第百十三話 意思
<ジーグルト視点>
俺は最後の1体のドラゴンに大剣を振り下ろした。
「ふう、これで全部だな」
俺は辺りを見回して討ち漏らしがいないか確認をしたが、生き残りはいないようだ。
「しかし、少しやり過ぎたな」
辺りには、ドラゴンの討ち漏らしどころかこちらの面の城壁が殆どなくなっている。城壁があった場所には元々は城壁だった大量の瓦礫が積み重なっているだけだ。
「まあ、今はいいか、あいつらと早く合流しないとな」
俺は2つの大剣を担いで、城の中に入るために駆け出した。
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<リアナ視点>
私は今、何をしてるんだっけ?
なんでこんなに苦しいの?なんで私は目の前の男を攻撃しているの?
私は目の前の男に攻撃を続ける。
「リアナ‼︎」
リアナ?それは誰?なんでそんなに必死なの?どうして私に攻撃をしないの?分からない、何も分からない。なのに、なんで貴方に攻撃をするたびに、胸が苦しくなるの?
「何をもたもたしている、侵食率を上げろ‼︎早くそいつを殺せ‼︎」
その声が聞こえた直後、体を激痛が襲った。
痛い、苦しい、なんで私はこんなめにあってるんだろう。胸のあたりで何かが割れる音がした。だけどそんなことはどうでもいい。
「リアナ聞こえるか‼︎目を覚ませ‼︎」
まただ、また、その名前、リアナ?
また胸のあたりで何かが割れる音がして、それが視界にうつり込んだ。
あれは……、そうだ……あれは、彼に買って貰ったもの、私の大事な人、私の事をいつも助けてくれる人。
「レ…………ン……………」
私はその名前を口にした。
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<レン視点>
さっきまで、いくら呼びかけても反応が無かったリアナが突然俺の名前を口にした。
「そうだ‼︎レンだ‼︎思い出したか‼︎」
すると、リアナの目に若干の生気が戻っている。
「そうだ………思い…だした……」
リアナは完璧に正気に戻ったみたいだ。
「バカな‼︎私の指示なしで勝手に正気に戻るなどありえん‼︎」
クラウスがリアナの事を見て、そんな事を言っている。
「大丈夫か?リアナ」
「ごめん…なさい、レン、迷惑を、かけたわね、だけど、もう、大丈夫……私が、終わらせるわ」
リアナは、まだ話しづらいのか、途切れ途切れにそう言うと、クラウスの方に向き直った。
「クソッ!侵食率を限界まで上げろ‼︎」
クラウスがそう言うと、リアナがまた苦しそうにした。
「くっ‼︎私は、もう、負けない、呑み込まれる、前に、お前を、殺す‼︎」
「ゴーストアーマー‼︎私を守れ‼︎そしてあいつを殺せ‼︎」
そう指示をされたゴーストアーマーは、1体がクラウスを守るようにクラウスの前に立ち、もう1体はリアナに向かっていく。
「邪魔っ‼︎」
リアナがそういいながら、ゴーストアーマーの斬撃を躱して、その鎧を殴るとゴーストアーマーは物凄い勢いで飛んでいき、壁に激突して鎧がかなり潰れている。生物兵器のせいで、力が大分上がっているようだ。
「ショット・アイアン‼︎」
俺もリアナの援護をする為に、もう1体のゴースト・アーマーを攻撃して注意を引く。そして、リアナはその鎧も殴り飛ばすと、ついにクラウスの目の前に辿り着いた。
「くそっ‼︎」
「お母様の仇だ‼︎」
リアナはそういいながら、クラウスとの間合いを詰めて殴ろうとする。だがクラウスの口角が上がった。
いつのまにかクラウスは、クリスタルを発動させたようで、リアナの右側に新たなゴースト・アーマーが出現していて、リアナを斬ろうとしている。くそっ‼︎まだクリスタルを隠し持ってたのか‼︎
リアナは攻撃の体勢に入っていて、ゴーストアーマーが振り下ろしてくる剣を躱せそうにない。
今からショット・アイアンを撃とうとしても間に合わないだろう。だが、ゴースト・アーマーとリアナの間に割り込んだ1つの人影があった。
ブシュッ!
「お母……様?」
その人影はゴーストアーマーの斬撃を体で受け止めた。体に剣が深々と刺さっている。その人物はクラウスの命令がなければ動けない筈のリアナの母親だった。変わらずその顔からは生気を感じられないが、リアナを守る為にその行動をしたのだ。
「ッ!これで終わりだ‼︎」
いち早く状況を理解したリアナは、クラウスとの間合いを詰めるとクラウスの心臓に腕を突き刺した。
「ゴフッ‼︎なぜ……だ、私は……なんの命令も……出して、いな………い…………」
ドサッ
リアナが腕を引き抜くと支えがなくなったクラウスはそのまま倒れた。クラウス・フェルモンドは死亡した。




