その1
僕には何も出来ない。
周りからは「ノブは出来る奴だ」とか
「ノブさんはそつなくこなしている」なんて言われている。
僕には何もない。それが事実である。
出来るだけ悪く思われないように、最低限のことは出来るように過ごしている。
あまり印象に残らないのかもしれないが、小さなミスはたくさんしているし、
ココロの中ではいつもビクビクしている。
それでも周りからはそう思われていない。
僕はそれがとても苦しかった。
この世界にどうして生まれてしまったのだろうか・・・。
大人になるにつれ、そう考えるようになった。
とにかく自分に自信がないのだ。
違う生まれ方をしていたら、違う家に生まれていたら・・・
もしかしたら僕の人生は華やかだったかもしれない。
中学に上がってすぐ、僕は躓いた。
小学生までは何もしなくたって出来ていたテストも、中学生になると途端に難しくなったし、全く点数も取れなかった。
軒並み100点を取っていたテスト達も、軒並み50点になった。
僕には勉強をするという癖が身につかなかった。
周りの友達は塾に通っていたり、自宅でテスト勉強をしていたようだけど、僕はいつも笑っていた。
僕の進学したのが、和平中学校という学校だが、地元にはその和平中学しかなかった。
僕の地元は緑に囲まれているし、「良さはなんですか?」と聞かれても
「空気の良さです!」と答えるしかないような田舎だ。
トマトやイチゴ農園があればいいのだが、農業にも無縁な土地だった。
もちろん一家に一反ある為、お米に困るようなことはなかったが。