表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/21

十九話:脱出!

 戦闘が終わり、リュークはしばらくの間、動かなかった。

 否、動けなかったというのが正解だろう。

 そして体から力が抜けたように、その場に座り込む。


「やるじゃねーかリュカ! 今度俺と手合わせしようぜ!

「だから! リュカじゃないって言ってるでしょ馬鹿!」

「ああー! 馬鹿って言った奴が馬鹿なんだからな!?」

「大丈夫?」


 座り込んだリュークの元に、三人が駆け寄る。

 シェリーの言葉に、頷きながらも疲れた表情を見せる。


「久しぶりに外出てはしゃいだから、ちょっと力入れすぎちまった。立てねぇ……」

「俺が背負って帰るさ。あとは任せろ」


 リュークを背負うエドモンドに「サンキュー」と小さくリュークは呟いた。


「それと、皆にお願いがある」

「何よそれ。今回の手柄独り占めにしようとかじゃないでしょうね」

「違う違う」


 アリスの言葉に、苦笑しつつリュークは否定した。


「オレが表に出てきたこと、それをリュカには言わないでほしい」

「……そりゃいいけどよ」

「どうして?」


 リュークの一言に、皆の言葉を代弁したシェリーの一言。

 エドモンドに背負われながら、薄目になっているリュークは静かに答える。


「オレは元々、リュカの居る場所に居てはいけない人間ヤツ。リュークであり、リュカではない。俺の義母(ババァ)にも、それは伝えていた」

「何でよ。別に居たっていいじゃない」

「違う。人間は一つの体に一つであるべきだ。一つの器に二つがいるのは、そもそも人間としてあっちゃならねぇんだ」

「――――」


 リュークの言葉に、誰も言葉を発することはなかった。


「と、言ってもリュカはオレのこと気付いていないし、俺としても変なことになって消えたくない。今の状態が丁度いいのさ。……なあ、頼むよ」


 情けなさそうに物を言うリュークの姿は、本質は違えどリュカの姿そのものだった。

 そんな彼の様子を見て、


「……分かったわよ。だからそんなリュカみたいな頼りない顔浮かべないでよ。その顔はリュカだけのものだし」

「まあ俺としてもそこらへんはどうでもいいんだ。お前と手合わせがしたい!」

「私も。宜しく」

「――ったく、自分勝手な野郎ばっかだ」


 ……だけど、それがリュカにとっては丁度いいかもな。

 誰にも聞こえないようにリュークは呟く。


 そしてリュークは三人が騒ぎ始める中、魔法で偽装・・・・・されている壁の一角を見やった。

 神聖魔法は浄化の力を司る。その力を持つものは、魔の力――言ってしまえば、魔法などの偽装や力の探知が簡単に出来てしまう。

 それがいかに上級な魔法使いであったとしても、だ。


 偽装された壁の奥には、一人の幼女がニコニコしながらこちらに手を振っていた。

 生きる伝説。彼らをこの地へ赴かせた張本人――ウォルツ=マーガレット。

 

 ――あのババア。オレの力に気付いてやりやがった。


 魔人を滅ぼすには神聖魔法の力しか役に立たない。

 彼女はリュカの奥深くに潜むリュークのことに気が付いていた。


 といっても、それは初見で見抜いたというわけではなく。

 彼女の母親であるマリアの発言から、うすうす気づいていたという背景があるのだが。


「気にくわね~が……これもオレリュカのためか」

「どうしたのよ、リューク。ていうか、まだリュカに戻らないの?」

「――――」


 そう、本来なら危険が去ればリュカに戻るはずなのである。

 なのに全く元に戻らない――と、いうことは。


「……すまね~が、エドモンド。頑張ってくれ」

「あ? 何を言って」


 ――刹那。

 激しい地響きが遺跡を襲う。

 轟々と石造り通路にひびが入っていき、そして天井がぐらつき始めた。


「何よこれ! 意味わかんないんですけど!」

「あの魔人の封印が解かれたこともあるけど、魔人が居なくなって役割がなくなれば、この封印してた場所も崩壊するように魔法を組んでたんだな」

「何よそれ! これを造った奴をとっちめてやるわ!」


 キーキー言い出す彼女を流し目つつ、先ほど学園長が居た場所をもう一度見やる。

 既に彼女の姿はなく、脱出出来ていることを察した。


 一緒に逃がしてくれればいいのに、とリュークは思いつつ、魔法の行使とそれまでの疲労、さらにリュカの意識の覚醒が近くなってきたことを察し、目を瞑る。


「あとはここを脱出するだけ。頼むぜ、お前ら」

「ちょっと! アンタどうにかしな――――」

 

 アリスのそんな一言は最後まで聞き取れることなく。

 リュークの意識は再び奥深くへと戻っていった。



*****




「……んぅ?」


 リュカが目を覚ますと、眼前には茜色が広がっていた。

 ゆっくり体を立たせる。直後に体に鈍痛が響いた。


「っぐ……」


 魔人に吹き飛ばされた際のダメージが残り、主に背中へ痛みが走る。

 体を起き上がらせるだけで、体の節々が悲鳴をあげていた。


 ――ここは、テント張ったところ、かな。


 ふと横を見ると、午前中に張ったテントがある。

 そして周りを見渡すと、ボロボロになって、死んだようにテントの周りに寝転がっている仲間たちが見えた。

 一人はボロボロになったローブを涙混じりに眺めており、一人は無心に足をブラブラさせ、一人は傷がついている大楯を綺麗に拭っている。


「三人とも、大丈夫だった?」


 リュカが声をかける。


「----」

「……えっと、そんなに見つめられても何も出ないよ?」

 

 じっと見つめる三人に、リュカは申し訳なさそうに言葉を発した。

 早々に魔人の攻撃を受け、意識を失ってしまった。そんな役立たずを責めるような視線に思えて仕方がなかった。

 しかし彼のおどおどした様子に、三人は小さく笑う。


「そうよね、そうじゃないとリュカじゃないわね」

「ほんとな。やっぱり何ていうか、落ち着くぜこっちの方が」

「おはよう、リュカ」


 三人とも同じような、面白可笑しそうな表情とよくわからない発言に、リュカは頭を捻らせた。


「三人とも、僕を怒りたいならもっとはっきり言ってよ」

「怒る? 何でよ」

「だって、魔人と戦ってそうそうにやられちゃったというか――ていうか、魔人結局どうなったの?」


 リュカの一言に、それまで笑みを浮かべていた三人が硬直した。

 そのままばっ、とリュカから顔を反らし、顔を寄せて何かを喋り始める。


「どうするのよ。本当のことリュカには言えないでしょ」

「そりゃそうだけどよ……どうするんだよ」

「……私に任せて」

「え、本当に大丈夫なのシェリー?」

「ちょっとちょっと! 三人でなに怪しい会話してるのさ!」


 ところどころ聞こえる彼らの内緒話に、リュカが割り込んだ。


「リュカ、聞いて」

「……何さ、シェリー」

「あれ見て」


 シェリーが指を指した方向。

 そこにはダンジョンへ通じる遺跡があった。


「あれ?」


 そう、過去形だった。


「何か崩れてない!? あれ!?」


 リュカが青褪めた顔で遺跡に駆け寄り、そしてその入口を見やる。

 ダンジョンは地下深くにあり、そのため入口に入るとすぐに地下へ通じる階段となっていた。


「な、なんだこれ……!」


 階段が瓦礫で埋まっていた。

 遠くなんて見えやしない。明らかに落盤したかのような惨事だ。


「どういうこと!?」

「アリスの魔法で遺跡ごと敵を倒した」

「……ちょっとアリスゥ!? 何やってんの本当に!?」

「えっ、アタシに矛先向けてる!?」


 シェリーの爆弾に、思わず声を荒げるリュカ。

 そこに一切の疑いの思惑はなかった。完全にアリスの仕業だと断定している。

 

「ねぇ言ったよね!? 問題おこしたら単位なしだって!? どういうこと!?」

「ちょっと! アンタは何で事実関係も調べず私を疑っているの!?」

「二人の力じゃ遺跡をぶっ壊すことなんてできやしないだろう!?」


 確かに、これほどの影響をシェリーやエドモンドでは与えることは出来ないので、その事実も拍車をかけている。


「ねぇどうするの! 僕たちの単位どうするのさぁ!?」

「~~~~ッ! ――ファイアボムッ!」

「何でだぁあああああ!?」


 魔人と戦った後にもかかわらず、結局変わらない日常に戻っていた。

 エドモンドが呆れ顔でその光景を目に焼き付ける。

 一方のシェリーは、その様子を見て、


「みんな無事で、良かった」


 リュカが焼かれる姿を見ながら、そんなことを呟いた。




無事よかったね(白目)


次回、エピローグ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ