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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第三章 獣人界へ
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第130話 ルヴィ

 茶髪の女性が一体何者なのかという疑問をリベルは残したままその場を去ったわけだが、そう簡単には解決にはならなかった。


「あ、あの……」


 立ち去ろうとするリベルにぎこちなく声をかける女性は、本当に困ったような顔をしていた。リベルには何に困っているのかはわからなかったが、その内の一つにリベルがさっき言ったことで雰囲気が微妙であることも含まれているに違いない。

 この状況で話しかけてきたのなら、それなりに重要なのだろうと思い、リベルは振り返ることにした。

 一応は話を聞く姿勢をとったことで女性は安心したのか、パッと花が咲くような笑みを浮かべた。


(さっき直後にこれか。意外とメンタル強いのかな?)


 リベルの考察は置いておいて、女性は呼び止めたわけを言う。


「あの、できれば道案内をお願いしたいのですけど……」

「それを僕たちに頼みますか。一応、他所から来ているのであまり詳しくはないんですが」

「それは、わかっていますけど、私は今ここがどこだかわからないので」


 その言葉を聞いた瞬間に、リベルは心の中で「うわー」と思った。

 建物の上からダイブしてくるような人が、実は迷子だったという話。疑う理由は特にないが、それにしてもその話は情けなかった。おもに女性が。


(まぁ、困っているならそれでもいいんだけど……なんだかな~)


 呆れてものが言えないとはこのことかと、リベルは自分で納得できたが、それは普通にスルー。

 特段断る理由がなければ、女性のお願いを聞いてもいいと思ったリベルは、一つ頷いた。


「構いませんよ。わかりやすいところなら、僕たちでも案内できそうですから」


 本当にわかりやすい所しか無理なのだが、いざとなった時はソフィーにでも頼んでしまえばいいのではないかというのがリベルの意見。結局、ソフィーの姿は見えない。


「本当にありがとうございます。私はルヴィと言います。しばらくの間よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ。僕はリベル、そしてこっちがアンナです。こちらこそお願いします」


 この時、リベルの顔を少し引きつっていた。

 それでも表には出さないように工夫はするけども、リベルは女性、ルヴィにはばれていると思えてしまった。そうなっても、仕方がないと割り切るしかないのだが。


「それで、どこへ案内すれば……」

「それはですね、王宮前の広場までです。そこまで行けばその先はわかりますので」

「結構近いですね。あ、でも実質的には遠いかな。まぁ、案内はできると思います」


 リベルのあいまいな言い様に、ルヴィは疑問に思ったようだ。実際に言っていることが真逆であるから、ルヴィとしても反応に困るのだろう。


「はぁ……近いのに遠いとは、いったいどういう……」

「簡単ですよ。距離的には近くても、人混みのせいで制限されます」

「人混み?」


 リベルとしては少しかっこよくいってみた所なのだが、その思惑に反してルヴィは首を傾げた。一体どうして人ごみというところに疑問を持ったのか、リベルの方が逆に聞きたいくらいだったが、それは別にいいと思った。

 実際に言ってみればわかる。リベルはある程度予想もしているのだ。


              ♢♢♢


 そして、案の定リベルの予想通りのことになってしまった。

 いや、そうなる前に立ち止まっているため、悪い結果にはなっていないが、リベルの予想が正しかったことが証明されていた。

 ルヴィは人が溢れ人混みが大通りをせわしなく動いている様を見て呆然としていた。リベルがちらりと横を見ると、その口が無防備に開いており、これが子供ならその口に食べ物でも突っ込んだらおもしろそうだと思った。もっとも、ルヴィはリベルよりも年上であるため、リベルはそんな失礼なことはしないが。

 意地悪なことを言ったのを抜いておくとそうなる。

 それはひとまず置いておいて、リベルたちがいるのは、先ほど大通りから外れる時に入った脇道近くから大通りを見ているのだが、今いる場所に対して、大通りは明らかに別世界のようだった。

 確かにリベルたちの方も普通と比べれば混んでいる方なのだが、比較対象が大通りの人混みだともはや桁が違った。

 この景色を覚悟していたリベルでさえも、がっくりとくるものがあり、あそこには無理をしてでも入りたくはなかった。帰る時は絶対に回避しようと決意するリベルだった。


(あ、そろそろこっちに引き戻さないと)


 呆然としているルヴィの目の間で手をひらひらと降ると、ルヴィはようやく戻って来た。


「あ、これが人混みというものですか。こんなに迫力があるんですね」

「そりゃ、僕もあそこには入りたくないですね、できれば。自然に巻き込まれるならまだ我慢できますがね。まぁ、迷子になってしまう可能性があるというのも避けたい理由の一つですね」


 ルヴィがリベルと手を繋ぐアンナに目を向けると、納得したように頷いた。


「そうですか。では、ここ以外で王宮前まで行くことは可能ですか?」


 その質問も最初から予想していた。だからこそ、事前にソフィーに調べてもらっていたし、それを教えてもらってもいた。こういう時幽霊の存在がまたも便利だったりする。

 最近になって幽霊のありがたみというものを実感してきたリベルは、これからも重宝できるかも、という期待を持っていた。

 それを直接ソフィーに言うと、何だか機嫌を損ねそうな気がするために自重はしたが。

 とにかく、リベルはもちろんルヴィの望む回答も持ち合わせていた。


「可能ですよ。最初からそっちを案内しようと思っていましたから」

「では、なぜこの人混みを見せたんですか?」

「うーん、何となく見せたかった、ですかね。特に理由はないですけど」


 頭をひねって考えると、リベルは思いつくのがルヴィの面白い顔を見たかった、なのだが、さすがにそれを当人の前で言うのは控えた。


「そうですか、理由はないんですか。理由のない行動は、得るものがありませんよ」


 そう言うルヴィに対して、心の中で「一応考えてるんですけどね」と思うが、リベルはそれも言わない。こういう日常会話になるとどうしてこうも消極的なのか、リベル自身もうまくは言えないが、ようはスイッチが入るか入らないかの違いなのだろう。


「得るものがないとは限りませんよ。行動すれば、何かしら期待できます。結果が得られるかどうかは、まぁ、理由は重要ですけどね」

「でしょう?ですから、理由は大事ですよ」

「はいはい、わかりましたから。もう行きましょう。ずっとここにいても意味ないですから」


 リベルがアンナを引き連れてソフィーに教えられた道を進むと、ルヴィもそれに付いてきた。アンナと手を繋いでいる左側の逆、右側についてルヴィは歩いた。ここは大通りほど道幅は広くないので、リベルは個人的には広がって歩くのは忌避したいのだが、今は仕方ないと自分を無理矢理納得させた。


(あ、そう言えば、アンナは……)


 今日はアンナに言われて出かけていたということをリベルは思い出した。

 今さらな気がしているが、こうやって見ず知らずの人を連れているのは、何だかアンナに悪いような気がしていたので、リベルはちらりとアンナの方へ視線を向ける。

 しかし、リベルの考えは杞憂だったようで、随分とニコニコとしていた。

 アンナに関しては強がりという可能性も捨ててはいないのだが、強がっているのならまだ大丈夫だろうとリベルは思う。

 別にそれを理由にして放っておいてもいいということにならないのはリベル自身良くわかっていることだが、それでも強がれるのなら精神的には安定してきているのでは、と思える。

 当然、リベルはこの後ちゃんと相手をしてあげる予定だ。

 そう思っていたら、ソフィーが話しかけてきた。

 アンナに聞こえないように課、リベルだけに聞こえるように小声で。


『リベル、アンナちゃんは大事にしてくださいね』


 ルヴィが近くにいる以上口頭で答えるわけにはいかないので、咄嗟に答えようとしてしまったところを押し殺して、念話に切り替えた。

 その時リベルは一瞬変な様子になったのをルヴィは見たが、大して気にすることはなかった。


(それはどういう意味?)

『わかっていることでしょう?大事にするは大事にする、ですよ』

(曖昧過ぎると思うんだが?)

『その方が意味があるときもありますからね。それに、リベルはそれで十分にわかるでしょう?お互い、同じような境遇じゃないですか』

(はぁ、僕の記憶か……。それは当然構わないよ。ソフィーに言われるまでもなく、ね)

『だと思っていました』


 ソフィーも色々見ているのだな、とリベルは思った。当初は基本的にリベルばかりだったのに、今では全体を見るようになっている。それは成長か、何か心境の変化でもあったのか。何気にグレンのこともわかっているソフィーに、リベルは少し感慨深いものを感じてしまった。


              ♢♢♢


 無事ルヴィの案内が終わって王宮前広場まで連れてくることができたリベルは、一安心ということで、そっと息を吐き出していた。


「送ってくださってありがとうございました」

「いえ、気にしないでください。あ、でも、建物から飛び降りるのは気にしてくださいね」


 リベルがそう注意すると、ルヴィは苦笑いしていた。


「はい、気を付けます」

「それでは、お気をつけて」

「本当にありがとうございました」


 頭を下げたルヴィは、そのまますぐに人混みに紛れて見えなくなってしまった。

 リベルはもう一度息を吐き出して、その後笑顔を作ってアンナに話しかける。


「じゃあ、続きということで、どっか回ろうか」


 まるでその言葉を待っていたかのようにアンナは笑顔になり、大きく頷いた。


「はい!」


 その返事が心地よく、見ているソフィーも微笑ましい気分になった。

 リベルももう気になる魔力を気にする必要がなくなったことで、今はアンナに集中できた。

 なにせ、さっきまでの間で、リベルはルヴィの魔力についてはある程度わかってしまっていたからだ。

話が動くと言っておきながら、自分であまり動いていないことに気付きました。こちらで計算を誤ってようです。今のところ、ルヴィという女性が出てきたということだけですね、はい。

一応重要ではあるんですけど……話は本当に動いてませんね。

大丈夫です。大武闘大会になればある程度盛り上がりたいと思います。

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