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虹の調律師 ~光と調和の軌跡~  作者: 二一京日
第三章 獣人界へ
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第127話 わからない表情

 今日は朝食をとった後は、グレンとクレアが王国から貸し出されている参加者用の訓練場で一日特訓してくると言って、二人して出かけて行ってしまった。

 一応、そこは参加者の関係者なら出入りはできるとなっているようで、クレアはリベルたちがついてくるものと考えていたようだ。というか、付いて来てもらった方が、寂しくないという理由がクレアは強かったが、リベルにもやりたいことがあったため、それは遠慮することにした。

 というか、リベルがついて行ったところで、リベルはただそれを見ていることしかできないし、ソフィーはある程度の距離をリベルから開けられるが、まだ長距離は無理だ。そのため、必然的にまだリベルとソフィーはセット。そして、当然のようにアンナもリベルとセット。

 そういうわけで三人はグレンたちを見送り、リベルは昨夜から予定していた楽器の調律をしようと部屋に戻り、昨日、というか今日の夜中に完成させた魔法陣を早速起動しようとする。おそらくこのままやれば、リベルはグレンの<ブラックボックス>に入れる。

 そして、リベルがこのまま<ブラックボックス>に入っても、ソフィーがそのままついてくるということもない。これは前に一度確認していた。何故かはわからないが、距離を開けているということにはならないのか、別次元ということで例外が起きているのか、リベルにはよくわからなかったが、とにかく一人でも<ブラックボックス>に入ることができる。

 ちなみに、そのことは事前に朝食の時に全員に言っていて、ソフィーにはアンナの相手をしてもらおう考えていたのだが、ソフィーはそれを快く引き受けてくれた。

 どうやら、ソフィーは生前から獣人という種族に憧れを持っていたらしく、もし手元に来るのならいつまでも愛でていたいという風に考えていたようだ。

 リベルはそこまでの執着はなく、他の人も若干引いているところはあったが、別に獣人族を差別するような考えもないことから、ただの少し異常な性癖とでも考えればそれで済んだ。

 そして、リベルはようやく魔法陣を起動して、<ブラックボックス>へと転移した。

 一瞬後、リベルは視界の変化に自分でやっておきながら驚きを禁じ得なかった。

 ついさっきまで宿の部屋だったのに、いきなり倉庫に移動だ。もっとも、倉庫と言っても小汚いということは全くなく、どこにも照明がないのに全体的に明るいのが得領だ。

 転移の場所は前楽器があった場所だと予想していて、その通りに来た。ただ、誤差はある程度予想していたので、場所を探すことになるのは覚悟していたのだが、結果的にはそこまでの覚悟は不要となった。

 見渡すこともなく、目の前がそのまま楽器たちがあったのだ。

 これにはさすがにリベルも自分で驚いた。


(案外、感覚で座標指定しても何とかなるんだな。転移魔法は便利だな~)


 と、リベルは思っているが、全くそんなことはなく、グレンが転移魔法を重宝しているのでリベルはそういう感覚はないが、実は転移魔法や転送魔法は特異属性の魔法の中でも最高難易度に位置する魔法だ。リベルのように軽い感じで便利だ、などと言えるような魔法ではないのだが、そこはリベルの魔力に関する感覚の鋭敏さゆえということだろう。


「さてと、さっさと全部を見て回るかな。出来るだけ早めに終わらせたいところだけど、どんくらいかかるか」


 リベルはそう言って一番近くにあった楽器から様子を見始めて、適度に調律をしていき、必要なら修復などもやっていった。

 しかし、それから大体半分くらいの楽器が終了した後に、<ハーモニクス>を使えば一発で終わったんじゃないか、という考えに行き着いてしまい、リベルは一瞬ここまでの頑張りに絶望しかけた。

 ただ、そこはリベルも職人魂ということで譲れないことがあった。魔法に頼らず、自力でやってこそ意味がある。それと、実際にそうなのかはリベルは知らないが、魔法で簡単に治すよりは、職人のその手でしっかりと直した方がいいような気がしている。

 それは自分への依怙贔屓のようにも思えてしまうリベルだったが、その考えは間違っていない。人の手で治す方が、そこに籠るものが違うとか。

 その考えにのっとってか、自分自身の意志か、それとも両方か。

 何にしろ、リベルは絶望しかけた気持ちに気合を入れ直して、残り半分の楽器を終わらせにかかった。


              ♢♢♢


 リベルが宿に戻ったころには、もう日が沈み、夕食が始まるという時間帯だった。グレンももう部屋に戻っていて、部屋のベッドに倒れこんている背中が真っ先に見えた。


「お疲れみたいだね」


 あのグレンが疲れているという事実に驚きながら、リベルはグレンをねぎらう。

 リベルの目からも非常に疲れているのがわかるくらいで、一応シャワーは浴びたようで、部屋の中にその形跡は見え、そのおかげである程度は大丈夫には思える。

 そんなグレンは、ベッドに突っ伏したままリベルに答える。


「あぁ、お前も……お疲れ……。全部終わったか?」

「う、うん。大丈夫」


 そう答えながら、リベルはグレンの今の状況を冷ややかに観察した。

 まぁ、観察といっても、非常に疲れているグレンの背中が見えるだけなのだが、リベルはグレンの声に力がないように聞こえ、これはシャワーでも浴びて今ゆっくりしていなくては、ましてや帰った直後はまともに会話をすることもできなかっただろうなとわかった。

 そんな様子のグレンを見て、リベルはふっと笑みをこぼした。

 そこまでになってやるのは、馬鹿馬鹿しいという風に思われることかもしれない。実際、リベルは戦いというのをあまり知らないので、今のグレンの姿は阿保なんじゃないかと思えてしまう。

 しかし、それと同時にその姿にすごいと感心するのも事実。ここまで真剣なのだから、それはそれでいいことなのだと、リベルは理解できなくても納得はできた。

 だから、リベルはその姿がまぶしく見えた。


(まったく、これから大会までこうなるのはごめんなんだけど…………その辺は、後々恩にでも着せればいいかな)


 リベルは腰掛けていたベッドから立ち上がり、部屋から出る扉に手をかける。


「リベル、ちょっとー」

「夕食、持ってこようか?」


 グレンが何か言おうとする前に、リベルがかぶせて言ってきた。

 驚いたグレンは、けだるそうにしていたとは思えないほど機敏に上体を上げてリベルを見た。グレンからは部屋から出ようとしているリベルが背中越しに少し振り返っている姿が見える。

 グレンが驚いたのは、リベルがグレンに何か気を遣うようなことを言ったからだ。リベルは誰かに気を遣うことはあるが、日常的な場面で、しかもグレンに気を使うなどそうそうないからだ。

 さらに、リベルが言ったのは、グレンが頼もうとしていたこと。

 そのドンピシャな読みも、グレンの驚きの後押しをしていた。

 しばらくフリーズしたグレンを訝しんで、リベルは体ごとグレンへと向けた。


「どうかした?」


 その言葉で我に返ったグレンは、はっとして驚きの中が空っぽになっていたが、何とか返さなくては思って言葉を発していた。


「お前が俺に気を遣うなんて、珍しいこともあるんだな」


 その言葉に、リベルは少し複雑そうな表情をしていた。その中には、おそらく悲しそうなのも含まれているのだろう、とあまり回らない頭でグレンは思った。

 何かまずいことでも言ったかと不安になったグレンだが、リベルはその表情から苦笑いへと移った。しかし、それがまたグレンには不可解だった。


「……まぁ、そういうことでもないんだけど…………今はいいか。とにかく、食事くらい僕が持ってくるよ。もしかしたら、クレアの方もやっといた方が良いのかな?」

「あ、あぁ。そうかもな」

「そこら辺のことも考えとくかな。じゃあ、行ってくる。あ、あと、大武闘大会まで五日、だっけ?それまでの食事とかは、昼食を除いて言われればこっちでどうにかしてあげるよ」

「……それは純粋な親切か?」

「随分な言い方だね。誰かが言っていたかもね。善意とは、善意と名乗った時点で善意ではなくなる、って」


 いきなり哲学的なことを言い出したリベルに、グレンは理解するのに時間がかかる。

 それが様子から見て取れたリベルは、苦笑しながらグレンの疑問に答える。


「つまり、僕としては見返りを要求するってこと。それじゃあ、そういうことで」

「ちょっー」


 グレンが反射的に引き留めようとしたが、リベルはそのまま出て行った。そして外の音の感じから、リベルが隣のソフィーたちの部屋に行っていることがわかった。

 そしてしばらくしてから、リベルたちの足音が遠ざかっていくのを聞きながら、グレンはさっきの自分の行動が自分で不思議に思っていた。

 リベルが見返りを要求すると言った時、グレンはどうしてか本気で止めてしまいそうになった。それはリベルが部屋を出行くのが先だったために止めることができなかったわけだが、グレンはその時に自分がなぜ止めようと思ったのかという所が不思議だった。

 リベルの性格から何かしらの見返りを求めてくることは、絶対に予想できることだ。

 今までもそういうことはたくさんあった。そのたびに止めようとはしたが、グレンはあまり本気ではなかった。なぜなら、言い方はともかくリベルが見返りを求める場面は、それなりに適当な場面だからだ。

 そして、それは今回も同じこと。リベルがグレンたちの食事を持ってくると言うのなら、そこに見返りを求めるのは当然だと思う。

 それをグレンは今回、なぜか本気で止めようと思ってしまった。

 言った瞬間は気付かなかった。

 しかし、後になってその時の自分の感情を冷静に見つめることができて、自分が本気でリベルを止めようとしたのだと気付いた。

 それは一体どうしてか。

 グレンは自分でもわかっていなかった。自分の中にどこか自分でも理解できないところがあるということに、グレンは嫌になった。


(これでも自分のことはわかってるつもりだったが……まぁ、あいつなら『人は自分のことがわからないのが普通。そしてわかろうとするのが人間らしい』とでも言って、わかりづらく慰めるんだろうがな……)


 そこでグレンはリベルが見せた複雑な表情、そしてその後の悲しげな表情と苦笑いを思い出した。


(あいつは何で、あんな表情を……。俺は何か間違ったことを言ったか?よくわからない。本当に、リベルは毎回わかりづらい。今回みたいなのは特に、だ)


 グレンは頭を抱えたくなった。

 元々理解できるなどと思っていない相手だ。一々気にかけていては、グレンの身が持たないのだが、今は何か考えていなくては、グレンは何だか嫌な気分になりそうだった。

 そのたびにちらつく、先ほどのリベルの表情。

 それを思い出すと、グレンは嫌な気分になる。

 その表情をしたリベルに対してではない。そんな表情をさせ、そして理解できないグレン自身に対してだ。

 結局その後、グレンはリベルが夕食を持ってくるまでに答えを出すことができず、ましてや直接リベルに聞くわけにもいかず、グレンは気にしないように努めた。

 その後もグレンが、自分の中のもやもやに関してリベルに問いかけることはなく、一日は過ぎた。

 それはグレン自身が答えを出さなくてはならない答えだと思っていたからだ、リベルもきっとそう言うだろう、とグレンが思ったからだ。

本当なら、主人公とヒロインとの桃色空間とかを作れればいいのですが、どうにもそうならないです。

主人公の性格と、作者自身の性格なのでしょうけど、これは自分でも悩みどころです。

まぁ、自分はグレンのことがかなり気に入っているので、リベルとグレンの組み合わせが圧倒的に増えているのですが……。

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