第十九話 誘拐
レーナとの初顔合わせの日から、俺とリアナはギルドで依頼を受けつつ暇なときはレーナに会いに行っていたのでかなり親しくなったと思う。特にレーナとリアナが仲良くなっており、どうやらレーナだけでなくリアナも俺と出会うまで歳の近い者で気兼ねなく話せる人がいなかったらしい。つまりリアナにとって初めての同性の友人という事だ。
今日も俺とリアナはレーナの部屋でお茶会をしていた。
「そういえば、明日ってアウグスト様が参加するって言ってたパーティーの日じゃないか?」
「そういえば、そうね、レーナはパーティーに参加するの?」
リアナは用意された紅茶を飲みながらレーナに問いかけた。
「私は参加はしませんよ、お父様とお兄様方は参加しますが」
「王女様が出なくて大丈夫なのか?」
俺の問いにレーナは少し顔を曇らせたがすぐに笑顔に戻り答えてくれた。
「こういう公の場のパーティーや式典はお兄様方が参加してくれていまして、私は少し事情があって余りそうゆうものには参加していないのです」
「国王様もそんな事言ってたわね」
「そういえば言ってたな」
「すいません、理由まではお話ししてはいけないと言われてまして」
レーナが申し訳なさそうに言ってきた。
「いや、言えないなら大丈夫よ」
「そうだな、だからそんな気にしなくて大丈夫だぞ」
「はい、ありがとうございます」
レーナは笑顔で答えてくれた。
「そうだ、明日の夕食を一緒に食べませんか?いつもはお父様やお兄様方で時間がある誰かしらと一緒に食べているのですが、パーティーが夜からなので皆さんパーティーに参加してしまうので、一緒に食べて欲しいのですが」
「俺は別に大丈夫だぞ」
「私も大丈夫よ」
その答えを聞いたレーナは本当に嬉しそうにしている。
「それでは、明日の7時ごろにいらして下さい、その前だとパーティーの人の出入りが多くて大変だと思うので、あと明日は裏口から入れるように裏口の見張りの兵士に言っておくので裏口からいらして下さい、裏口の場所は帰りにメイドに説明させますので」
「わかった」
その後も暫く雑談した後お茶会はお開きになり、俺とリアナは宿に帰った。
次の日俺とリアナはレーナとの約束がある夜まで簡単なクエストをやって時間を潰す事にした。
今は王都東門から少し進んだ所にある草原を歩いていた。
「ここら辺にブラック・ウルフがいると思うんだが」
「いないわね、群れになってるからすぐに見つかると思ったのに」
そうぼやきながら歩いていると少し遠くに7体のブラック・ウルフを見つけた。
「おい、リアナ、あそこを見ろ」
「数は…7体、依頼の数とぴったりね、でも少し遠いわね、奇襲をかけたいけど周りが草原だとね、私の魔法だと届くまでに威力がかなり落ちるし」
確かに、あいつら連携して攻撃してくるから近づかれると面倒くさいんだよな。
「そうだ、前に鳥を打ち落とした、アイシクル・スナイプで狙えるんじゃないか?」
「確かにあれならこの距離からでも倒せるけど、1発づつしか打てないからレンがマジック・ゲートで倒しても同じだと思うわよ」
氷属性の魔法アイシクル・スナイプは氷柱を相手に飛ばす魔法である、貫通力が高く遠くの敵まで狙えるが今のリアナだと1度に1発づつしか打てないらしい。それの理由はどうやらリアナは魔力の制御が苦手らしく遠くまで飛ばす為に綺麗に魔力を通して飛ばさないと途中で落ちたり起動が変わったりしてしまうらしい、フロスト・アローなどは簡単な魔法らしくばんばん打てると言ってたが。
「いや、それを俺に打ってほしいんだ」
「ああ、なるほど」
一瞬怪訝な顔をした、リアナだったがすぐに俺のやろうとしている事がわかったらしく納得してくれた。
「アイシクル・スナイプ」
リアナが打った氷柱を収納魔法で収納する、その作業を7回繰り返す。
「良し、後はこれを、マジック・ゲート」
俺はブラック・ウルフに向けて同時に7本のアイシクル・スナイプを放った。
その魔法は7体全部に命中した、狙うのはマジック・ゲートの石で散々練習したから相手が気づいていなければほぼ百発百中だ、まだ生きているのが何体かいるが、氷柱が刺さって動きの鈍った体でリアナの追撃の魔法を避けられるわけもなくあっさりと絶命した。
「よし、街に戻って依頼達成報告に行くか」
収納魔法にブラック・ウルフの死体を収納した俺は、リアナに呼びかけて街に向かって歩き始めた。ブラック・ウルフの死体はギルドに持っていけば解体と買取をして貰える、解体は作業料がとられるが、俺とリアナはいつも魔物をまるまる全部持ち帰るので、結構ギルドからの評判は良い、他の冒険者は魔石と高く売れる部位をその場で解体して持って帰ってくるので、沢山素材がとれる俺達の持ち込みはありがたいらしい、マジック・バックと言う見た目よりも沢山の荷物が入る魔道具もあるが、それには魔物1匹を丸々入られるほどの容量は無いらしい。
ギルドへの報告を終えて報酬を貰った俺達は、宿で時間を潰して、レーナとの約束の時間が近づいて来たので王宮に向かう事にした。
「しかし裏口の周りは暗いな」
「そうね、もう少し灯りを増やせばいいのに」
俺とリアナは王宮を囲う塀と王宮の壁の間を歩いて裏口に向かっていた。一度正門を通って塀の中に入った後に、王宮の壁にそって歩いて行くと王宮の側面の壁に設置された扉があり、それが裏口だ。
「ん?なんで見張りがいないんだ?」
裏口の所には灯りを発する魔道具設置されており、少し離れた俺達の位置からでも扉の前に誰もいないのがわかった。昨日は扉の前に兵士が2人立って見張りをしていたはずだ。怪訝に思いながら近づくと、突然ドアが勢いよく開いて中から人が飛び出して来た。その人影は全身黒づくめの格好をしており、フードを被っている為顔も性別も分からなかった。しかし、俺とリアナの視線はそんな怪しい人物には向いていない、その人影が肩に担ぐようにして持っている人物、灯りが反射して綺麗に揺れるその金髪の女性は俺達のよく知る人物、レーナだった。
「レーナ‼︎」
俺は叫ぶと同時に魔法を発動して、レーナに当たらないように注意しながらマジック・ゲートで高速の石を飛ばした。リアナも横で魔法を発動している。
「アイシクル・スナイプ‼︎」
その人影に高速の石と氷柱が当たる直前、手前で突然軌道が変わり人影を避けるように飛んでいった。レーナは気を失っているのか俺の声には反応を示さず、ぐったりとしている。
人影は塀に向かって走り始めた。その速度はかなりのもので、一瞬で壁まで辿り着き7mはある塀を軽々と飛び越えて外へ行ってしまった。王宮の壁沿いの離れた場所にいた俺達では止めることが出来ずレーナを連れ去られてしまった。
「リアナ‼︎レーナの後を追うぞ‼︎」
「ええ‼︎絶対に助ける‼︎」
俺達はレーナを取り返すために駆け出した。




