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五話:健やかな朝とは


 翌日。

 快晴が王都を包み込み、美しい街並みがより一層に輝いていた。

 朝の鐘が鳴り渡り、素晴らしい一日の始まりを予感させる。


「何で起きてこないのよ、あんの馬鹿!」


 ――エドモンドの大馬鹿野郎……。


 諦観。

 リュカは心の中で神に祈る。

 何故、時間にうるさいアリスを待たせてしまうのだろうか。

 寝坊の可能性だって少なからずあるのが、余計にリュカの肝を冷やさせた。


「多分、筋トレ」


 シェリーが坦々とそんなことを言った。

 早朝からいつもエドモンドが筋トレしていることを、リュカはそういえばと思い出す。

 毎朝「ひっひっふー!」とラマーズ法みたいに呼吸しているのが印象的だ。


「引きずって来るわ! ちょっと待ってて!」

「あ、控えめに……ね」


 アリスがぷんすかと、怒りを露わに集合場所にしていた校門から、男子寮の方向へとダッシュする。

 無論、リュカの忠告が届いていることはないだろう。


「多分、時計持って行ってないんだろうな。それか筋トレに夢中になっているか」

「朝から中級魔法、飛ぶ」

「敷地内だから、一応クエスト関係ないし問題ないのはいいけどさ」


 エドモンドのそういった無頓着さは、ある意味見習いたいとリュカは思った。

 あんなに魔法を何度も受けようとは誰も思わない。

 アリスの一撃は並大抵ではないし。

 そんなことをリュカがぼーっとしながら思っていると、


「リュカ」

「え、何?」

「今日、私服なんだね」

「ああ、なるほどね。一年の学期末の実習で、一応アリスのおかげで魔物たくさん倒したでしょ? ようやく衣服にお金回せるようになってさ」


 リュカに母親代わりはいるが、仕送りはない。

 入学金と学費をぽんと校長に手渡し、「あとは頼んだ」と学園長に言っていたのは今でも覚えている。

 そのため一年前までは座学が多く、魔物を倒す実習クエストも少なかったため、アルバイトをしていたのだ。

 しかしアルバイトは学校終わりから寮の門限まで。休みはパーティ内でクエストを受けに行くことが多く、その準備などでお金を使ってしまっていた。

 しかも一年のうちは、王国の近郊にある一定の狩場にしか向かうことが許されていなかったため、準備の費用とどっこいの成果しか得られていなかった。

 生活費を捻出するだけで精一杯だったため、衣類といった娯楽にお金を出す余裕がなく、街に出る際も基本は学生服だったのだ。


「……何度も言った。服買ってあげるって」

「いやまあ、そうなんだけどさ? 一文無しだからパーティメンバーにお金出してもらって服買ってもらうのは、やっぱりおかしいし」


 そういったところは自己責任だ。

 元々の旅で少しの貯金しかしてこなかった自分が悪いのだと、リュカはシェリーに説明する。


「それでも、仲間だから……」


 彼女の言いたいことは分かる。

 仲間なんだから頼ってきてもいいと、そういうことが言いたいのだろうとリュカは察した。


「学生服でも問題なかったし、別に大丈夫だよ。もっと大事そうな場面で頼るかもしれないから、その時に宜しくね」

「……うん」


 シェリーは照れ隠しに前髪を弄りながら、リュカの言葉に反応した。

 ……ふと、シェリーが何かを喋ろうとした――刹那。

 男子寮がある方向からドン! という爆音が轟いた。続いて小さな空気の振動が頬を撫でる。

 それと同時に、チュンチュンと鳥が一斉に鳴きながら羽ばたいていく。

 綺麗な朝は、一気に台無しになりつつあった。


「……ファイアボム、だね」

「今日は初級魔法か。威力は高めだけど、珍しく抑えてるねアリスの奴」

「多分、成績Dが嫌だから」


 昨日も帰る時に気にしていた、とシェリーは続けた。

 

「なるほどね。一応寮にも影響でないレベルにしたか」

「町の中心行くと余計に撃てない」

「威力高めの理由はそういうことか」

 

 納得したようにリュカは呟いた。

 アリスはアリスで、色々と考えているようでホッとする。


 ――――再び轟音。


 次はピシャっと雷撃のようなものが見えた。

 ホッとしていたが、不安が募り始める。

 今のは絶対に中級魔法だろう。


「エドモンド、余計なこと言った」

「よく分かるねシェリー。まあ大体そんなことだろうと思うけど」

「ほんと、エドモンドは馬鹿」


 感情が出にくいシェリーも、この時ばかりは哀れみと蔑みがにじみ出ていた。

 幼い頃からつるんでいるから分かるのだろう。それでいて、忠告をすぐ忘れてしまう脳筋さ故、何を言っても無駄なことも。


 ……それから五分後。


 若干頭が焦げ付いていながらも朗らかに笑うエドモンドと、その後ろでスッキリしたような表情でアリスが校門に来た。


「いやーわりぃわりぃ。時間忘れてたわハハハ!」

「ホントいい加減してよね! ……ストレス発散出来たからいいけど」

「「――――」」


 ――何でこの男、黒焦げで笑っていられるんだろう。

 ――ストレス発散を魔法に向けるな、単位欲しくないのか。


 そんなエドモンドとアリスを見た二人の感想は、そんなものだった。

 ただしシェリーとリュカの心の声は、表に出ることはなかったことも付け加えておく。

 誰かと違って、二人は考えなしに言葉を出す馬鹿ではないということである。


「それじゃ行こうか。と、その前に……」

「エドモンド、ちょっと服着てきて」


 半裸の黒焦げボンバーは人前には晒せない。




キリがいいので短めに。


今日の更新はこれが最後になりそうです。

明日0時過ぎにまた更新します。


ブクマ・感想・評価などお待ちしています^^


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