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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第三章 獣人界へ
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第134話 第六試合

 第二試合でクレアが相手の熊人を瞬殺したことで会場は沸き、観客たちは本気でクレアに優勝を期待するような様子だった。

 特に同じ女性として応援する人が数多くいて、これは会場の大半を味方につけたな、とリベルは思った。

 もともと容姿が良かったことと、見た目とはギャップのある強さが相まって、観客たちは興奮状態になっていた。早くもファンとか言っている男もいるようだが、リベルはそれは普通に無視することにした。

 結局、第二試合は試合内容が第一試合とほとんど同じだったにもかかわらず、それ以上の盛り上がりを見せた。

 リベルは内心では、この後に続く人たちが少しかわいそうに思えたくらいだった。

 もっとも、リベルは本当にその他の参加者にはどうでもいいので、かわいそうに思ってもそこから何かして応援するとかはないが。

 そんなこんなで試合は進み、第三、第四、第五と勝者が決まっていった。

 やはり第一と第二試合の決着が特殊過ぎたようで、その後の三つは普通に戦っているなとわかるくらいには試合が長引き、そして対して実力差がないのかギリギリの試合が多くなっていた。

 それには観客たちも別の意味で興奮しているようだった。

 それも当然で、観客は戦いを見るために来ているのだから、決着がすぐ付く戦いばかりだったら、それはそれでつまらないというものだろう。

 こうして観客が沸いているのだから、リベルとしても少しくらいは興味を出してもいいかもと思い始めた。

 早くとも、参加者が半分くらいに減った明日くらいから。

 そしてそんなことを思っていると、第六試合の参加者が入ってきた。

 片方はグレン。こちらはクレアと違って武器を持っていない。

 それに対して相手は猫人。武器はどうやら短剣のようだ。

 リベルたちは変装のために全員猫人へと見た目を変えているので、この試合は傍から見れば猫人対猫人ということになる。

 この大会ではここまで同種族同士の戦いというのが起きていなかったので、この試合も観客としては注目のようだった。

 そしてリベルは、相手を瞬殺したクレアとは違って、どういう戦い方を見せるのだろうと気になっていた。まぁ、同じく瞬殺の可能性もなくはないが、残念ながら今のグレンの実力が正確にどの程度かを把握しきれていないリベルには、どうなるのかは予想できない。

 それに、もしかしたらあえて長引かせて観客を楽しませるということも無きにしも非ずなので、そこら辺を考え始めると予想とかが面倒になるのだ。

 ただ、それでもリベルはグレンの勝利は疑っていなかった。


(まぁ、全開状態のグレンなら、魔法なんてなくてもこの場にいる中では最強だろけど、今の状態でどんなことをするのかね。そこら辺は楽しみだ)


 リベルがフィールドをじっと見ていると、横からアンナが袖をクイッと引っ張った。


「ん?どうしたの?」

「えっと、リベルさんはグレンさんが勝つと思っていますか?」

「え?そりゃ、勝つと思ってるけど……アンナはそうは思わないの?」

「いえ、そういうわけではないですけど……私もグレンさんが勝つと思っていますし」

「そうなんだ。そうだよね、グレンは負けないよね」

「はい、そうですね」


 口調は本当にグレンの勝利について言っている。

 しかし、アンナは別のものを見ているのではないかとリベルは思ってしまう。

 それほどに、今のアンナは何だか様子が変だった。

 十歳の少女らしい子どもの顔ではなく、何だか大人びた少女には不釣り合いな表情に見えた。

 そして、それがリベルは少し気になった。

 しかし、アンナがすぐに顔をフィールドの方へ向けてしまったため、リベルは尋ねるタイミングを逸してしまい、今は気にしないようにしようと決めた。

 もしかしたら気のせいという可能性がある、とリベルは自分に言い聞かせることにして、そのままグレンに集中しようと思った。

 そしてちょうど、試合が始まる所だった。


「試合、開始!」


 その審判の言葉に従い、フィールドの二人は同時に動き出した。

 お互いスピードは同じ程度。両者に空いていた距離はすぐに狭まり、数秒とかからずにお互いの射程圏内に入った。

 グレンは相手が短剣であるがゆえに、ほとんど同じリーチで戦える。

 しかし、それは相手も同じことで、武器は持っていても短剣。速度では差はほとんど出ない。

 お互いが至近距離でやり合う構図に必然的になる。

 先制で仕掛けたのは猫人。短剣を逆手に持ち、グレンに切りつける。

 グレンはそれを躱すことなく、一日大きく踏み込むことで距離を詰め、猫人の手首を抑えて攻撃を止める。

 そしてそれに合わせてカウンターで腹に拳を入れようとするが、それは相手も読んでいたようで、身を軽くひねることでそれを躱す。

 グレンはかわされたことに驚くことはなく、回し蹴りへとつなげる。

 しかし、相手はそれも後ろにステップすることで躱し、蹴りを放った直後のグレンにすぐに詰めてくる。

 グレンもそうはさせまいと、もう一度回し蹴りを繋げると、相手は伏せることでそれを回避。その直後に一気に短剣を振りかぶる。

 だが、グレンは回し蹴りの最中に軸足だけで後ろへと跳ぶ。

 さすがにそこまでは予想していなかったようで、猫人の短剣は空を切る。

 その間にグレンは不安定だった体勢を立て直し、戦いは振出しへと戻った。

 わずか短い間に高速で行われる戦闘に目を奪われていた観客たちは、一気に沸く。


「おぉ、すげぇ!!」

「あいつらやべぇぞ!」

「ああ、全く見えなかった!」


 興奮している観客たちをいつもならリベルも冷静に見ているのだが、今回はリベルも興奮してきた。

 グレンの戦いを見ていると、それが一つの踊りのように見えて、リベルはそれに心を打たれた気分だ。身内だからそういうことになるのだろうが、グレンの戦いをほとんど初めて見たリベルは、改めてグレンの凄さを実感できた。

 そしてそれと同時に惜しいと思ってしまう。全盛期の力そのままだったらどれだけすごいことになっていたんだろう、と。


「あんた、すごいな」


 グレンは相手の猫人に声をかける。

 それに対して、猫人は苦笑いをする。


「それは嫌味かよ。その若さでそんだけ出来るなんてよ」

「……まぁ、どうも、とは言っておこうかな」


 今のグレンは見た目が変装前と同じように、獣人族で二十台に見えるようにしている。

 相手はそれよりも年は上。相手からしたら、自分よりも年下の相手が自分と互角の動きをするのだから、驚くところだろう。


「そんだけ強けりゃ、もう十分とか思わねぇのか?どうやら、まだまだ力を上げられるみたいだが?」

「……わかるのか」

「わかるさ。俺だって十分に強いつもりだ」

「なるほど」


 猫人はグレンがまだ全く本気ではないことに気付いていた。

 だからこそ、訪ねている。それ以上の力が必要なのか、と。

 猫人はグレンと互角にやり合っていたが、それでもグレンが本気を出してしまえば互角何て言っていられないことをわかっていた。しかもそれは、制限された中での本気だ。さらにその先は当然ある。

 それでもなお強くなろうとするのか、と猫人は聞いている。

 それに対して、グレンは特に迷うこともなく、さも当たり前のように言って見せる。


「必要に決まっている。力はあって困るわけじゃない。強くなって強くなって、そして強くなることに、必要かどうかなんて質問は無意味だ」

「……そうだな」


 猫人は苦笑して、自分の質問が無駄であったことを悟る。

 そして、短剣を構える。


「そうやって強くなることを求め続けるのは、おそらく間違っていないんだろうな。だが、どれだけ強くなろうともできないことは当然ある。何でもできる奴なんていないからな」

「それくらいはわかっているが……肝に銘じておこう」


 グレンも構える。

 そして、二人は再び動き出した。先ほどと同じようにお互い最短距離で詰めていく。

 しかし、猫人は目の前の光景に驚く。覚悟していたこととはいえ、実際に目にすると違う。

 グレンは猫人に本気を出していないことを看破されたことから、敬意を表して少しだけ本気を出そうと思った。

 そしてその結果が、猫人を上回る速度。

 その速度の驚いた猫人だが、何とかタイミングを合わせて短剣で切り付ける。

 しかし、グレンにはその動きがとてもゆっくりに見え、そして直後に勝負を決する。

 まず相手の手首をはたいて短剣を手放させ、空いた胴体に計三発の掌打を打ち込んで吹き飛ばす。

 その一連の動きを見切ることができた者は、観客の中にもほとんどいなかった。

 大半が最初の攻防ですら目で追い切れていない者がいたのだ。さらに速度を上げたグレンの、しかも腕の動きまで完全に捉えることができていたら、それは相当な実力者だ。

 また、目の前でそれが起こった猫人も、そのすべてを捉えられなかった。

 短剣を弾かれたと思った直後に吹き飛ばされ、その最中に自分は攻撃をくらったのだと気付いたのだ。

 それだけで、猫人は完全にわかってしまった。

 予想していたことだったが、わかる。

 吹き飛ばされ、地面に転がり、動けなくなった自分を感じていた。

 こうして、グレンの勝利が確定した。

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