仕方ない」

『私も同意見です。あれは相手がすごかった、ということですね』

「私はよくわからないですけど、クレアさんは頑張ったと思いますよ」

「そう、かな?そうだといいけど……」


 クレアはリベルたちのフォローに苦笑する。


「でも、負けちゃったわけだし」

「それもまた仕方ない。そして、また頑張る。そういうことでしょ?」

「え……」


 クレアはリベルの言葉に、驚いた表情をする。


「負けたのは事実だから仕方ない。そうなったら、あとは頑張る。これだけでしょ。違う?」

「違ってはいないけど……。でも」

「無理があるかもね。それくらい僕だって十分わかってる。だからこそ、意識することで頑張ろうと思わないといけないんじゃないのかな?まぁ、外野だから言えることだけど」

「……なるほどね。こういうのがリベルらしい、か。よくわかるね」

「何に納得しているのかはよくわからないけど……別にいいか」


 周りの人が次々に納得していくリベルらしさというものに、リベル自身は疑問なのだが、そこは考えても仕方のないことだと割り切っている。


「僕が言うのもなんだけど、クレアだってまだまだこれからでしょ。頑張ることこそ、必要だと思うけどね」

「そうだね。まったく……自分でもわかってたはずなんだけどなぁ。改めて思い知らされたっていう感じかな。ありがとう」


 そう言って笑顔を浮かべるクレアは、満面の笑みだった。

 その姿にうっすらとリベルには、本来の赤髪に赤目のクレア=シュリンケルが浮かんだ。

 別に変身の魔法が解けているわけではなく、ただのリベルのイメージだ。

 それが見えると、リベルはなぜかドキッとした。


「あ、うん。どういたしまして」


 そのため、自分でもぎこちないものだと思ってしまうほどの返事になった。

意識することで、頑張ろうと思わないといけないんじゃないのかな?


本当に、リベルの言葉がブーメランで自分に返ってきます。

これを執筆直後、すこし胸が痛い。

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