第九話 緊急依頼
「ギルドマスターを早く‼︎」
その兵士は俺達とは別の受付まで行くと身を乗り出して必死にギルドマスターを呼んでいる。
「落ち着いて下さい⁉︎今他の職員が呼びに行ったのですぐに来ます」
「おい、あんたそんなに焦るなんて一体何があったんだ?」
兵士の対応をしていた受付嬢とは別に横から他の冒険者が兵士に声をかけた。
「魔の森から魔物の大群が溢れ出して来やがった‼︎今この街に真っ直ぐ向かってる‼︎」
「なっ‼︎」
声をかけた冒険者だけじゃなく周りで聞いていた冒険者やギルド職員も驚愕の声をあげた。
「おい‼︎その情報は確かなのか⁉︎」
「ああ、魔の森の方に依頼に行っていたBランク冒険者のノアさんから魔法で報告がきたんだ。魔の森から大量の魔物がこの街に向かっていると、恐らく3時間ぐらいで街まで到達するらしい」
「クソッ、ノアさんからの情報なら確かだろうな」
その話しを聞いて場が混乱しそうになった時に受付の奥から体格のいい厳つい30歳半ばぐらいの男が声をかけてきた。
「話しは聞かせて貰った。シンシア、緊急依頼だすぐに街にいる冒険者をかき集めろ‼︎FとEランクは住民の避難の手伝いに回せその他の者は街の防衛だ‼︎おい、お前領主の館には報告を向かわせてるんだろうな?それと魔物はどれくらいの規模なんだ?」
ギルドマスターらしい男は一緒にきたシンシアと呼ばれた女性職員に指示を出して兵士に質問している。
「はい、他の者に報告に行かせたので報告が行き次第住民の避難が始まるでしょう、それと魔物は大体600体ぐらいの規模でばらけずに纏まって街に向かっているらしいです」
「600体か、今この街にいるCランク以上の冒険者は150人ほどだから、おそよ4倍か」
「それと魔物の様子がおかしいらしいです」
「なんだと?」
ギルドマスターの問いに兵士は答えていく。
「気を逸らそうと隠れて魔法で攻撃してみたところ、一切興味を示さず、街を目指しているというよりまるで何かから逃げるように真っ直ぐ突き進んでいるようです」
「何かに怯えている?魔の森に何か強大な力を持つ魔物が誕生したのか?いや、魔の森の奥から強い魔物が出てきて入り口付近の魔物が追い出された?」
兵士の報告を聞いたギルドマスターはぶつぶつと呟きながら考えているようだ。
「よし‼︎気になる事はあるがまずは行動を開始しろ‼︎魔の森側の南門から住民を遠ざけて冒険者は武装を整えたら南門に集まれ‼︎」
ギルドマスターのその言葉で周りは慌ただしく動き始めた。
「魔の森から魔物の大群が来るなんて今まで1度もなかっただろ‼︎」
「そんな事言ってる場合か‼︎さっさと準備するぞ‼︎」
「クソッ、武器が修理中のときに‼︎」
「ギルドに残る職員は数人にして、残りは住民の避難を手伝いながら冒険者にこの事を伝えるように‼︎」
全員が行動を開始してギルドは途端に騒がしくなった。 職員は街にいる冒険者の招集に冒険者は防衛のため準備を始めている、所々から悪態を吐く声が聞こえてきている。
「なんだか大変な事になってるみたいね」
リアナは全く焦るようすを見せずいつものように冷静に声をかけてきた。
「そうだな、俺達が街に着いてすぐなんてタイミング良すぎだろ」
「あの、登録したばかりのお二人には申し訳ないんですけど住民の避難の手伝いをお願いします。冒険者は緊急依頼には絶対に参加しなければならない決まりなので」
横から俺とリアナの受付をしてくれた。受付嬢が言ってきた。
「分かった、俺達ももう冒険者だしな、そいえば名前聞いてなかったな、教えてもらえるか?」
「あっ‼︎失礼しました、私はシェーレと言います」
シェーレはそう言って頭を下げてきた。
「じゃあシェーレも気をつけて」
「はい、レンさんとリアナさんもよろしくお願いします」
そう言うとシェーレはギルドの外に走っていった冒険者への知らせと住民の避難の手伝いに向かったのだろう。
「で、本当にどうするの?ギルドマスターの様子から考えると600体の魔物を倒せる戦力がこの街にあるとは思えないんだけど」
「そうだな、俺もそう思う、だけどこのまま放って置くわけにもいかないだろ、ここで名を売るってゆう手もある」
ここで名を売ればこの後の冒険者生活が楽になりそうだしな。あっそうだ。
「なぁリアナ、リアナの魔法で600体倒せるか?」
俺はダメ元で聞いてみた。
「流石に無理ね、流石に魔力が持たないわ、水属性を使えるウィザードと協力すればかなりの数を倒せると思うけど」
かなりの数を倒せる?
「なんで水属性を使えるウィザードがいると倒せる数が増えるんだ?いや、人が増えれば倒せる量が増えるのは当たり前だけど、なんで水属性限定で」
「前に言ったと思うけど私の使える属性は水と氷なの、でここからは魔法の発動の話しになるんだけど、私達ウィザードが魔法を使うときは魔力を使いたい属性に変換させるの、水属性の場合は使う水の量=必要な魔力の量になる、だけどそこに水が既にあってそれを凍らせるだけなら水が無い時に同じ大きさの氷を作る時の半分以下の魔力ですむわ、だから他の人に水を出して貰って私がそれを凍らせればかなりの数が倒せると思う、だけど流石に600体を飲み込むほどの水を出せる人なんてこの街にいないと思うから全部は無理なのよ」
なるほど、魔法はそうやって発動してたのか。
「なあ、もし全部の魔物を飲み込めるだけの水を出せたらリアナはそれを全部凍せられるのか?」
「凍らせるだけならいけると思うわ、魔物は纏まって来てるらしいし範囲も狭いでしょ、前にも言ったけど私魔力量はかなり多いから。それに凍らせちゃえばそれで倒せなくても他の冒険者が倒してくれるでしょ、動けない魔物にとどめをさすだけなんだから、まぁ氷をわりながら倒さなくちゃいけないからかなり大変だろうけど」
まじか、ダメ元で言ってみたらリアナは当たり前の様に出来ると言ってきた、もしかしてリアナって凄いウィザードなんじゃ。それよりも俺の頭には一つの作戦が思い浮かんだ。
「リアナもしかしたら、なんとかなるかもしれない」
「本当に?何か良い作戦でも思いついたの?」
「ああ、俺達にしか出来ない方法だけどな」
俺は冒険者ギルドの受付に向かって作戦に必要な事を聞くことにした。
「なあ、少しいいか?」
ギルドの職員は慌ただしく仕事をしていたがその内の1人を呼び止めた。
「はい!どうしました?」
「この街の近くに川とか湖はないか?」
「すいません‼︎後にして貰えますか⁉︎今それどころじゃないんです‼︎」
ギルドの女性職員はそう言って仕事戻ろうとした。
「大事な事なんだ‼︎もしかしたら魔物の大群をどおにか出来るかもしれない‼︎」
「それは本当ですか⁉︎」
俺は職員のその言葉に答えた。
「ああ、だけど説明してる時間は無いからさっきの質問に答えてくれるか?」
「分かりました、川なら東に少し行ったところにあります。この街は北門と南門しか無いのでそのどちらかから出て東に進めば分かると思います」
受付嬢は俺の言葉を全部信じたわけじゃ無いだろうが答えてくれた。
「ありがとな」
俺はリアナの所に戻り一緒にギルドを出た。
「それで受付に行って何してきたの?」
「移動しながら説明する、今から北門から街を出て東側にある川に向かう」
「分かったわ、ちゃんと説明してね。」
俺とリアナは川に向かって移動を開始した。




