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六話:不思議なお店



「回復薬に保存食。破れかけてテントも買い替えたし、携帯ナイフも新しいのを買った――と。あと何か個人で欲しいものある?」


 紙袋に詰めた干し肉と缶詰、そして乾パン。

 缶詰は高級だが、美味しくない保存食を食べるより、ある程度食は贅沢というのがパーティの方針なため、文句は出なかった。

 元々魔物討伐者は遠出をすることが多く、昔は保存食のまずさがよく問題になっていたと言う。

 近年では保存食の在り方が変わり、時間が経っても美味しい食べ物が豊富にある時代になった。

 しかし値段は張る。それ故、一定の稼ぎが得られる冒険者のみが食べられるものだ。

 駆け出しはもっぱら、美味しくない漬物、乾燥させた食用の虫、保存食向けの噛み千切れるか不安な硬い黒パンである。

 四人はこの前のファントム討伐の報奨金が出ていたため、豆類や肉類の入った保存食を多く買っていた。


「なんかいるものか……鉈は? 森だろ? 雑草刈り取ったりするのに居るんじゃね?」

「確かシェリー持ってなかったっけ。そもそも、そんなのは私の風魔法で一瞬よ。要らないわ」

「一応、持ってく」

「そっか。まあ大体は、一年終わりの実習クエストで買っているから、遠出用の準備は殆どが食料かな」


 一年期末が初の遠出実習クエストだったため、大事を取ってリュカの方針から必要になるだろうものをあらかじめ多く買っていた。

 そのため、今回の追加クエストに流用できるため、そこまでお金は必要にならないかもしれない。


「……武器とか防具は?」


 エドモンドの一言に、三人はその場に硬直した。

 一人は危ないクエストになるかもしれないと危惧し。

 一人は上質な杖で魔法をぶっぱしたいと期待し。

 一人はお昼どうしよっかと全く関係ないことを思考する。


「……どうする?」

「私、新しい杖が欲しい! 欲しいわ!」

「お前はダメだ」

「何でよ!」

「新調した杖での魔法の威力を測りたくなるに決まっているから」

「うぐっ」


 いつにもなくエドモンドに事実を指摘され、ばつが悪そうな顔をするアリス。

 さすがは幼馴染と言えよう。行動パターンが読めている。


「そういえば、シェリーの盾が少し凹んでなかったか?」


 エドモンドが思い出したように言った。

 確かに、彼女の盾は入学当初から同じ物を使っていて、劣化も進んでいるように見えた。


「まだ使える」

「仮にも人が住んでない、魔物が多い森への遠出だよシェリー。武装にお金は突っ込んでおいて問題はないと思うけど。直す時間がないから、買わないといけないと思うな」

「……それじゃ、買う」

「えー!? シェリーだけいいなー! 私も杖欲しいなー!」

「また今度ね。今回は我慢して、マジで」


 リュカの真面目な表情に、チッと小さく舌打ちを決め込んだアリスは「分かりましたよーだ」と太々(ふてぶて)しくそんなことをのたまった。

 若干怒りを覚えるリュカだが、これで引き下がってくれるならと妥協する。


「盾は防具屋さんだっけ」

「シェリー、その盾どこで買った?」

「覚えてない」

「そこら辺の適当な店でいいんじゃない?」


 アリスの言葉に同調しようとするシェリーをリュカは止めた。


「とりあえず、防具屋さん色々回ってみて、それから決めようよ」

「……分かった」


 リュカの提案にシェリーが乗ったことで、彼らのブラブラが再開した。

 



*****




 一通り見まわること三十分。

 大通りを外れそうなところまで来て、色々な防具屋で盾を見たが、シェリーがしっくりくる盾はなかった。


「もっと分厚くて、頑丈で、大きいのがいい」


 現在彼女が持っているのはカイトシールドと呼ばれる凧型の、下が細く上に広がるタイプの盾だ。

 そのカイトシールドでも比較的大きめの物をシェリーは使っており、時に鉄壁として、時には攻撃手段として使っていた。


 お店を回ってみると、大体がラウンドシールドであった。

 持ち運びしやすく一度いなして攻撃に転じれる軽い盾は、初級者から上級者まで使用者が多いからだ。

 中にはカイトシールドやタワーシールドといった大き目のものを売っているお店があったが、シェリーの視界を塞いだり軽かったりと、しっくりと来るものがなかったようだ。


「今使っているの、一番丁度いい」

「シェリーの体格にぴったりだしな」

「あれ、お父さん買ってきた」

「……もしかして、特注か?」

「お店見た感じだと、いつも使っているアレよりいい感じのやつはなかったと思うわよ? だから早くお昼にしましょ?」

「そうだなぁ……」


 アリスもお昼欲しさにイライラしてきているし、そろそろ打ち止めするか――とリュカは考えつつ。

 ふと大通り外れの小さな路地に、目線を向けた。

 太陽の光が入りにくく、暗がりが広がっている細い道。

 その先に、ポツンと見える入口が目に入った。


「……おいリュカ。どこ行くんだよ」


 まるで誘われるかのように、細い路地を進みだしたリュカの背中を追いかける三人。

 歩いていった先にあった建物は、いつ崩れてもおかしくはないぐらいに寂れた外見をしていた。

 そして看板に「雑貨屋シェパード」と書かれている。


「……こんなとこにこんな店あったか?」

「記憶にないわね、私には」

「私も」


 王国に住み続けている三人にも、見覚えがないと言われる建物。

 しかしどう見ても、長年ここに居座り続けたかのような外見だ。


「とりあえず、入ってみない?」

「シェリーの求める盾はないと思うが……」

「こういう店に限って、いい魔法具があったりするのよね。乗ったわ、入りましょう」

「……楽しみ」


 三人が乗り気になった様子を見て、「しゃあねぇなあ」と頭を掻きながらエドモンドは了承した。

 扉を開けると、古びた木製の扉がキィっと音を立てる。

 中はモノが溢れかえっていたが、ただ汚いということはなく、ちゃんと通りやすく、それでいて見やすく物が配置されていた。


「おや、見かけない坊やさんたちだね?」


 お店の奥から出てきたのは一人の老婆だった。

 曲がった腰を支えるための杖を片手に、四人へと歩み寄ってくる。


「何かお探しかね」

「あの、このお店って盾ありますか?」

「あるよ。その嬢ちゃん用かい?」


 そうして向けた視線の先には、シェリーが居た。


「そうですけど、何でわか――――」

「ちょっと待っときな。良いのがある」


 リュカの言葉を抑え、裏に消えていく老婆。

 あまりの出来事に、皆その場から動けていなかった。

 裏に下がって数十秒、老婆が持ってきたのは、日ごろシェリーが使っているカイトシールドより、ずっと大きい代物だった。


「これはどうじゃ?」

「なあ婆さん、このサイズの盾を片手で普通に持ってきてるの、おかしくないか?」


 エドモンドの発した疑問は誰もが思ったが、そこを気にする以上に目の前の盾の迫力に圧倒されていた。

 大きさが一メートルを超え、体全体を隠すのも容易なぐらいである。

 それでいて盾に浮かぶ紋章が、魔術的要素と深い歴史のようなものを思わせた。

 シェリーが持ちあげる。


「すごくいい感じ。でも、前のより重い」

「これぐらい大きいと、結構視界が塞がれるんじゃないかしら?」


 アリスの言うことは正しい。大楯の弊害はここにあるのだ。

 視界が塞がれる。それは戦いにおいて重要だ。目の前が見えづらくなり、結果として戦闘に支障をきたす。


 元々視界を塞ぐほどの盾は機動しながら戦うものではなく、大規模編成で使うときに使われるものだ。

 今使っているシェリーの盾も十分見えにくいのだが、そこは使ってきて手慣れたから使えるのであって、初心者では扱えないもの。

 それがより大きくなっている。そして重量がある。それだけで、戦闘への弊害となり得る。

 慣れればいいかもしれないが、今回のダンジョンに持っていくのは時間的にも不可能だろう。


 しかし、そんなアリスの発言を予期していたかのように、老婆がニヤリと笑った。


「嬢ちゃん、その盾に魔力を流してみな」


 シェリーは魔法が苦手だが、魔法の素養自体はある。

 言われるがままに盾に魔力を流し込んだ。

 それと同時に、盾に刻まれていた紋章が青色に輝き始めた。


「これは……!」


 シェリーが驚愕したように声を漏らす。

 それも仕方がなかった。

 盾の裏側が透け、前方が見渡せるようになっているからだ。


「この紋章、見覚えがあると思ったら、古い透過の陣ね」

「詳しいの、もう一人の嬢ちゃん。その通り、その盾は透過の魔法陣が刻まれておる。表からは盾にしか見えぬが、裏からは前方の様子が丸見えというわけじゃ」

「でもこれ、透過だけじゃないわね? 複合魔法陣を作るための痕跡が見えるわ」

「鋭いのう。……その盾には重量軽減の陣も刻まれておる」

「すごい。いつものより少し軽い」


 大きさを考えれば、以前のカイトシールドより軽いのはすごいことだろう。


「消費魔力はどのくらいなの、シェリー」

「ずっと流してると、一日は保つくらい快適」

「二つの魔法を同時に使用してるから魔力消費高いと思ったけど、そんなことないのね」


 シェリーの瞳が輝いている。

 これは買うしかなさそうだ、とリュカは決心し、


「おいくらですか?」


 老婆に語りかけた。

 これほどの代物。並大抵の値段ではないはずだ。

 現在のパーティ資金は二十万ルピィ。一般的な盾の値段が二万ルピィほどなのを考えると、十分に手持ちはある。

 しかし二つの複合魔法陣の刻まれた上質な盾。

 百万ルピィしたっておかしくない、と誰かに言われても納得するレベルだ――と、リュカは思った。


「五万ルピィでよいぞ」


 しかし返ってきたのは、予想外の値段だった。


「……え? ホントですか?」

「それ、何十年も埃被っておっての。処分しにくいし、何より場所を取って邪魔じゃ。だから五万ルピィで良い」

「……えと、それなら五万ルピィで」

「毎度あり」


 心底精々する、と言わんばかりの老婆の表情に、リュカは苦笑いを浮かべながらお金を支払った。

 まさかこのレベルの盾を、通常の物より少し高いぐらいで買えるとは思っていなかったのだ。


「ぉおおおおおおお! 婆ちゃん、この剣すげぇいいぞ! これいくらだ!?」

「ちょっと何これ! この魔法具ヤバい! ヤバすぎるわ! ちょっとリュカ、あんたもこっち来なさいよ!」

「すごく、いい。硬くて、大きい……」


 いつの間にかお店を物色して、ハイテンションになりつつある幼馴染コンビ。

 そして場面によっては問題発言になるだろうシェリーの言葉。

 またカオスになってきたなと、リュカは思わず溜息を零した。


「……少し、お店の物見せてもらっていいですか?」

「いいともいいとも。ゆっくり見ておくれ」


 こんな状況でも、老婆が嫌な顔せずにその一言を言ってくれたのが、リュカは何より嬉しかった。




遅くなりました。

少しお酒を嗜む会議に出席した結果このざまです。


ブクマ・感想・評価など宜しくお願いします^^

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