第百三十九話 シルビア
今度は周りが森で、目の前にはどこかで見た事がある建物がある。
「ん?前に来た事がある気がするが……」
俺がそう呟きながら思い出そうとしていると横から声がかかった。
「ここは魔の森の最奥だ、前にレンとリアナと我の3人でここを通ったぞ」
「ああ、思い出した、そうかあそこか」
赤の森の転移魔法陣からここの、魔法陣に来たんだったな。俺がそう納得していると、リオンとサーラとレーナは珍しそうにキョロキョロと建物や森を見ている。
「魔の森の最奥にはこんな場所があるんですね」
「私もここまで奥までは来た事が無いから知らなかったな」
「ていうかリオンちゃん、今の時代にここまで来た人はレン君達しかいないと思うよ?」
3人はそんな会話をしている。いつもなら映像が始まれば近くに人がいるが、今回はいないのでシャロリアに聞こうとしたが、建物から誰かが出て来たのでそれをやめた。
「ごめんなさい……お父様………こんな所まで……付き合わせて……、もう1人で……歩く事も出来ないなんて…」
「そんな事を言うなシルビア、何処へだって付き合ってやる」
出て来たのは、シルビアと、そのシルビアに肩を貸しているクレメンスだった。シルビアはクレメンスに支えられてやっとの状態で歩いている。肩を組んでいるのとは逆の左手の先が、さらさらと砂になって、本当に少しずつだが崩れていっている。
「あれはどういう事だ?」
俺がシルビアの手を見ながらそう言うと、シャロリアが答えてくれた。
「あれは魔法を使った反動だ。シルビアは魔族どもの都市の奥にあった魔石を壊すときにある魔法を使った。その魔法はシルビアが作ったオリジナル魔法で、魔族どもとの戦闘の前に最後の切り札として作ったらしい。ワールド・ホープ、それがその魔法の名前だ」
「ワールド・ホープ」
俺がその魔法を思わず口に出していた。シャロリアはそのまま魔法の説明を始めた。
「ワールド・ホープは魔力の代わりに魔法の使用者の生命力で発動する。だから本来なら魔力がきれてどうしようも無くなった時の為の手だな。だが都市にあった魔石はシルビアの全力の魔法でも壊せなかった。だからシルビアはあの魔法を使ったのだ。その魔法を使えば使用者の生命力を使い切ってしまい最後には形を保てずに、あのように体全てが砂に変わって死亡する」
「でも、シルビアさんはあの戦いでは死んでいなかったですよね?」
レーナはシャロリアにそう質問をした。
「それはシルビアの生命力が異常だったからだ、しかしそれでもシルビアは少しずつだが確実に死に向かっていた。まあ何もせずに治療に専念して暮らせば1年ぐらいなら生きられたかもしれないがな、だがシルビアはまたあの魔法を使ったのだ」
「どうしてだい?」
「それはこれからの映像をみれば分かるだろう」
リオンの疑問にそう答えるとシャロリアはシルビアの方を見た。クレメンスとシルビアは建物の前の開けた空間の所まで行くと、クレメンスはシルビアを地面に寝かせた。
「ふふっ……もう限界みたいね……でも何とか間に合って良かった……」
シルビアは仰向けに寝転がり、空を見上げながらすっきりとした表情でそう言った。すると強い風が吹いて周りの木が激しく煽られている。上を見ると4体の龍全員がいた。
「クレメンス、シルビア」
「アイリスか」
地面に降りた龍はシルビアを中心に囲むようにしてシルビアを見ている。
「来てやったぜ、シルビア」
「僕を呼びつけられる人間なんて、君ぐらいだよ」
「全くお前達は」
「シルビア、来ましたよ」
ヴレム、クロム、シャロリア、アイリスの順番でそう言うと、シルビアはクレメンスに支えて貰って上半身を起こすとアイリス達を見た。
「ありがとう……話しはアイリスから…聞いてると…思うけど、これを渡すね、これが鍵になってるから……それを必要とする人が…来たら……渡して欲しいの……お願い……」
シルビアはそう言って腰のカバンから俺達が集めていた宝石を取り出した。
「分かりました、その約束は必ず守ります」
「それじゃあ……後は…お願いね……ごめんなさい…お父様……こんな…親不孝な娘で…」
「何を言ってんだ‼︎お前は俺の自慢の娘だ‼︎」
クレメンスは泣きそうになりながら、苦笑するシルビアの手を優しく掴んでそう言った。
「ふふっ……ありが……とう……」
シルビアがそう言って微笑んですぐに、クレメンスと繋がれていた手がだらりと力なく下がった。するとシルビアの体がすごい速さで砂に変わり始めた。
「くっ、ううっ、すまん、シルビア、俺がもっと強ければ」
クレメンスは泣きながらシルビアを抱きしめた、シルビアはやがて全て砂になり消えた。




