表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第三章 獣人界へ
134/230

第133話 一瞬で

 開会式はつつがなく終了し、その後すぐにトーナメントの開始となった。

 参加人数が十六人ということで、三日間に分けて戦いを行う。

 一日目は八試合。二日目は四試合。そして三日目は準決勝の二試合と決勝の一試合。

 ちなみに今回の大会は優勝者の特典は決まっていたが、それ以外の順位には何もなので、三位決定戦も行われない。ただ優勝者を決めるだけなのだ。

 そして初日の今日、試合の順番は決められていて、クレアは第二試合、グレンは第六試合ということになっているようだった。

 リベルは一応グレンとクレアの応援なので、他の試合はあまり気にかけていない。

 興味がないというわけではないが、グレンたちとは違ってあまり熱心になろうとは思っていなかった。もっとも、見ることは見るのだが。

 そして一試合目。

 グレンたちの対戦相手ではないので名前までは覚えないリベルには、その二人は鳥人と猫人と認識できる。

 猫人の方はアンナなどと同じように猫耳と尻尾がついていて、話によると獣人族の中では猫人はかなりの数がいるらしい。

 その特性は俊敏な動き、だそうだ。力はあまりないらしいが、それを補って余りあるほどにスピードに特化しているとか。

 一方で鳥人の方は、簡単に言えば人間の背中に鳥の羽が生えている感じだ。あれで実際に飛べるのだから空中戦という鳥人独自の戦闘方があるようだ。その場合、飛べない方はかなり不利となり、基本的に戦いでは受けになってしまうことが多い。

 特に魔法を使えない獣人族同士の戦いとなるとその特性が強いそうだ。魔法なら遠距離でも攻撃できるが、魔法を使わないとなると弓くらいしか手がない。

 今回の戦いでは武器の使用は認められているが、相手に致命傷を与えない範疇でなくてはならないというルールがある。このおかげでクレアは武器を使えるのだが、この第一試合では二人とも武器ではなく素手で戦うようだ。


「それでは、試合開始!!」


 審判の掛け声で始まった戦い。

 先に飛び出したのは猫人の方。

 それは当然と言える。なにせ接近しなければ何も始まらず、そして相手に上空をとられればそれだけで十分に縁な状況となってしまうのだから。

 だからこそ猫人の行動は予想通りと言えるものだったが、その一方で鳥人の方の行動は観客、そして猫人に少なからず驚きを与えた。

 それは鳥人が上空に飛べるという利点を生かすことなく、逆に地上に立ち猫人が突っ込んでくるのを待ち構えていたのだ。


「何だ、飛ばないのか?」


 猫人が声をかけると、鳥人は歯牙にもかけない様子で返す。


「その必要はない。お前相手なら飛ばずとも問題はない」

「あぁ、そうかよ。空飛ぶことしかできない奴が、地上で敵うと思うなよ」


 鳥人の言葉にイラついたのか猫人の口調が強くなり、踏み出す足に力は籠る。

 そして両者の距離がぐんぐんと近づいてきて、猫人が一気に加速して一瞬にして鳥人との距離を詰めた。

 その加速はさすが素早さがすごいと言われる猫人と言え、観客ですらその姿を見失いそうになったほどだ。あれが目の前で起こったらどうなるかを想像した者もいたのか、どこか戦慄するような表情をしている者もいる。

 猫人が懐に入って来ても、鳥人は動かない。

 観客は目の前の猫人の動きをとらえきれずに反応できていないのだと思った。猫人もそう思って、勢いそのまま握りしめた拳を鳥人の腹へとぶち込もうとした。

 しかし、拳を振りかぶった瞬間に猫人は背筋に悪寒が走るのを感じ、拳を当てる寸前にちらりと鳥人の顔を見た。


「っ!?」


 その鳥人の目は確実に猫人の動きを目で追っていて、その表情には読み取れるものがなかった。まるで焦るほどのことではないと言っているかのように。

 それをすぐさま感じ取った猫人は、一刻も早く終わらせることを決意して拳を強く握りしめて、腹に当てようとした。

 しかし、その直後に吹き飛ばされたのは、猫人の方だった。


「……え……?」


 猫人は何が起こったのかわからなかったが、飛ばされながらも反射的に鳥人の方へ視線を向けた。すると、鳥人は猫人に拳を突き出した状態で立っていて、自分はその拳に顔面を殴られたのだと気付いた。

 いや、殴られたというほどではなく、カウンターをくらったのだ。

 鳥人は普通なら目の前で見失ってしまいそうになるほどの加速を見せた猫人を動きを完璧に捉え、相手が攻撃するタイミングに合わせて猫人の顔面を殴った。

 それまで鳥人は一切動いていなかった。

 観客からも一瞬の出来事で、まばたきした瞬間に、自分たちが予想した結果とは全く違うものがそこにあった。

 観客たちは驚きのあまり、歓声を沈めて言った。

 それゆえに、猫人が闘技場に倒れるドサリ、という音は、誰の耳にもしっかりと聞こえた。

 仰向けに倒れる猫人は動く気配がなく、審判が駆け寄りその状態を確かめる。

 そして、すぐに鳥人の勝利が宣言された。

 鳥人はそれに対して特に何をするでもなく、ただ黙々とその闘技場を去ろうとした。

 その冷静な鳥人と衝撃的な決着が相まって黙ってしまっていた観客たちは、それから少しして、一気に割れるような歓声を闘技場に響かせた。


「「「「おおおおおおおぉぉぉ!!!!」」」」


 その歓声を背に受けて退場する鳥人。

 この試合にかかった時間は十秒もない。本当に一瞬の出来事だった。

 そのたった一瞬を実現した鳥人に、観客から惜しみない歓声が送られていた。その姿はもう見えなくなっているが、おそらく見えていなくともその先にいる鳥人に向けているのだろう。

 その歓声の大きさ、そして瞬殺の試合。それを見てリベルは面白いと思った。


「グレンとクレア以外どうでもいいと思っていたけど、これはすごいね。よくは見えなかったけど、本当にすごいんだろうね」


 そのひとりごとは歓声の紛れて掻き消える。

 それほどまでに、第一試合という最初に見せられる、衝撃だったのだとリベルは思った。

 そして鳥人ではなく動けていなかった猫人は気を失っているのだろう。そのまま担架で運ばれていくのが見えたが、それを笑うようなものがいないのはいいな、というのが一番の感想だった。


              ♢♢♢


 次の第二試合。

 第一試合の興奮が冷めやらぬまま、今大会唯一の女性参加者であるクレアに注目が集まる。

 獣人族の常識では女性は戦うことは難しいが、それでも審査を通ってきたということが、観客たちに期待を持たせる。

 相手の男はなかなかに屈強な感じで、細身のクレアとは正反対だった。

 姿からすると、熊人といったところ。何といってもその体の大きさが特徴的で、余裕で二メートルを超えている。クレアとは五十センチ以上も差がある。近くまで寄ってしまえば、クレアを完全に見下ろす形になるだろう。

 クレアの持つ武器は普通の片手剣。それに対して相手の持つ武器は巨大な斧。

 今回の大会で使用される武器は事前に大会側が用意した武器を使うようで、ちゃんと刃は潰してあるらしいが、それでもあれほどの巨大な斧を受ければクレアはただでは済まないだろう。

 観客たちは期待しつつも、半ばあきらめとともにクレアに注目している。

 それは相手も同じようで、試合開始前にクレアに話しかける。


「なぁ、嬢ちゃん、悪いことは言わねぇから棄権しな。いくら実力があると言っても、嬢ちゃんじゃ俺には勝てねぇよ。勝敗は決まっている」


 何ともありきたりな言い方だが、それは観客の言葉を代弁してもいた。

 クレアは非常に美人の部類に入る。そんなクレアが男の攻撃で苦しむ姿を見たくないと思うのは、至極当然のことだ。もっとも、そうでない嫌な奴もいるにはいるが、今回の対戦相手の男がそうでないことに、リベルは少なからず安心した。

 といっても、自分でもその安心が無駄であることには気付いているが。

 クレアは男の言葉に対して、真顔で返した。


「気遣いは無用よ。勝敗がすでに決しているなら、それを実現すればいいだけの話だし、それにこうして戦いの場に立った相手にそんなことを言うのは、さすがに失礼というものじゃないの?」


 クレアの表情には強い意志が込められ、その身がから放つ気は観客たちを打つ。

 それを真正面から受ける熊人は、にたりと笑った。


「そうだな。嬢ちゃんの言う通りだ。この場に上がった以上、棄権しろ、なんて言うだけ野暮か。なら、このまま勝つだけだ」

「やってみれば?」


 お互い武器を構え、気力も十分。

 審判は頃合いだと判断し、そして宣言した。


「試合開始!!」


 その言葉とともに両者が同時に動いた。

 この先の結末は、誰もが予想してしまっている。

 しかし、この場の誰があの少女が人類最強の存在だということに気付けるだろうか。その身に宿す力は、誰よりも強いものだということがわかるだろうか。

 見た目と性別、それだけでは到底判断できず、そして覆しようのないものが、観客たちの目に明らかとなる。

 二人は同時に動いた。

 しかし、正確には動き出しは同時でも、熊人は結局動けなかった。

 動こうとしたその瞬間にはもう、自分ののど元にクレアの剣の切っ先が付きつけられていたのだから。

 状況を理解できないまま数秒が経過し、熊人はその手の斧を落としてしまった。

 その音で我に返る観客たち。

 審判も目の前の現実を認識し、そして宣言する。


「勝者、クレア……」


 第一試合に続き第二試合もまた、一瞬で決着がついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ