三話:学園長に会いに行こう
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再び職員室へと戻った四人は、そのまま担任のライルに追加のクエストを受ける旨を伝えた。
やはりか、という先生としての生徒に対する安堵と、またやらかさないでくれよ、という不安が入りまじったような表情に、四人は苦笑いを浮かべた。
そのまま流されるように学園長室へと案内される。
話を付けておいた、とライルは一言添えてそのまま退散していった。
「そういえば学園長と話すのは久しぶりだな」
「半年前にアリスが校庭のど真ん中にサンダーストーム引き起こして以来じゃないかな」
「何で私たちも呼ばれたのか……」
「うるさいわねぇ。いいじゃない。強力な攻撃手段が増えたんだから、パーティとしては良かったでしょ?」
確かにそうなのだが、彼女の振るう攻撃には大きすぎるほどのデメリットも付随してくるため、出来れば自重しろとリュカは思った。
「そもそも何でサンダーストーム放ったんだよ」
「面白そうだったからよ」
「「「――――」」」
これ以上はやめておこうと三人は誓い、学園長室に入ることにした。
とりあえず、とノックを三回。
年を感じさせない張りのある声で「どうぞ」という返事が聞こえた後、ゆっくりと学園室へと入室した。
「よく来たの、お前さんたち」
朗らかに笑う幼女ちっくな女性。
というよりは、年ごろの女の子が立っていた。
彼女こそ、魔物討伐者育成学園『ローランド』の学園であるウォルツ=マーガレット。
三○〇年前に出現した魔物を討伐した勇者パーティの一人と知られる、今では生きる伝説だ。
長生き出来ているのと若さの秘訣は魔力量が多いため、と言われているが、詳しくは分からない。
「まあ座りな。お茶でも飲みながら話でもするかの」
小さく頷きながら四人は座る。
学園がゆっくりとお茶を入れる中でも、全員は彼女の動きを注視していた。
隙がありそうでそんなことはなく、軸がずれていそうな格好でも決して中心がぶれない。
魔力は常に一定量で抑えられており、それが逆に不気味だった。
人間である以上、魔力の歪みはある程度生じる。
それこそ、息をするのに決まったタイミング、決まったテンポ、決まった速度があるかと言っているかのようだ。魔力というのはそれぐらい、人体と密接に関わりがある。
それをまるで機械のように操っている。それこそが正に驚くべきことである。
「お前さんたちはいつも我を見ては緊張する。もう少しリラックスせい」
「……しかし」
「別に取って食おうとしているわけじゃないのじゃ。良いな」
有無を言わせぬ態度に、アリスが先に。
そしてリュカが最後に緊張を解した。
「それで、私たちへの追加のクエストって何があるのかしら?」
学園長先生、ましてや伝説の英雄相手によくそんな口が叩けるな――とリュカはアリスを睨めつけながらそう思った。
しかし学園長は「良いのじゃ良いのじゃ」と笑いながらリュカを抑え、アリスに話しかけ始める。
「さっきばかりにライルの小僧から追加のクエストが欲しいと言われたんじゃがの。実はあらかじめ、お前さんたちが何かやってしまった時用に対策は考えていた」
「さいですか……」
常々問題視されているんだな、とリュカは少し落ち込んだ。
四人の悪名は学園内でも有名である。一人は『破壊神』と呼ばれぶっちぎりだが。
「そしてその内容というのが、ここから西に百キロばかり離れた場所にある、とあるダンジョンの調査じゃ」
「ダンジョン? 西の遠くって言えば、でけぇ森があるくらいだろ?」
エドモンドが言ったことは正しい。
ローランドのあるこのスウェン王国の西側には鬱蒼とした巨大な森林が広がっており、人の住んでいる地域は限られている。
それより遠くには小さな島国があるとされるが、森の下側に伸びる街道を経由した方が行きやすい為、通称『魔の森』は、まさしく人外のみが住まう土地になっていた。
強力な魔物も住んでいるという噂も多い。
「あそこに遺跡なんてありましたっけ」
リュカの知識では、西の巨大な森に魔物が湧いたり、宝箱が出てくるようなダンジョン、ましてや建造物はなかったように思える。
「そりゃそうじゃ。一般には公開していない情報じゃからな」
「いけない気配がする」
学園長の言葉に、目を細めながらシェリーは小さく呟いた。
「別に危険が伴うものじゃない(かもしれない)内容じゃ。大丈夫大丈夫」
「……今、なんか嫌な気配を察しましたが」
「はて、なんのことかのう?」
リュカも目を細めて学園長に問いただすが、朗らかに笑うだけで裏があることは読み取れない。
歳の功といったところか。
「内容も簡単じゃ。今から地図を渡す。地図には――そうじゃな、アリスの現在地を表示させるとするかの」
そう言って小さく指を振るった。
アリスの魔力と学園長の魔力が同調したように見えるや否や、そのまま地図に魔力が集めり、その後表記されているスウェン王国の左下近くに矢印が付いた。
「我とアリスの魔力を同調させて、現在地にマーキングをつけた。ダンジョンにもマーキングがあるから、近づけばマーキング同士が近づく。これで入口を探しとくれ」
広げられた地図には青い矢印が森の中心近くに表示されており、赤い矢印がスウェン王国の中心に描かれている。
『――――』
「……なんじゃ?」
広げられた地図。
――――なんていうか、汚い。
「なんでこんな落書きみたいなんですか?」
「土地ぐにょんぐにょんだぞ、これ」
「国の領土なんてただの丸よ? しかも絶対に正しくない」
「街道がおかしい。海にはみ出てるところもある」
「う、うるさいうるさい! これは我の魔力をマーキングするために、特別な紙と魔法を使って作ってるのじゃ! だから絵は他人に絵は描かせられない! それに…………我は絵が得意ではないのじゃ……」
哀愁漂わせる学園長に、四人は。
――学園長も人の子なんだなぁ。
と安心した模様。
「そ、そんなことはどうでもいいのじゃ! ――それでダンジョンでのやることじゃが、特には何もない。ただ異変があるか調査してほしいだけじゃ」
「異変、とは?」
「何でも良い。空気中の魔力の乱れ、瘴気の発生、強力な魔物が住みついている、何でもよい。分かったことをメモして、帰ってくれば良い」
「魔物は倒していいんだよなぁ?」
「もちろんじゃ。ただし、無茶は禁物じゃぞ」
「ダンジョンに宝があったら?」
「そりゃ持って帰って良いぞ。ただシェリー嬢が望むほどの宝があるかどうかは分からぬがの」
「何よ、楽勝じゃない? それぐらいなら引き受けてあげるわよ」
――馬鹿! 明らかに簡単すぎだ!
リュカは皆を見つめるが、すでにやる気満々だ。
考えなくても分かりやすいではないか。
一般に秘匿されているダンジョン。しかも人外魔境の西の森の奥深くにある。
何が起こっているか分からないから、とりあえずの調査。その場での采配は、概ね君たちに任せる。
――危ない匂いしかしないのに……。
しかし断れそうにもない。何しろ単位がかかっているのだ。
虫が良いのは分かる。
それでも断れないのか?
「リュカよ」
突然の呼びかけに、リュカはビクッと体を震わせた。
リュカの様子に喜んでいた三人も、空気を読んで口を噤んだ。
「お前さんの言いたいことは分かる。そういうのに人一倍鋭いからの。そしてその理由も」
「……知っていましたか」
「まあそりゃそうじゃろ。お前の保護者とは仲が良い。……だからというか、我の言いたいことはじゃ」
そうして学園長は朗らかな笑みを浮かべる。
「――――危険がない、ということはない。魔物討伐者として、死と対峙するのは摂理だからじゃ。ただし、理不尽はない。それだけは安心せぇ」
「……変なことしなければ、いいわけですね?」
「そうじゃ」
「……大丈夫かなぁ」
リュカの一言に。
向かい合う学園長、ウォルツは一層笑みを濃くした。
「大体の障害なら、それこそアリスが居れば大丈夫じゃろうて。それに、シェリー譲やエドモンド。両方とも武術の成績は、それこそトップクラスじゃ。今の段階でも、並大抵の魔物討伐者どもに引けを取らんわい」
そう評価されたアリスとエドモンドは、会心のドヤ顔をリュカに向けた。
表情に感情が出にくいシェリーも、一流の魔物討伐者たる学園長に評価されたからか、嬉しそうに髪を弄る。
――乗せられやすいんだから。
はぁ、とリュカは溜め息を零した。
もはや仲間の雰囲気で答えが出てしまっていたのだ。
諦めたように顔を顰めつつ、
「引き受けさせていただきます。宜しくお願いします」
深く頭を垂らしたのだった。