七話:七不思議
結局のところ、エドモンドがスペアの剣を一本。
アリスは魔法を撃つ前段階で重要な、魔力の収束がしやすくなる指輪型の魔法具を一つ。
そしてリュカの護身用の短剣を一つ買うことになった。
シェリーの盾を含め、合計で二十万ルピィ。
パーティ資金は尽きたが、それでも良い代物が買えて四人とも笑顔だ。
「婆ちゃん、あんがとな!」
「またお金溜まったら来るから! それまで死んだら駄目よ!」
「ちょっとアリス、それ失礼だから……。あ、いい買い物させて頂きました」
「ありがとう」
四人の言葉に、柔らかい笑みを浮かべる老婆。
その笑顔に彼らも自然と笑う。
「そりゃ良かったわい」
「んじゃ俺たち腹減ったから、飯食いに行くんで!」
エドモンドが一言呟いてから、そのままお店を出る。
続いてアリス、シェリーと外に出ていき。
最後にリュカが出て、扉を閉めようとした――――
「ウォルツに、よろしく言っといておくれ」
「――――ッ!」
聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、老婆の一言がリュカの耳元に入った。
何故そこで学園長の名前が出るのか。
急いで後ろに振り返る。
「……ない」
そこには先ほどいたボロボロな雑貨屋はなく、ただの物置が存在していた。
******
「ありゃ幸運の店だな……うめぇなこれ」
「幸運の店?」
少し遅くなったお昼の時間。エドモンドは骨付き肉を頬張りつつ呑気そうにそう答えた。
「スウェン王国にある七不思議の一つ」
「あ~、なんかそんなお伽噺みたいなのあったわね。昔の英雄の亡霊が時計台の前に現れるとか、王都の地下には旧歴の古代文明遺跡が眠っているだとか。眉唾だとばかり思っていたわ」
シェリーは美味しそうなスープを、アリスはピザを食べながらエドモンドの言葉に続けた。
スウェン王国七不思議。誰が言い始めたのかさえ分からない、都市伝説のようなものだ。
実しやかに噂され、しかし誰もがただの迷信だと言い張っているものである。
そしてその中に一つ、幸運の店というものがある。
忽然と現れる見たこともないお店。そこは現実と虚構の狭間にある、通常では決して入れない場所だとされている。
時たま起こる時空の歪みが生じぬ限り出現しない――などと、囃されていた。
「あれは探して見つかるようなもんじゃねーからな。ま、運が良かったんだろ」
「確か幸運の店は、自分の欲しい物をくれるって話じゃなかったかしら?」
「……対価払ったけど」
「噂なんてそんなもの」
リュカの呟きに、坦々とシェリーが答える。
まあお店だし無料なわけないか、とリュカは思いつつ、先ほどみんなが買ったものをリュカは見つめた。
まずシェリーの見つけた盾。複合魔法陣が施された巨大なカイトシールドは、お店に入るときも店員に訝しげな眼で見られた程の大きさだ。
分厚く、それでいて洗練された縁のカーブ。素人目でも高価なものだと分かるほどだ。
続いてエドモンドの買ったスペアの両手剣。老婆が『アルバス』と言っていた剣だ。
その鋭さたるや、並大抵の剣のレベルではない代物だった。他の鉄剣を簡単に切れていたからだ。それに加え、魔力を流すことで氷属性の付与が為されるという、正に国宝級の武器。
そんな武器を「それがあったら体が冷えるからのぅ」という理由で三万ルピィで売っていたのは、やはりあの店が幸運の店の他なかったからか。
そしてアリスの手に入れた魔法具。杖による魔法発動のアシストをするもので、魔力の集中を助けるというものだ。
地味だが有能なもので、昼ごはんが来るまでアリスが試し打ちしたそうにしていたが、それは明日以降になりそうだ。
そしてリュカの買った短剣。
これを見つけた時、老婆が、
「……なるほど、そやつを見つけるか」
と、何だか驚いていたようにリュカの方を見ていたのを思い出す。
ただリュカの母親が同じようなものを持っていたので、似ているなぁと思って手にとっただけであった。
片刃の珍しい装飾が施されている短剣だ。特別な能力はなさそうだが、魅入って買ってしまったのであった。
「まあ準備も終わったし、明日追加クエストの申請を事務所にして、さっさと行こうぜ」
「そうね。魔法具つけた魔法の威力も測りたいしね!」
「街中でやるなよ?」
リュカの言葉に、「分かっているわよ」と笑いながら答えるアリス。
いまいち信用ならないが、さすがに単位Dは割を食らうので、流石ないだろうとアリスを除く三人は思っている
「それにしても、今日は本当に何もしなかったね、アリス」
「……それ何が言いたいの?」
リュカの発言に、アリスは目を細めて返事する。
「あ、いや……寮の一件から魔法撃ってないなって」
「別に撃つようなこと無かったじゃない。……もしかして、理由もなく魔法撃ってるとか思ってんの?」
「――――」
「おい、目逸らさず答えろ」
口調が激しくなってきたが、リュカはだんまりを決め込んだ。
理由なく撃っている、というより、自分から理由を作って撃っているようにしか、いつもは思えないからだ。
それは絶対に口に出さないが。
「……まあいいわ。ただし、森の中で突然の爆発死や感電死、溺死に注意なさい」
「冗談に聞こえないんだけど!」
リュカの発言に、フンと不機嫌そうにしながらアリスが顔を逸らした。
「余計なこと言うからだな」
「たまにリュカも阿呆」
お昼を食べ終わったエドモンドとシェリーにもいろいろと言われ、余計なお小言は封印しようとリュカは決心した。
更新遅れまして申し訳ございません。
お酒を飲む会議が何日か続いているようです(いわゆるお盆の夏休みというものですね)
少し遅れがちになりますが、1日1回以上は更新していきますので^^
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